393話 夜の戦い
俺が骨付き恐竜肉に貪りついていると、モンス達が一斉に立ち上がった。
「ムム!」
「モグ!」
クワやツルハシを構えて、完全に臨戦態勢だ。
「え? え? ちょ、マジかよ!」
確実に敵が近づいているってことだよな?
俺は大慌てでまだ口を付けていない料理をインベントリに仕舞い、杖を構えた。
緊張気味のモンスたちと共に、気配の主を待つこと十数秒。
闇の向こうから、複数の影がこちらを囲むように近づいてきた。
「グルルルル……」
「グォルル!」
「イ、イベントラプトルの群れかよ!」
その数7匹。今日見た中でも最大の群れだ。
「最悪だ!」
それにしても、どうして襲ってきた?
これまで、テーブルマウンテンの麓で恐竜に襲われたことはなかった。それ故、この辺りはセーフエリア扱いなのだとばかり思っていたんだが……。
何がダメだった?
匂いか? 確かに、肉を焼いたのは今日初めてだった。もしくは時間とか? 夜になると活発になって、行動範囲が広がる?
どっちもあり得そうだな。
まあ、今はこの窮地を脱するのが先だ。
「正面に攻撃を集中させて、突破するぞ。倒さなくていい。怯ませて、後はひたすらダッシュだ。いいな?」
「――」
「モグ」
「よし! まずは俺が――」
「ガアアオオオオオオォォォ!」
俺が水魔術を詠唱しようと身構えた時だった。イベントラプトルのものとは違う、野太く威圧的な咆哮が響き渡った。
俺たちには、聞き覚えがある。
「今度はティラノまで……!」
夜の闇の向こうに、確実に奴がいる。というか、かなりの勢いでこちらに近づいてきているのが分かった。地響きを伴った足音が、段々と大きくなっているのだ。
そして巨大な肉食恐竜が、闇を割って姿を現した。
「ガオオオオオオオオオオォォォ!」
「くそ! 真正面かよ!」
今俺たちは最悪の位置にいた。左右にはラプトルたちが3匹ずつ、俺たちの逃げ場を塞ぐように威嚇をしている。
正面にはラプトルが1匹。さらにその後方からはティラノが迫っている。
完全に包囲されてしまった。
もう逃げ場は1方向しか残っていない。
「みんな! 坂を上れ!」
「ム!」
「モグ!」
俺たちは全力で坂道を駆け上がる。
もう隊列とか気にしてられん、とにかく全力で走り続けるのだ。
「グルルル!」
「ちっ! 追いかけてくるか!」
奴らがテーブルマウンテンに侵入できない可能性も考えていたんだが、普通に俺たちの後を追ってくる。
だが、悪い事ばかりではなかった。
「ガオオオオオ!」
「グルルゥゥ!」
ティラノとラプトルが争い始めたのだ。同時に俺たちの存在に気付いて接近して来ただけで、奴らが群れているわけではなかったらしい。
結果として、俺たちを追ってくるラプトルは2匹だけだった。
「この狭い場所なら……。広場に入ったら、ブラキオが反応するかもしれん! ここで迎え撃つ! まずは相手の動きを止める! サクラ頼んだ!」
「――!」
俺の指示に反応したサクラが、樹魔術を発動させた。攻撃ではなく、蔦を生やして操る術だ。サクラはその術で、無数の罠を坂道に仕掛けた。
まあ、蔦で輪っかを作って、相手の足を引っかけるだけの単純な罠だけどね。
だが、今は夜で、足元は見えづらい。しかも、獲物である俺たちの背中しか見ていないラプトルたちには、罠が全く見えていないだろう。
「グルルゥ?」
「グルアアァ!」
2匹のラプトルがあっさりと罠にひっかかり、前のめりに倒れ込んだ。ダメージはほとんどないが、動きは止まったな。
その隙に俺たちは隊列を入れ替え、戦闘準備を整える。オルト、ドリモ、ヒムカを前衛にすえ、俺たちは後方から支援だ。
ペルカはまだレベルが低いので、遊撃。ルフレが回復。サクラは俺と共に魔術で攻撃だ。
左右を壁で挟まれた狭い坂道であることも、俺たちに味方した。ラプトルが自慢の敏捷性を発揮しきれなかったのだ。
そして10分もせずに、俺たちはラプトルを仕留めていた。森の中で戦った時とは比べ物にならないほど弱かったね。
「今回は地形がこっちに味方したな」
「ムー」
「ヒム!」
こういう狭い場所では、ヒムカがメチャクチャ強いことも発見できた。カウンター攻撃効果のある逆襲者を発動した状態で、常に相手の正面を取れるのだ。
挑発効果もあるので、ラプトルはほぼ強制的にヒムカを攻撃せざるを得ない。当然ヒムカもダメージを負うが、うちには回復特化のルフレがいる。
結果、ヒムカは不沈艦のようにラプトルたちの攻撃を喰らい続け、カウンターを当て続けることができていた。
まあ、MPの減りが凄まじいから、もう1戦は無理だろうがな。
「さて、下は――」
「ガオオオオオオ!」
「マジかよっ!」
ティラノが上ってきやがった! ラプトル食って、満足して帰ってくれればよかったのに!
「に、逃げるぞ!」
「ヒム!」
「フムムー!」
「この島きてから、走ってばかりだなぁ!」




