410話 蓮の池
「おー、こりゃまた綺麗な場所だな!」
「ヤー!」
「フマー!」
ホームでの休憩を終え、バザールを出発して1時間。
俺たちはバザール西の森の中にあるという池に到着していた。聞いていた通り、大きな蓮の葉が水面に浮かび、薄桃色の蓮の花が咲き誇っている。
ため息が漏れる程の美しさだ。
「ヤヤー!」
「フーマー!」
そんな神秘的なこの池に、ファウやアイネが恐ろしいほどにマッチしている。蓮の花に腰かけるファウなんて、絵になり過ぎて見入ってしまった。
「ファウー、こっち向いてー」
「ラランラ~♪」
「いいね~」
カメラマン気分で、ファウのスクショをバシバシ撮りまくった。蓮の花の中で楽器を演奏する妖精さんだぞ?
恐竜のスクショも撮りまくってしまったが、やっぱり可愛いモンスのスクショもいいものなのだ。
「アイネもいいねぇ」
「フマ?」
白い髪を棚引かせながら睡蓮の間を飛ぶアイネも、幻想的なうえに可愛いという超絶コンボをかましてくる。水面から立ち上る僅かな霧が、これまた良い演出になっているのだ。
「クママとドリモは……」
「クマ~?」
「モグ?」
「……他に良い場所があったら撮ろうな」
この場所だと女の子たちがいいかもしれない。
ルフレも連れてくればよかったかな? ペルカと入れ替えようか迷ったんだけど、レベリングするためにペルカのままできてしまったのだ。
「ペン?」
「なんでもないよ。それよりも、水中の探索は頼むからな?」
「ペペン!」
俺はとりあえず図鑑を埋めちゃいますか。この池にはここだけでしか確認されていない動植物が、何種類かいるらしいのだ。
「えーっと、まずはこのスイレンだろ。あと、大きいのはオオオニバスだって話だが……」
池の中央付近に浮かぶ直径2メートルくらいありそうな巨大な蓮は、オオオニバスという珍しい種類であるらしい。まあ、確かにこんなデカい蓮は見たことがないもんな。
「お、メダカ発見。あっちはシオカラトンボか」
腰くらいの深さの池を歩いて移動して、動植物を鑑定していく。
「ペペン!」
「こいつはゲンゴロウじゃないか! よくやったペルカ」
「ペーン!」
モンスたちの助けも借りて、事前情報で確認されているものはほぼ登録し終えただろう。クママの昆虫誘引スキルも大活躍だ。トンボとかがバンバン近寄ってくる。
残りは1種類だけだった。
「あとはバシリスクか……」
バシリスクっていうのは石化の邪眼を持った蜥蜴の怪物――ではなく、水面を走ることが可能な珍しい蜥蜴のことだ。リアルでもちゃんと存在している種類である。
「よし、みんな少し隠れるぞ」
「モグ」
「クマ」
「いいか、水面をよーく見るんだ。小さい蜥蜴がピャーッと走るからな」
「ペン」
「キュ!」
そして、俺たちは全員で水辺の草の陰に身を隠し、池をじっと観察した。こうしてジッとしていると、隣にいるモンスたちの息遣いもハッキリと感じられる。
さすがリアルさが売りのVRゲーム。ちゃんとモンスたちの呼吸まで再現されているとは。
ファウやリックの呼吸は小さい。ほとんど聞こえない。
ペルカやドリモも、意外にも静かな呼吸だ。野生のなせる業なのだろうか?
ただ、同じ動物タイプのクママの息は結構デカいけどね。鼻で息をするたびに、目の前の草がピロピロと動いている。
あと、アイネも意外と呼吸が煩い。どうも、みんなで隠れるという行為が楽しく、テンションが上がって呼吸も荒くなってしまっているようだ。
フンスフンスという荒い鼻息の音が聞こえている。
そんなモンスたちを見てホッコリしていたら、不意にアイネが声を上げた。
「フマ!」
「もしかして見付けたのか? どこだ?」
「フマフマ!」
「え? どこ?」
俺が見つけられないでいたら、アイネが草むらから飛び出していってしまう。
「フーマー!」
進化して飛行速度が上がったアイネは、まさにギュンと加速して水面スレスレを飛んで行く。その向かう先には、水面を高速で移動する何かの影があった。
結構遠かったが、ちゃんと鑑定できている。バシリスクだ。
「いたー! よくやってくれたアイネ!」
「フマフ――フギュッ!」
俺が褒めたことで調子に乗ったのか、アイネはバシリスクを捕まえようとして、失敗してしまっていた。
バシリスクを捕まえようと伸ばした手が水面に引っかかり、バランスを崩したのである。大きな水柱があがり、アイネが池に落下した。
「アイネ! 大丈夫か!」
「フマー……」
よかった、溺れてもいないし、ダメージもなさそうだ。結構な勢いだったからな。
「池の探索も終わったし、次はこの南西にあるっていう農村にいこうか」
「フマ!」
自分の頭を風魔術で乾かしているアイネを抱きかかえて、俺は次の目的地を思案する。
その農村にはイヌとネコがたくさん飼われており、村の中心には花畑があるらしい。恐竜や昆虫が男の子用だとすれば、花と可愛い動物が女の子用なのだろう。
どんな村なのか、今から楽しみである。
イベントトリケラのサイズが間違っていたので、5メートルから8メートルに変更しました。
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