412話 ヒマワリの迷路の秘密
「くっ! ここも行き止まりか!」
意気揚々とヒマワリの迷路に挑戦したのはいいのだが、想像以上に難易度が高かった。
凄まじく入り組んでいるうえに、時間経過で迷宮の構造が変化するというおまけが付いていたのだ。聞いた話では5パターンからランダムで変化するそうだが、これが思っていた以上に厄介だった。
それまで覚えていた道順が無駄になるし、前のマップと今のマップがごっちゃになって、訳が分からなくなるのだ。
「やべー、もう完全に迷子だ……」
「モグ……」
もう何度目か分からない行き止まりである。
「ヤー?」
「……仕方ない。ファウ、頼んだ」
「ヤヤー!」
「フマ!」
「ああ、アイネも行ってくれ」
「フーマー!」
俺が頷くと、ファウとアイネが勢いよく飛び出していった。2人は10メートルほどの高さから周囲を見回している。
ズルい? 俺もそう思う。だからこそここまでは飛行戦力2人を温存していたんだが、もう15分以上迷っているしな……。
そうして空から道を探してもらって進むこと5分。
「おお、あれがゴールか。ようやく攻略出来たぜ」
トップタイムは2分程度らしいから、10倍もかかった計算だ。この分だと、最速タイムを出してる連中はマップとかを完璧に揃えたうえに、全速力で駆け抜けたりしてるんだろうな。
マップはともかく、移動速度で劣る俺には勝てそうもなかった。
まあ、楽しんだ者勝ちってことにしておこう。
「ゴール!」
「ペペーン!」
「クマー!」
みんなで一緒にゴールを潜る。皆であーでもないこーでもないと相談しながら迷路を進むのは楽しかったし、参加賞のジュースをもらって帰るか。
そう思っていたら、リックが何かに反応した。
「キキュ!」
「どうした? そっちは出口じゃ――うん?」
「キュー!」
今俺たちがいるのは、ヒマワリの迷路の中央にある円形の広場だ。中央に大きな樹が生えており、それなりに広い。
ここから迷路の上を渡るための橋を通れば、すぐに村へと戻ることができる。
だが、リックは橋とは真逆の方向へと走っていってしまった。何か発見したのかと思ってそちらを見ると、樹の陰に何かがあるのが見える。
「ここは……露店ですか?」
「おや、これはこれは。いらっしゃいませ。化石屋へようこそ」
大きな木の陰に隠れるようにゴザが敷かれ、そこには1人の老人が座っていた。魔術師風のローブを着込んだ、モノクルが似合う白髪の老人である。あだ名をつけるなら「教授」、もしくは「老師」だろうか。
にこにこと笑うその老人の前に並んでいるのは、様々なサイズの飼育ケースであった。中にはモルフォ蝶やヘラクレスオオカブトなどの珍しい昆虫が入っている。
「ここって……昆虫を売っているんでしょうか?」
「ええ。そうでございますよ。お客様は化石をお持ちのようだ。ぜひ、見て行ってください」
「は、はあ」
化石屋という名前の昆虫屋だった。紛らわしい。
にしても、こんなお店の情報、あったか?
アリッサさんから買った情報にも、クリスと交換した情報にもなかったはずだ。どっちもが伝え忘れるってことは考えにくい。
つまり、何か特別なイベントということなんだろうか?
とりあえず色々質問してみよう。
「昆虫以外には何か売ってます?」
「他にはケースも販売しておりますよ。おひとついかがでしょうか?」
「へー、もしかして、大きなサイズのケースもあります?」
「勿論でございますよ」
老人が見せてくれたリストの中には、特大サイズの飼育ケースもあった。直径5メートルもあれば、シーラカンスを飼うことができそうだ。
多分、古代の島に行く前にここにきて、特大サイズの飼育ケースを買っておくのが正規のルートなんだろうな。
「しかも、転移陣があるやん」
老人の後ろに目をやると、そこには白い石柱が立っている。これに関しても特に情報はなかったはずなので、何らかのトリガーによって新たに出現したということなんだろう。
このヒマワリの迷路は、パーティ別のミニゲームである。挑戦しているパーティで何らかの条件を満たしていれば、ゴール地点に老人と転移陣が出現すると思われた。
「えーっと、このお店を利用するための資格って、何かあります?」
「ええ! 当店は、琥珀か化石をお持ちの方しかご利用になれません!」
最初に化石云々と言っていたのでそうではないかと思っていたんだが、やっぱりそうだったか。化石を所持しているかどうかで、このお店が見えるかどうかが変わるんだろう。
どこで採取できるのかは教えてもらえなかったが、どうやら古代の島ではなく、本島の方でも採れるらしい。
これは、他にも隠されたお店がどこかにあるのかもしれないな。それこそ、古代の島に行くためのアイテムを売っていたり?
他の村のミニゲームの情報をもっと詳しく集めよう。ここと同じように、何か秘密が隠されているかもしれないからな。
探してみる価値はあるだろう。ここへは転移陣を使えばいつでも来られるようになるようだし、いつでも飼育ケースの補充が可能になった。いやー、俺の採取魂がうずくぜ。
「じゃあ、特大の飼育ケースをください!」
「はい、ありがとうございます」
とりあえず上限いっぱいまでケースを買い、転移陣を起動させる。もし本島にも転移陣がたくさんあるとしたら、琥珀が足りなくなるかもしれない。
「また古代の島に掘りに行った方がいいかもしれんな」
「モグモ!」
「その時は採掘を頼むぞ」
「モグ!」