403話 アリッサさんに連絡
「いやー、この森すげーなー」
まずモンスターが一切出現しない。そして、かなりの種類の動植物を図鑑に登録することができていた。
シオカラトンボやカブトムシみたいな普通の昆虫に始まり、ヘラクレスオオカブトやモルフォ蝶といった明らかにレアそうな昆虫も発見できたのである。新種が10種類以上発見できただろう。
しかも、昆虫の楽園かと思っていたら、それだけではなかった。動物も植物も、多くの種類が生息していたのだ。
イリオモテヤマネコとかヤンバルクイナとかガラパゴスゾウガメとか、地名が入ってる動物までいるのはどうなの? まあ、珍しい動物を全部集めただけなんだろうが。
もっと子供の頃にこのゲームをやりたかったぜ。まあ、今も十分楽しいんだけど。
図鑑の昆虫ページが8割くらいは埋まり、動物、植物のページも半分以上が埋まった。
飼育ケースはほぼ使い切ったね。どうやら昆虫以外にも、爬虫類や小型の動物、植物なら入れることができるらしい。ゴライアスカエルにナキウサギなんかも捕まえてみた。現実だったら絶対に飼えない生き物だもんな。
ジャイアントウェタっていう、仔犬くらいのサイズがあるコオロギ似の超巨大昆虫もいたんだけど、さすがにこいつは捕まえる気にはなれませんでした……。メガネウラ以上に不気味だったのである。
「さて、休憩した後にこのままもっと奥に行きたいんだけど……」
その前に問題を1つ解決しておかないといけないだろう。
「この大量のフレンドコールとメール、どうするべ」
戦闘中は通知が来ない設定にしてたんだけど、その後はひっきりなしだった。思わず通知をオフにして現実逃避しちゃったよ。
だって、誰に連絡をしようかと思案している間にも、どんどんと新しいコールが飛んでくるのだ。
1時間くらい経って確認したら、ようやく落ち着いたみたいなんだが……。
「合わせて300件くらいきてるもんな」
アリッサさんやアメリアみたいなそれなりに親しい相手だけではなく、名前を見ただけでは顔を思い出せないような相手もいる。どこかでフレンドコードを交換したんだろう。
まあ、仕方ないかとも思う。俺だって知人が恐竜と戦う動画をアップしてたら、思わず連絡をしてしまうだろう。多分、メールとコールを複数回送ると思う。
「睡眠取る前に、とりあえずアリッサさんに連絡してみようかな……」
ちょっと怖いけど。
コールをすると、ワンコールで出てくれた。もしかして待ってた? いやいや、アリッサさんもそこまで暇人ではないだろう。タイミングが良かったってことか。
「もしもし?」
「あ、アリッサさん。どーもです。えーっと、連絡くれましたよね?」
「連絡くれました? じゃないのよ! あの生配信は何! とんでもないことしてくれちゃって! 大騒ぎになってるんだからね!」
「大騒ぎですか?」
「いえ、もう騒ぎとかそういうレベルの話じゃないんだけど」
「は、はぁ。そうですか……」
「そうよ! もう! 呑気な声しちゃって!」
もしかしたら早耳猫に恐竜情報の問い合わせが大量にきているのかもしれない。となると、俺以上のメール地獄なのだろう。
となるとカリカリしているのも仕方ない。ある意味俺のせいだし、これはちゃんと恐竜の情報を教えてあげなくては。
「一応聞くけど、プレイしてるのはLJOよね?」
「え? 当然じゃないですか」
急にどうしたんだ? 他のゲームやってたら連絡なんてできないだろうに。
「そうよねー……。そ、それで、私に連絡くれたってことは、色々と情報を売ってくれるつもりがあるってことでオーケー?」
その言葉を聞いて、むしろ俺もホッとした。イベント中にも情報を買ってくれるのだと分かったからである。今回のイベントはお金が意味ないし、情報の売買もしてないと思ったのだ。
しかもさらに詳しく話を聞いてみると、情報料はできるだけイベトで支払ってくれるという。いやー、それは嬉しいね。
「とりあえず口頭で伝えられることは伝えちゃいますね」
「お願いしていい?」
図鑑などは見せられないけど、島に入ってからの行動や、発見した敵と素材の話を全部教えておいた。
最初は驚いていたアリッサさんも、途中からは静かに話を聞くようになってたな。あまりにも静かなもんで、コールが切れたのかと思って一度確認してしまったほどだ。
まあ、それなりに情報が多いし、いちいちリアクションできなくなったんだろう。
「……」
「以上ですけど」
「……うぅ」
「アリッサさん?」
「うみゃー! ぜんぜんたらなーいっ!」
「うぉ!」
急にデカい声で叫ばれて、びっくりしたんですけど! 一体どうしたんだ?
「アリッサさん! ど、どうしたんですか?」
「……支払いは、ユート君がこっちに戻って来てからでいいかしら?」
「は、はい」
こ、今度は急に冷静だ。落差が激しすぎてちょっと怖い! これ以上は突っ込めない迫力があった。
「とりあえず計算して、メールで連絡するから」
「り、了解です」
なんか、最後ちょっと妙な雰囲気になってしまったが、情報は買ってもらえるって事でいいんだろう。
よしよし、これでまたイベトが稼げるぞ。ブラキオとティラノの撃破報酬も併せたら、結構な額になるだろう。
これでまた飼育ケースを大量に買えるぜ!
「他のフレンドにはどうしよう」
全員と話をする時間なんてないし……。とりあえず一斉送信で心配するなって送っておこう。あと、情報に関しては早耳猫で聞けとも。
「あ、でもソーヤ君にだけは連絡しておくか」
ショタエルフ錬金術師のソーヤ君は、「大丈夫ですか?」っていう件名のメールを送ってくれていた。それに、虫や恐竜に興味があるっぽいのだ。
「ソーヤ君? お久しぶりー」
「あ、ユートさん。生配信見ましたよ。大変だったみたいですけど、大丈夫ですか?」
「うん。なんとかね」
「それは良かったです」
うんうん。真っ先に心配してくれるなんて、やっぱりソーヤ君はいいやつだよ。俺が彼の立場だったら第一声で「恐竜の話が聞きたいんですけど!」って言ってしまっているかもしれん。
その後、俺はソーヤ君と様々な情報の交換を行った。
こっちから出すのは当然、古代の島の情報だ。早耳猫に売ったから他には漏らさないでくれと言っておけば、ソーヤ君は分かってくれるからね。安心なのだ。
対してソーヤ君からは、俺がまだ行っていない島の西側の情報がもらえた。森の中にある池や、西海岸にある海獣の森。さらにはその付近の廃村の情報である。
俺がまだ図鑑に登録できていない動植物の話も聞けたし、メチャクチャ有意義な時間だった。
「さて、この森はモンスターが出現しないみたいだし、ひと眠りしちゃいますかね」
その後は、いよいよ最奥の探索だ。まさにこの島の中心部。一体何があるんだろうか。今から楽しみである。




