400話 アリッサさんと主任たち
アリッサの場合
ユート君の姿が消えた。遊楽の浜の周辺で遊んでいたはずなのに、いつの間にか姿がない。町にもいない。各所からそんな報告が上がってきていた。
特に各モンスちゃんたちのファンの嘆きが凄まじいことになっている。私の知人だと、アメリアやアシハナが、まるで幽鬼のような顔で「オ、オルトちゃん成分が足りない~」「クママちゃんどこ……」と嘆いていた。
他にもメンタルに大ダメージを受けているプレイヤーも多いだろう。あとはユート君のおこぼれ狙いの当てが外れて悔しがっているプレイヤーもね。
私たちだって、ユート君を探してはいる。でも、うちのクランの情報網でも、彼がどこにいるかは分からなかった。
というかね、うちは確かにユート君と仲いいけど、頻繁に連絡を取り合っているわけでもないのよ? それなのに、うちに情報を聞きにこられてもねぇ?
隠してるんじゃないかとか、自分たちだけ白銀情報で儲けるつもりかとか、馬鹿な文句を言ったやつらは追い返してブラックリストに載せてやったわ。
まったく、居場所なんて個人情報なんだから、知ってても教える訳ないでしょうに。いえ、知らないんだけどね。
それに、うちのクランはある心配事のせいでてんてこ舞いで、それどころじゃないのだ。
まあ、それも結局はユート君が理由なんだけど……。
ぶっちゃけて言えば、ユート君が凄い情報を持ち込んできた時に、イベトが不足しちゃうかもっていう心配である。
このイベント開始時、全プレイヤーの所持イベトは横並びだった。この状況で、ユート君が爆弾情報を持ち込んで来たら? 絶対にイベトが足りない。
でも、うちにも情報屋クランとしての意地がある。情報が余りにも凄すぎて買えませんとか、絶対に言いたくないのだ。
ユート君なら支払いを待ってくれたり、分割でいいとも言ってくれるだろう。だが、今はイベント中。ならば、支払いもイベトで行うべきだろう。
そこで、クラン総出で必死にイベトをかき集めているけど、これで足りるかどうか……。
さすがのユート君も、毎回毎回凄い発見をする訳がないって? 甘い! 甘すぎる! そんな考えでいたせいで、何度痛い目を見たことか!
ユート君が姿を消したって聞いて、私にはティンときたわね。これはユート君、絶対にやらかしてるなって。
そして、あの動画だ。
たった数時間でどうすればあんな事態に巻き込まれるの?
恐竜がいると思われる未発見の島に乗り込んで、ヤバ気なボスモンスターたちの戦いに巻き込まれて、最後は勝利する? 彼だけ違うゲームやってないかしら?
ともかく、うちのクランへの問い合わせが30倍ぐらいになってしまった。これはぜひとも情報を売ってもらわなくては。
幸いと言っていいかは分からないけど、本来だったら一番高価なはずのボスに関する情報が動画でかなり流れてしまった。
島のモンスターや採取品の情報はまだ分からないけど、そっちの情報だけならなんとか私たちのイベトで足りる――といいんだけど……。
「とりあえずユート君に連絡つけましょう」
今回こそ、醜態をさらしたりしないわ! 涼しい顔で、「ああ、結構いい情報じゃない? 高く買うわよ?」って言ってやるんだから!
運営の場合
「だーはっはっは!」
「笑い事じゃないでしょ! 主任!」
「いやいや、これはもう笑うしかないだろ! 見ろよこの動画!」
「えらいもんが出てしまいましたね……。視聴数がとんでもないことになってるし」
「色々ばれたなー」
「ばれましたね……。まだ完全に解明された訳じゃないですが、この動画を見ればイベントブラキオにイベントティラノをぶつける方法はほとんど丸裸にされそうです」
「それでも細かいフラグがあるが……。できると分かってりゃ、みんな試すだろうしな」
「ええ。大人数で検証し続ければ、すぐに条件も判明してしまうでしょう」
「あれって、本来だとフラグ4つ必要だったよな?」
「はい。まずは外周部でエンカウントするティラノの追撃に対して、一切の反撃をしないこと。次に、島内で2回以上ティラノとエンカウントし、ブラキオフィールドの入り口までティラノを誘導すること。そして、夜間に恐竜肉を料理すること。最後に、2パーティ、チーム以下であること。3パーティ以上だとブラキオがレイド化しますからね。これで無事ブラキオの元まで逃げ切れば、両者をかち合わせることが可能です」
「つーかその前に、古代の島の存在が初日でばれるとは思わなかったぞ? あんな形で強行突破されるとは思ってもなかった。ハイウェイ・ペンギンかぁ……」
「夜のメンテで、修正しますか?」
「馬鹿やろ。それやったら白銀さんだけ優遇したみたいになるだろが! それに、海流が弱まったんだから、もう無駄だよ」
「はぁぁぁ……。島の存在だけならともかく、ブラキオを倒す方法がばれるのは、最終日前のはずだったんですけど……。あれ、今回のイベントで一番強いボスだったんですよ?」
「用意してた古文書とか、恐竜研究図鑑とか、かなり価値が下がったか?」
「価値が下がったどころか……。古文書なんぞ、ただの紙切れに成り下がりましたよ! もう飾って楽しむくらいしか価値がありません!」
「ティラノの誘導方法が書いてあるだけだしな」
「どうします?」
「まあ、スピノとモサの攻略方法古文書はまだ価値があるんだし、なんとかなるだろ」
「出品価格を少し変更しますね」
「おう。あと、緊急事態用に一応用意してた、アレを実装するぞ?」
「アレですか? まさか本当に実装することになるとは……」
「イベントの難易度が跳ね上がっちまうから見送ってたが、こうなったら仕方ねぇ」
「あー、そうですね。でも、仕方ないっすよ。このままだと、島の深部に何万人が到達しちゃうか分からない状態ですもん」
「はぁ……。まあ、公式動画用の素材は大量に手に入ったし、悪い事ばかりじゃなかったが」
「プレイヤーたちのやる気はアップしたかもしれませんね……」
「だよなー……。しかし、白銀さん、今回もやらかしてくれたな~」
「不正が一切ないのはログを確認したんで分かってるんですけど……。白銀さんのせいで、また徹夜に……」
「諦めろ!」
「主任、奥さんが最近口きいてくれないって言ってましたよね? あれ、どうなったんですか?」
「だーっはっはっはっは……」
「分かりましたよ! 分かりましたから、笑いながら泣かんでくださいよ!」
「はははは……ぐすん」




