39話 ヒビが!
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日課の畑仕事と錬金、薬の売買を終えた俺は、気合を入れて準備をしていた。因みに今日手に入った緑桃は全部畑に植えておいた。オルトの為にも量産しないといけないからね。
その間のオルトのジュースは、自作してみたハチミツニンジンジュースと、ハチミツカボチャジュースである。露店で買うより品質が低く、オルトもピーチジュースの方が好きみたいだが、次の緑桃が生るまではこっちで我慢してもらおう。
「薬オーケー。食事オーケー。装備の耐久値もまだまだ平気」
本当はマナポーションが欲しいけど、始まりの町じゃ売ってないんだよな。自作しようにも材料が手に入らないし。
「魔力草ね~。売ってる所さえ見たことないんだよな」
多分、第3エリア以降じゃないと手に入らないんだろう。そして、プレイヤーが入手しても始まりの町には回ってこず、そっちで消費されてしまうのだ。
まあ手に入らないのは仕方ないか。MP温存を心がけよう。
「今日こそはワイルドドッグをテイムしてやる!」
昨日のワイルドドッグ4匹との戦いでも、改めて必要性を感じた。今後敵が強くなり、数も増えるにあたって前衛が必要だと。
レベル的にも早めにテイムして育てたいし、今日中に絶対ワイルドドッグをテイムするのだ。
今日はテイムに集中したいのでクエストも受けないつもりだったんだが、ちょっと気になることがあって農業ギルドにはいかないといけなさそうだった。
実は俺の畑の側で、新しく畑を購入した人がいたらしいのだ。
どんな人なのかは分からないけど、3面くらいの畑に、薬草とか、見たことのない草が生えている。それを見てちょっと不安になったのだ。
今のところ畑10面分くらいは離れているけど、他の人に自分の畑と隣接している場所を買われたらどうなるのか?
普通に考えたら、それ以上は畑を広げることは出来ないよな? 買うにしても、離れた場所に飛び地で買わないといけないはずだ。それは何か気分的に嫌だ。使い勝手も悪そうだし。
まだ始まりの町だし、何十面も買うつもりはない。だが、もう少し数を増やすつもりではある。
しばらくは始まりの町を拠点にするつもりだしね。なので、畑を予約するとかできないかと思ったのである。
「いらっしゃい」
「こんにちは。ちょっと畑について聞きたいことがありまして」
農業ギルドのおっさんに色々質問した結果、畑は予約したり、分割払いでの購入は出来ないという事だった。どうしよう。
今の手持ちは約28000G。6000Gを4面買えてしまうが……。
現状では、ポーションや各種状態異常薬を売ることで、日に7000G~9000G程度稼げている。前線でモンスターを狩りまくって素材を売っているトッププレイヤーには及ばないが、始まりの町でやりくりするには十分すぎる額だ。
畑が広がれば収入もさらに増えるし、直ぐに回収できるだろう。これも、オルトのおかげで質の高い草が収穫できているおかげだな。
だが、さすがに24000Gはな……。
俺は2000Gの畑を4面、購入する事にした。あとでグレードアップできるんだし、雑草用に使えばいいや。とりあえず確保だけしておこう。
あと、帰り道にライバさんの露店に寄って、ブルーセージ、レッドセージを納品する。オルトのおかげで1日で納品できたな。雑草は放っておいても2日で収穫できるけどね。
「助かった! これでしばらくもつよ! これが報酬だ」
報酬は貰えたが……。チェーンクエストは発生しなかった。残念だ。植物知識を手に入れたプレイヤーへのチュートリアル的なクエストだったのかもね。
オレガーノ、ヨモギン、コスモス、アジサイの種は買えたから、とりあえず満足しておくか。
これで準備は済んだ。
「よし、出陣だ!」
そう思ったんだが――。
「ムムム!」
「どうしたオルト?」
「ムー」
出発しようとしたところをオルトに捕獲されていた。右足にギュッと抱き付かれては、身動きが取れない。
オルトはしきりに納屋を指差しているようだな。
「納屋がどうした?」
「ムームー!」
「わ、分かった分かった。引っ張るなって」
「ムムー!」
メチャクチャ焦ってると言うか、急いでるぞ。これはただ事ではない。
俺はオルトと一緒に納屋に急いだ。だって、納屋で大事といったら、1つしか思い浮かばない。
「もしかして、もしかするのか?」
そして、俺は期待に胸を膨らませながら、納屋の扉を開いた。
「――やっぱり!」
「ムー!」
俺の目に飛び込んできたのは、ヒビの入った卵だった。孵卵器にセットされた黄色い卵に、輪切りにするような感じでヒビが入り始めている。すでに亀裂は卵を半周しており、孵化寸前といった感じだ。
なにせ、今朝はヒビなんて入ってなかったんだ。俺が収穫と調合をして、畑を買いに行っている4時間ほどの間に、ここまで行ったってことである。
「これ、もう孵るってことだよな?」
「ムム」
「――――♪」
「キュ!」
いつの間にかサクラとリックも来たか。従魔たちはキラキラした目で卵を見つめている。
予定を変更して、しばらくここで見守るか。生まれた瞬間に主がいないんじゃかわいそうだ。
「そういえば鳥とかにはスリ込みっていう現象があるけど、従魔はどうなんだ?」
「ム?」
「あるのか?」
「――?」
「キュ?」
分かってないな? まあいいや。場合によってはワイルドドッグをテイムする必要もなくなるんだし。ここでじっくりと待つさ。
俺は取りあえず椅子に座ると、昨日から研究しているハーブティーを取り出した。現実のように、幾つかの茶葉を混ぜてみることを思いついたのだ。
今あるのはカモミーレ、レッドミント、ブルーミント、バジルル。あとはワイルドストロベリーだな。レッドセージ、ブルーセージは、納品してしまったので、株分に使う分しか残っていない。
俺はこれらを乾燥させると、色々と混ぜてみた。
ゲームの中なので腹がタプタプになることもなく、様々な組み合わせを試すことができた。リアルでVRで思い切り食べるダイエットが紹介されていたが、確かに有りかもね。
色々組み合わせを試した結果、カモミーレ、レッドミント、ワイルドストロベリーを混ぜたブレンドが俺のお気に入りである。
名称:ハーブティーのブレンド茶葉
レア度:1 品質:★5
効果:なし。食用可能。
素っ気ない名前だが、これをいくつか作っておいた。これで好きな時にハーブティーが楽しめるぞ。
「うん。美味いな。ティーカップを買っておいて良かった」
ティーカップは普通に万屋で売っていた安物だが、これでハーブティーを飲むと気分が違うのだ。
「どんなモンスが生まれるんだ? 楽しみだな」
その間にも少しずつ広がる卵の亀裂を見ながら、新しく生まれてくるモンスの姿に思いをはせるのだった。
5死すると手に入るという設定だった「特攻玉砕野郎」の称号について、ご指摘されて確かに初日から1人も試さないのは変かなーと感じました。
一応、デスペナルティ無しのボーナスが有用なので、皆それを失ってまで手に入れないという感じで考えていたんですが、1人くらいは称号を狙う奴が居そうですよね。
ただ、どう設定を変更しても収拾がつかないので、特攻玉砕野郎の称号については無かったことにさせていただきます。主人公の3死のインパクトも薄れてしまいますしね。ご指摘ありがとうございました。
それと同時に頂いた、早耳猫は称号の取得情報を売っているんだから、その掲示板に不殺の取得情報が乗っているのがおかしいのではないか? というご指摘については、11話の掲示板回2でも軽く触れたように、早耳猫は情報を集めて人に売って、ある程度儲けたら掲示板にアップするクランです。
すでに想定以上に不殺の情報で儲けているので、第2陣、3陣を待たずに情報を公開したという感じです。
掲示板にさらした情報ですので、それを他のプレイヤーがさらに他の掲示板に書いたとしても、早耳猫が怒ることもありません。




