392話 3匹目のボス
「うーむ、まさか摩擦熱でダメージ受けるとは思わんかった」
「ムー」
簡易ジップラインで川を渡った俺たちだったんだが、滑る時の摩擦で微ダメージを食らっていた。痛みがない世界だし、数分もすれば回復するだろうが、あんなことでダメージを食らうとは思ってもみなかった。
モンス達もちょっと痛そうな感じである。オルトやヒムカは、手の平をフーフーと吹いていた。
リアルなのも考え物だな。
「ま、とりあえず先に進むぞ」
「ヒムー!」
「フム!」
川を越えるために再び古代の森に入り込んでしまったが、幸運にもイベントステゴやイベントトリケラにしか出会わなかった。
ボス戦前に消耗しないように、運営が少し配置を考えてくれてるのかね?
その後、湖の迂回に成功した俺たちは、再びテーブルマウンテン沿いを進む。
今の俺たちは、テーブルマウンテンから見て北西のあたりにいるだろう。最初は南西から逆時計回りに進んできたわけだから、もうすぐで一周する計算だ。
「ま、その前にここの調査をするけどな」
「ムー!」
「モグ!」
俺たちの前には、直径10メートルほどの亀裂があった。山の南東部分で発見した亀裂に似ている。スピノサウルスの広場に通じていた、あの亀裂だ。
上り坂になっているところも同じだろう。ただ、こっちの方が道幅が大きい。もしかして、こっちが表口的な意味があるのか?
もしくは大型のモンスターを使役するテイマー系職業のためなのか? それはあり得るかもしれない。モンスターを連れて行けなかったら、俺たちテイマーは詰むもんな。
「この先にも、確実にボスがいるはずだ。先走るんじゃないぞ?」
「ム!」
「モグ!」
ボスがいることを確信する俺たちは、より慎重に坂を上っていった。
そして十数分後。
意外と短い坂道を登り切った俺たちの前に予想通りの――いや、予想を超えた存在が姿を現す。
「大型のモンスには、大型のボスってことかよ」
「――……」
そこは、俺たちの背丈よりも大きい岩石がゴロゴロと転がった、円形の広場である。足元には下草が生え、所々にはヤシに似た木が生えている。
だが、俺たちの目を引いたのは無数の巨岩群でも、珍しい草木でもない。その中央でムシャムシャと木の枝を食む、ヤシの木よりも背が高い巨大な恐竜の姿であった。
長い首はイベントプレシオに似ているが、きっちり陸上を歩くための四肢が備わっている。しかも、そのサイズは遥かに大きい。
「イベントブラキオ……!」
足下から頭頂部までの高さが10メートルを超えている。全長も20メートル近いだろう。ティラノやスピノを超える巨体を持った超大型恐竜だ。
ここまで巨大だと、戦う気も起きないな。
ブラキオサウルスをモチーフにした、イベントブラキオであった。
「にしても、ブラキオか……」
植物を食べている姿からも分かる通り、どれだけ巨大でも草食恐竜だ。もしかして、こっちから攻撃をしない限り襲ってはこないんじゃないか?
「まあ、確認できたし一度戻ろう」
「――」
俺たちはとりあえず引き返し、テーブルマウンテンを一周してしまうことにした。まあ、ここ以降、大きな発見はなかったけど。
「で、戻ってきましたよーっと」
「ペペーン」
「ムムー」
俺たちは広場の入り口から、イベントブラキオを覗き込んでいた。
もうね、俺たちが突破できそうなのがブラキオしかいないのだ。スピノ、モサは絶対襲ってくるし、崖に巣食うプテラの群れにも対抗手段がない。
テーブルマウンテンの一番上を目指すなら、ここしかないだろう。草食恐竜のイベントブラキオが、積極的に襲ってこないことを祈るしかない。
とは言え、今すぐ突っ込むわけじゃないよ?
まずは観察が大事である。
「うん。やっぱり岩の陰に隠れれば、見つからずにやり過ごせるかもな」
「ム!」
「あとは夜を狙おう。その方が見つかり辛いだろうし」
「ペン!」
俺たちの作戦は単純だ。障害物や夜の闇を利用して、できるだけ隠れて進む。見つかったら後はダッシュだ。ボスフィールド扱いで閉じ込められたら、その時は玉砕するしかないだろう。
「船の延滞料金は少し気になるけど、夜を待つぞ。命大事にだ」
「ム」
もう夕方だし、あと1時間もすれば周囲は完全に闇に包まれる。それまでは適当に時間を潰せばいいだろう。
「色々と食材もゲットできたし、食事にするか」
「フム!」
「モグモ!」
実際、今の俺はそれなりに食材を持っている。魚は言うに及ばず、この島でゲットした恐竜肉にフルーツ類。調味料もあるし、意外と豪勢な食事を作れるだろう。
そして1時間後。
俺たちはイベントブラキオへと繋がる坂の前で、ワイワイと焚火を囲んでいた。野外で焚火しながら、料理を食べる。なんかキャンプみたいでワクワクするな。
「それじゃあ、いただきまーっす!」
「フムムー!」
「ペッペーン!」
一番喜んでいるのは魚大好きコンビだ。刺身と塩焼きを前に、万歳をしている。
俺の食事もかなりの自信作だ。
ルフレたちと同じように、刺身と塩焼きは勿論、フルーツジュースまで付いている。しかもメインディッシュは他にあるのだ。
「こ、こいつは美味そうだぜ……」
恐竜の骨付き肉だ。見た目は、チキンレッグ。しかも超特大サイズの。なにせ、俺の顔が2つくらいは隠れるだろう。
いや、このサイズでも、イベントパキケファロからドロップしたことを考えれば大分小さいけどね。そこら辺はゲーム仕様だから仕方ない。
名称:焼いた恐竜の骨付き肉
レア度:4 品質:★6
効果:満腹度を90%回復させる。
完全に腹を満たすだけのアイテムだが、問題は味だ。俺は逸る気持ちを抑えながら、その肉にかぶりついた。
「もぐもぐ……うむ! 美味い!」
例えるならジューシーな鶏胸肉? 噛むたびに肉汁が溢れ出してくるが、決して脂っぽくはなく、いくらでも食べられそうだった。
以前オーストラリア料理の店に行った時に食べたダチョウ肉に似ているかもしれない。マジで美味しい。
「恐竜肉、もっとほしいな」




