41話 クママ
新しく仲間となったハニーベアのクママ。その所持スキル、養蜂をどうすれば生かせるのか。まずは情報収集だ。
掲示板で簡単に調べたら養蜂箱というのが必要らしいのだが、それの入手方法がいまいち分からない。そもそも養蜂を取っているプレイヤーも少ないようだし。
木工で作るか、第3エリアの町で買えと書いてあった。サクラは木工を持っているが、作れないらしい。首を横に振っている。
今すぐ第3エリアに行くのも無理だ。なので、農業ギルドかプレイヤーズショップで買うか、木工持ちのプレイヤーに作ってもらう必要があった。
スキルはこんな感じだ。
愛嬌:相手が低確率で行動を止める
大食い:食事でHPが僅かに回復する。1日2食必要
嗅覚:鼻が良く、匂いに関する行動にボーナス
栽培:樹木以外の植物を育てることが可能
爪撃:爪による攻撃が可能
登攀:木や崖を上ることが得意
毒耐性:毒状態になりにくい
芳香:良い匂いを発して生物を引き寄せる
養蜂:養蜂箱を使って、ハチミツを生産する
ハニービーからは栽培、毒耐性、養蜂を。リトルベアからは嗅覚、爪撃、登攀を引き継いだらしい。さすがにハニービーの毒針などは引き継げなかったようだな。
芳香が養蜂を補助してくれるらしいのが嬉しいね。ただ、大食いのせいで1日2食か。忘れんようにしないと。
あと、栽培のおかげで畑も手伝ってくれそうだな。助かるぜ。多分、蜜を取る花を育てるための技能なんだろう。
そういえば、ギルドへの通り道にルインさんの店がある。ついでにクママの装備を見せてもらおうかな。既製品でサイズが合えばいいんだけど。
「こんにちは」
「おう。ご活躍じゃねーか白銀!」
「ちょ、その呼び方なんですか!」
「はっはっは。すまねーな。ユート。で、今日は武器か? 防具か?」
「防具です。こいつが装備できそうな防具は有ります?」
「ほほう。初めて見るモンスだな」
俺も調べてみて分かったが、ハニーベアは一昨日発見されたばかりらしい。あのアミミンさんが俺より一足早くハニーベアを卵から孵して、自分の掲示板に情報を載せたみたいだった。
テイマーじゃなければ知らなくても仕方あるまい。
「何か希望はあるか?」
うーん。特にはないな。いや、待てよ、1つだけあった。
「赤はやめてください」
「赤にしたいじゃなくて? 赤が嫌なのか?」
「はい。だって、こいつに赤い服とか着せたら……。ま、まあ色々あるんですよ。なんで、赤色をしてなければ何でもいいです」
「そうか」
俺の言葉にルインさんが考え込む。そして、3つの装備を出してきた。
「これは小学生プレイヤー用に頼まれて作ったんだが、色々あってキャンセルになってな」
「色々?」
「……なんでもNPCショップで万引きをしようとしたあげく、注意したプレイヤーを逆恨みして粘着して嫌がらせをしたとかでBANされやがったんだ。迷惑な話だぜ」
「それは災難でしたね」
「お前さんのローブと色も合ってるし、どうだ?」
それは紺色に近い群青色をしたジャケットと、赤と緑のタータンチェック柄のシャツ、そして灰色のアスコットタイだった。インナー、タイはアクセサリ扱いになるのでクママでも装備できるだろう。
「験はあまり良くない品だが、能力は悪くないぜ。訳あり品だから安くしとくし、どうだ?」
「いいですねこれ」
というか、俺の装備より断然良いものだ。
名称:ドッグジャケット+
レア度:2 品質:★7 耐久:150
効果:防御力+16、(腕力+1)
装備条件:体力6以上
重量:3
名称:ドッグシャツ+
レア度:2 品質:★7 耐久:150
効果:防御力+7、(腕力+1)
装備条件:体力4以上
重量:1
名称:ドッグアスコットタイ+
レア度:2 品質:★7 耐久:150
効果:防御力+4、(腕力+1)
装備条件:体力4以上
重量:1
「凄いじゃないですか」
「おう。自信作よ」
「装備するだけで腕力が上がるんですか? でもこの(腕力+1)は何だろう?」
「そりゃあセットボーナスだ。これはシリーズ作成で作ったシリーズ品だからな。この3種を同時に装備すると、そのボーナスが付くのさ」
「腕力が+3されるって、かなりのことですよ」
「本来は3つで27000Gなんだが、13000Gでいいぜ?」
「ええ? 半額で良いんですか?」
「死蔵しておくよりはましだからな。それに赤字にはならねーよ」
「欲しがる人いそうですけど」
「能力だけ見りゃな。だが、サイズがネックでよ。子供サイズの装備品は中々売れねーんだ」
このゲーム、防具にはサイズ自動調整機能があるが無限に伸縮するわけではない。子供サイズ、S、M、L、大型サイズ、魔獣型など、様々なサイズが存在し、個々に装備可能なサイズが違っている。因みに俺はS、Mが装備可能だ。
中でも、子供サイズは需要が少ないらしい。小学生プレイヤーか、小型のモンスしか装備できないからな。
「なるほど。まあ、俺にとっては嬉しいことなんですが……。よし、買っちゃおう!」
こんな良い装備が半額で手に入る機会なんて、中々ないだろうし。俺はお金を払うと、早速クママに装備させてみた。良かった、ステータス操作で自動的に装備できた。アスコットタイの巻き方なんか分からないからね。
「おお、クママ格好いいぞ」
「クマー」
クママが一気にイギリス紳士風だ。紳士のくせに下半身丸出しだって? そこは仕方ない。どうやら下半身系の装備が身に着けられないようだからな。
ついでに俺の装備も追加しておいた。レベルが上がって腕力と体力の合計が増えたからね。
名称:ドッグシャツ
レア度:2 品質:★4 耐久:150
効果:防御力+5
装備条件:体力2以上
重量:1
クママのと違ってこっちは染色で色を変えてない灰色のままだし、ワイルドドッグの毛皮だけで作られた低品質の物だけどね。値段は800Gでした。ローブの下に装備できるので、嬉しい装備である。
その後、農業ギルドにも行ってみたんだが、養蜂箱は手に入らなかった。手持ち6000Gで足りないとかいう事ではなく、買うにはギルドランクが2つ足らないらしい。
次に向かっているのがソーヤの錬金術店だ。彼自身は木工を持っていなくても、知り合いの生産者を紹介してもらえるかもしれない。
「ソーヤ君、調子どう?」
「あ、ユートさん。ぼちぼちですね」
相変わらずのショタエルフ。俺も美形のはずなのに、ソーヤ君には完全に負けているな。何でだ? 内面からにじみ出るものの差か?
「じ、実は探してる物があってさ、ソーヤ君に心当たりないかと思って来たんだけど」
「何をお探しです?」
「養蜂箱なんだけど」
「養蜂箱ですか?」
「ああ、実はこいつが養蜂スキルを持っててさ」
「クマッ!」
「新しいモンスターですか? かわいいですね~」
ソーヤくんがクママの頭を撫でながら、申し訳なさそうに頭を下げる。
「すいません、僕も木工を持ってますが、まだ作れません」
「そうかー。じゃあさ、木工系の職人で誰か知り合いいないかな?」
「知り合いの生産者に聞いてみましょう。僕も興味ありますし。ちょっと待っててください」
ソーヤ君はそう言うと、誰かにフレンドコールをかけてくれた。
「直ぐに来るそうです」
「え、いいの?」
「はい。彼女も養蜂箱には興味があるそうですから」
そうしてしばらくソーヤ君と話したり、クママを愛でたりしていると、近づいてくる女性がいた。まっすぐこちらに歩いてくる。どうやら彼女がソーヤ君のフレンドのようだな。
緑のポニーテールのヒューマンだ。装備は布系の服装備で至って軽装だが、生産職ならこんなものなのかね? いや、俺だって人のこと言えないけどさ。
「ソーヤっちこんちは! そっちのお兄さんが養蜂箱を探してる人?」
「はい。ユートさん、紹介しますね。ウッドカッターのアシハナさんです」
「こんにちは! あたしアシハナ! よろしくね!」
「こんにちは。俺はテイマーのユートです」
アシハナは俺に挨拶しつつも、その視線は完全にクママに向いている。
「きゃー、この熊さんかわいい!」
「俺の従魔だ」
「お名前は?」
「クママ」
「良い名前! うーん、よろしくねクママちゃん!」
「クマー」
「あーん、ヌイグルミみたい!」
どうやらクママはアシハナのツボに入ったみたいだな。抱き付こうと悪戦苦闘しているが、フレンドじゃないせいでハラスメントブロックが発動している。見えない壁が邪魔をして、クママに抱き付けないでいた。
「この壁邪魔っ!」
「仕方ないでしょうアシハナさん」
ソーヤ君が宥めるが、効果は無かった。アシハナはその場で地団駄を踏んで悔しがっている。
「むー! ねぇ、ユートさん!」
「なんだ?」
「フレンドコード交換しよう? ね? いいでしょ?」
こいつ、クママに抱き付くためだけに、よく知らない俺にフレンド申請してきやがったぞ。まあ、構わないかな? 悪い奴には見えないし。まだ知り合いも少ないからな。
「分かった」
「ありがとっ! はい、これ私のフレコ!」
「はいはい」
「早く! 早くしてよ~!」
「ちょっと待てって。ほら、交換完了だ」
「きゃーん! クママちゃんモフモフ!」
「クマー!」
アシハナは次の瞬間にはクママに飛びかかり、そのモフモフを堪能していた。ぎゅっと抱きしめ、まさにヌイグルミ扱いだ。
差し出した俺の右手はどうすれば良いのだ。
「す、すいませんユートさん。彼女、腕はトップクラスだし、悪い人じゃないんですけど。何というか、自分に正直なうえ、落ち着きがないもので」
「いや、ソーヤ君は悪くない」
それに、腕はトップクラスって言ったか?
「もしかして、有名プレイヤー?」
「はい。ユートさん程じゃありませんが」
「え?」
「え? ですから、ユートさん程じゃありませんが……あ。すいません。何でもないです」
何かを察してくれたのか、ソーヤ君は有名云々の話は止め、アシハナのことを説明してくれた。
アシハナは木工職人でも特に有名なプレイヤーで、攻略組などが彼女に武器を作ってもらいたいと、こぞって依頼してくるレベルらしい。
そんな凄いプレイヤーだったのか。
それにしても、そんなプレイヤーより有名だと? 馬鹿な。はははは、きっとソーヤ君の勘違いだよね?
「クママちゅあーん!」
「ク、クーマー!」
本日、作者のもう一つの作品「転生したら剣でした」の1巻が発売されます。
そちらもぜひよろしくお願いいたします。




