391話 エンジェルじゃないフォール
テーブルマウンテンの麓まで戻ってきた俺たちは、そのままさらにその周囲を歩いて探索することにした。
テーブルマウンテンに沿って、北上していく。
「この辺もオルトの土魔術で登れそうではあるけど……」
「クケェェ!」
「無理か」
イベントプテラは、テーブルマウンテンの崖全域に生息しているらしい。やはり坂を上ってボスであるイベントスピノを倒さないと、上にはいけないってことだろうか?
そうしてしばらく歩いていると、ルフレとペルカが何かに反応した。
「フーム!」
「ペペン!」
満面の笑みで俺の周りをピョンピョンと飛び跳ねる。
この2人が同時に反応することとなると、この先に水場でもあるか?
とりあえずルフレたちに引っ張られながら、進んでみる。すると、想像通り前方に大きな滝が見えてきた。
「ほほー、あれは凄いな!」
テーブルマウンテンの上から流れているようだが、幅が20メートル近くはあるだろう。まるで巨大な水のカーテンだ。
リアルのテーブルマウンテンといえばエンジェルフォールが有名だが、こっちの滝には滝壷がある。まあ、高さが全然低いしね。
所々、崖から突き出した岩に流れを分断され、白い飛沫が上がっているところがまた風流な感じがする。
さらに近づいてみると、面白い状態になっていることが分かった。
流れの隙間から見えるのだが、滝の裏側が抉れたように大きく削れていたのだ。つまり、滝の裏側には広い空間がある。
「あの滝の裏にある岩場を伝って登ったら、上に行けそうか? 滝のおかげでイベントプテラも邪魔しに来ないし」
「フム!」
「ペン!」
どう考えても、登るためのギミックだろう。
うちのパーティなら、あれだけの足場があれば問題なく登り切ることはできる。
まあ、その前に片付けなきゃいけない問題があったけどね。
「滝の下は小さな湖になってるのか……。まずは、ここをどうにかして渡らないと、滝には近付けんな」
滝壺というには少々広いそこは、直径100メートルほどの円形の湖になっていた。滝の水が溜まっているのだろう。
「さて、どうにか泳いで――」
「フム!」
「ペン!」
湖に向かって歩いていると、ニッコニコだったルフレたちが、不意に真面目な顔になって足を止めた。
「ペン……!」
ペルカは、俺がこれ以上進まないようにヒレで制止しつつ、鋭い視線を湖に送っている。
ペンギンの真面目な顔……。
「可愛い」
「ペン?」
「いや、なんでもない。湖に何かいるか?」
「ペン!」
ペルカが頷いた直後であった。
湖の中央で軽く泡が立つ。そして、その真下から湖面を割って巨大な何かが現れた。
「グロオオォォォ!」
「でっかいな!」
まるでショーのシャチのように、湖面から身を躍らせ、そのまま大量の水飛沫と共に再び湖の中へと消えていく。
一瞬しか見えなかったが、バッチリと姿は確認できた。
それは、ワニとアザラシを混ぜたかのような不思議な形の生物であった。イメージ的には、アザラシの全身にワニのような鱗を張りつけ、尻尾と頭をワニの物に付け替えたとでも言おうか。
名前はイベントモサ。モササウルスをモチーフにしたモンスターだろう。
「しかも結構デカかったな」
10メートルはないとは思うが、それに近い大きさはあったように思う。
「あれをどうにかしないと、滝の裏には行けそうもないか」
「フムー……」
この滝といい、亀裂から続く坂といい、テーブルマウンテンの上に辿り着くためのルートには必ずボスモンスターがいるようだった。
だとすると、俺たちには絶対に突破できそうもないんだが……。
「まあ、山をグルッと一周して、情報だけでも集めておこう」
「ペン」
「とりあえず、この湖は迂回していこうな」
「フム」
イベントモサに見付からないように、湖からやや距離を取って進む。
すると、川にぶつかった。湖から流れ出る水が川になっているらしい。そこまで川幅は広くないので、イベントモサがこっちまでやってくることはなさそうだ。
「渡れるか?」
「ペン!」
「おお。そうだ。ペルカに向こうに渡ってもらって、ロープを張ればいいのか!」
「ペッペーン!」
ペルカがペンギンハイウェイを使って、一気に川の向こうへと飛んだ。そして、サクラが生み出した蔦を、手頃な木に結び付けた。
こっちでも木に蔦を結ぶのだが、そこで少し工夫をする。
「ムーム!」
オルトが作ってくれた階段を登り、向こうから見てだいぶ高い位置に蔦を結んだのだ。
こうすれば、後はロープにぶら下がるだけで――。
「ヒャッホー!」
高い方から低い方へ、自然と滑り落ちて行くのだった。




