389話 逃げた果てに
「森に入って、もう1時間くらいか……?」
「ムー」
「よく生き延びてるな、俺たち」
「ヒム……」
それもこれも、この森の摂理というか、システムのおかげだった。
どうやらこの古代の森では、肉食恐竜と草食恐竜の生存競争が行われているらしい。両者が何らかの理由で顔を合わせると、プレイヤーを無視して争い始めるのだ。
ここまでの迷走で俺たちが出会ったのは、イベントパキケファロ、イベントティラノ、イベントステゴ、イベントラプトル、イベントトリケラの5種類である。
草食恐竜がパキケファロ、ステゴ、トリケラだ。トリケラは犀に似たフォルムだが、体長8メートル近く、頭には大きな兜のようなエラと、3本の角がある。
ステゴ、トリケラはこちらから手を出さなければ襲ってこないので、肉食恐竜を擦り付けるのに適しているだろう。
肉食がティラノとラプトルだ。
ラプトルは、体のフォルムがティラノに似ているものの、体高自体は2メートルほどの小型の肉食恐竜だ。ジュラシックな映画で主人公たちを散々追い回したので、知っている人も多いだろう。
常に3匹以上で群れているらしく、俺たちにとっては非常に厄介だった。足がダチョウに似ているだけあって足も速いし、跳躍力も凄まじい。しかも、小回りが利くのだ。
今まで3度遭遇し、1度はトリケラに擦り付け、1度はティラノの匂いを察知して逃げ去り、1度は撃退に成功している。
ただ、その1度の戦闘でドリモの竜血覚醒や薬草類を使いきり、俺たちにはまともな戦闘力が残っていなかった。
しかも、それで撃退だ。3匹中2匹を倒したことで、残りの1匹が逃げてくれたのである。もし戦いが続いていたら、死に戻っていたかもしれない。
因みに、出会った恐竜は全てテイム不可であった……。なんでだ!
「こうなったら、スクショ撮りまくってやる!」
「――?」
「いや、なんでもない。できればこの森を抜けたいなーって」
「――……」
実は俺たちは、完全に奥地へと入り込んでしまっていた。ある程度の方角は分かるので、完全に迷った訳ではない。だが、船が置いてある砂浜まではイベントラプトルのテリトリーを抜けなければならない。
そもそも、俺たちがここまで森に深く踏み込んでしまったのも、ラプトルたちを避けるために大きく迂回し続けたせいだ。
ああ、肉食恐竜のテリトリーを見破る方法は発見済みだ。まあ、発見したのは俺ではなく、ヒムカがだが。
肉食恐竜たちの縄張りに生えた木には、これ見よがしに爪の痕が付けられているのだ。
ラプトルの場合は、プレイヤーにもよく見える高さ1メートルほどの場所である。
ティラノの場合は、高さ3メートルほどの場所だ。一度、これに気付かず鉢合わせた時には本当に死に戻りを覚悟した。
あの時に前に現れてくれたパキケファロの群れよ。本当にありがとうございました。
「いっそ、あの山の近くまで行ってみるか」
島の中央付近に、テーブルマウンテンのように盛り上がった山が見えるのだ。もう、あそこに向かっちゃおうかね? いや、さすがにそれは自暴自棄になり過ぎか?
だが、このまま無事に戻れる可能性が低いとなれば、デスルーラ覚悟で情報収集するのもいいかもしれない。
ピッポーン。
『船の返却時間となりました。しかし、船の返却が不可能な状態となっております。プレイヤーが船に戻るか、復活登録地点に戻るまで、延滞料金が発生します。延滞料金は、1時間200イベトです』
「マジか!」
勝手に帰ってしまわないのは有り難いが、1時間で200イベトは、普通のレンタル料金の倍だぞ?
「もうマゴマゴしてられん……」
仕方ない。船に戻る――。
「ガオオオオオォォォ!」
「げぇ! ティラノ! どうして……」
ナワバリじゃないはずなのに!
疑問に思っていたら、ティラノの前を走る、小さな影があった。
「ギャギャオオオオォォオォ!」
「ラプトル! お前かぁぁっ!」
ナワバリ内でティラノに襲われ、ここまで逃げてきたのだろう。ラプトルも必死な表情をしている気がした。
「逃げるぞ!」
「ムム!」
「ヒムー!」
俺たちも再び走りだす。この島に来てから、こんなんばかりだな!
1時間後。
「あー、なんだかんだ言って、結局ここまできちまったな……」
「フムー」
「ペン」
疲労困憊で座り込む俺の横で、オルトたちは断崖絶壁を見上げている。ペルカにとっては初めての光景だろうし、珍しいんだろう。
ティラノから逃げ、ラプトルから逃げ、そうして迷走した結果、俺たちは島の中央にあるテーブルマウンテンの麓までやってきていた。
来る予定はなかったんだけどね。
テーブルマウンテンの周囲は木々の生えない荒れ地のようになっており、恐竜の姿は見えなかった。
セーフティーゾーン的な扱いなのか? だとしたら有り難いが……。いや、気を抜いたら俺たちなんかあっという間に死に戻りだ。気は抜かずに行こう。
普通の小山と違って、テーブル状に隆起したこの山の斜面を登るのはかなり難易度が高い。いや、登るだけなら、オルトに足場を作ってもらえばなんとかなるかもしれない。
しかし、それには途中の障害を乗り越える必要があった。
「クケェェ!」
「クケケェェ!」
「どう見ても、プテラノドンだよな」
遠すぎて鑑定は届かないが、絶対にイベントプテラという名前だろう。翼長5メートルほどの翼竜である。下から見上げるだけでも、断崖の上の方に10匹ほどが群れていた。
この断崖絶壁を登るには、あの翼竜たちもどうにかしてやり過ごす必要があるのだ。
「オルトの土魔術で無理やり上るのは難しそうだし、とりあえずこの山の周りを探査してみよう」
上るためのルートがあるかもしれないからな。現在の位置は、山の南西に当たる。ここから逆時計回りで探索をしてみようと思う。
ああ、逆時計回りに意味はない。単純に、左手の法則に従ってみただけだ。
「何か良いものが見つかるといいな~」
「ムムー」




