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406話 ●リスvs○アンモナイト 1R1分8秒・触手固めで1本

 ペルカが何かに襲われてから30分。


 俺たちは岸から釣り糸を垂れている。


 最初はペルカに噛みついた犯人を釣り上げるつもりだったんだが、途中からは普通に釣りになっていた。


 いや、俺たちは悪くない。この池が悪いのだ。何せ、とんでもない生き物が釣れてしまう。


「よっしゃ! またきたぞ! 今度は何かなああぁぁぁ? こ、こいつは……!」


 今もまた、驚きの獲物を釣り上げていた。


「モグ?」

「ちょ、ドリモ! 危ないかもしれんから触るな!」

「モグー」

「お、お前、よくこれをそんな風に持てるな。鷲掴みじゃねーか。好きな俺でもちょっと怖いのに」

「モグ?」


 俺が釣り上げたのは、魚ではない。まあ、遠目から見たら、分厚い鱗を持ったプレコ系の魚に見えなくもないか?


 だが、近くによればそうではないと分かるだろう。昆虫のような甲殻に、顔の左右についた巨大な目。そして、触手のような突起が前方に二つ飛び出し、とてもではないが普通の生物には見えない姿だ。


 知識がない人が見たら、エイリアン的な生物だと勘違いするかもしれない。それくらい異様だった。


 だが、俺のような古代生物に興味がある人間であれば、こいつの正体を知らないはずがないだろう。古代の海の生き物と言えばこいつというくらい、特定の層には有名な生物なのだ。


「アノマロカリス、ゲットだぜ!」

「モグモ!」

「あ! 渡さなくていいから! マジで! 押し付けんなって!」


 まさか、恐竜、三葉虫に続き、こいつに出会えるとはね! メチャクチャ気持ち悪いけど、今は興奮の方が勝っている。


「この池は海とか関係なく、古代の生き物が釣れるっぽいぞ」


 ゲームならではのご都合主義であるが、今は感謝だ。


「今度はもっとデカいやつを――」

「ギキュー!」


 だが、再び釣り糸を垂らそうとした俺の耳に、首を締められたオウムみたいな悲鳴が聞こえてきた。


「リ、リック? お前何やってんの!」

「キューキュキュー!」


 リックがアンモナイトの触手に絡みつかれて、地面の上でじたばたともがいている。


「キュー!」


 どうやら、さっき釣り上げてケースに入れておいたアンモナイトにちょっかいを出して、逆襲を食らったらしい。


「ギュー!」

「あー、もー! 大惨事じゃないか!」


 アンモナイトの持つ無数の触手がリックの体に巻き付き、粘液まみれである。リスの触手プレイとか、誰得だよ!


 触手を振り解こうとリックが暴れるせいで、より粘液が全身に絡み、さらに泥も付着してしまっている。まるで大掃除後の雑巾状態だった。


「ほら、今ほどいてやるからちょっと待て」

「キュー……」

「ぬぐぐ……くぬぅ!」

「キ、キキュー!」


 力がかなり強い。まあ、タコとかイカの触手も、意外と厄介だからな。フリスビーくらいのサイズのアンモナイトでも、甘く見てはいけないのだろう。


 無理やり引っ張ると、触手にある吸盤が吸い付いてしまうようだ。しかし、1本1本引き剥そうとしても、次から次へと触手がリックへと襲い掛かる。


 これは、アンモナイトを倒してしまうしかないか? 一応何匹か釣れているし、ここで倒してしまってもまた釣れるだろう。倒せば古代貝の身という食材が手に入ることは分かっているのだ。


「でもなぁ……」


 こいつは、釣り上げたアンモナイトの中でも最大サイズの個体である。だからこそケースに入れていたのだ。正直、倒すのは勿体なかった。


「ふむ……」

「キュゥー」


 アンモナイトに絡みつかれるだけだったら別に死ぬわけじゃないしなーと思いながらリックを見たら、潤んだ瞳で見つめられてしまった。小さな手を胸の前で組む、あざといポーズまでしやがって。


「……もうちょっと、頑張ってみよう」

「キュ?!」

「ああもう! 暴れるなって! 自棄になるなよ!」

「キキュー!」


 そうしてリックの救出を開始してから5分。ようやく触手をはがし、リックを助け出すことができていた。


「キキュキュキュキュ!」

「あーっ! 近くで水を飛ばすなって!」


 水で洗ってやったら、目の前で体をブルブルしやがった。こいつめ! すぐに助けなかったことを根に持ってやがるな!


「お前が悪戯したことがそもそもの原因だろうが!」

「キュ!」

「もうよしとけって」


 その後、リックは再びアンモナイトを睨みつけると、ボクサーのようにファイティングポーズを取りながらその周囲を華麗なフットワークで回り始める。


 時折ジャブをシュシュッとシャドーで繰り出し、未だに衰えぬ闘志をアピールだ。前も同じ姿を見たことがある気がする。


「お前、シャドーボクシング好きだよね」

「キュ!」


 モハメド・リスってか? リスのように舞い、リスのように齧るがキャッチフレーズだ。


「うん。そのボクサー、絶対弱いだろうな」

「キキュ!」

「次こそは! じゃねーよ! そのガッツポーズ止めろ!」

「キキューキュー♪ キキューキュー♪」

「アリじゃなくてロッキーだった!」

「キューキュキュー♪ キュキューキュ~キュ♪」

「3の主題歌まで! 運営に絶対ロッキーファンがいるぅ! リスが虎の歌を口ずさむな! 円らな瞳をしやがって! どこがタイガーだ!」


 なんかメチャクチャ疲れた。とりあえず、リックにはケースの中の生き物に悪戯しないように言い聞かせておかんとな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 送還しちゃえば良かったんじゃ……?
[気になる点] リスのように齧る=弱い、は無いと思います。 [一言] 昔、かのマイク・タイソンが対戦相手の耳たぶを噛み千切って、反則負けになったという事件がありまして ・・・ タイソンは弱くはなかった…
[良い点] 406話 再度虫とり少年から釣りキチ少年にチェンジした白銀さん、夏休み満喫してますね。 アノマロカリス、鷲掴みドリモ漢らしい。 化石からの推測で結構デカいらしいから最大サイズの飼育ケース…
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