385話 謎のアレとトンボ
「あー、こうしてのんびり釣りをするのもいいもんだな~」
「ム~」
「――」
俺たちは海流を越えた海域で、のんびりと釣りを楽しんでいた。こっちではやはり生息する魚が違うらしく、アジやサバのような見知った魚以外に、ビギニカツオ、ビギニサンマという魚が新たに釣れていた。
「いいねいいね。サンマの塩焼きに、カツオのタタキ……どっちも楽しみだ! タタキはできれば薬味がほしいところだけど……」
イベント終了まで待つしかないか? なんて考えていたら、ルフレとペルカが急に慌て出した。
「フ、フムムー!」
「ペペーン!」
「え? 2人ともどうした?」
ルフレたちが急いで海に飛び込む。そして、船を曳いて泳ぎ出した。急発進したせいで、船上の俺たちはバランスを崩して座り込んでしまう。
「いったい何が――」
「ギシャアアアァァァ!」
「おわぁ!」
それは巨大な何かであった。鋭い牙の生えた大きな口に、長い首。その首が、直前まで俺たちの船があった場所に突っ込んで、大きな波を立たせていた。
まるで巨大なハンマーを水に叩きつけたかのような盛大な水飛沫を見れば、相当な重量があったのだと分かる。
ルフレたちはあいつが接近しているのを察知して、緊急回避してくれたのだろう。
しかし、あれは何だった? もう海に潜ってしまったせいで、鑑定が間に合わなかった。
ウツボ? 海蛇? ニョロッと長いのは分かったが……。さっき、海流のところで邪魔した触手の主か……?
「フムフムフムー!」
「ペペペペペペペーン!」
ルフレとペルカは未だに全速力で逃げている。つまり、追われているってことか?
「2人とも、島まで逃げ込むんだ! 頑張れ!」
「ムムー!」
「ヒムムー!」
船を曳いてくれている水中コンビを、船の上から皆で応援する。その応援の甲斐あってか、俺たちはなんとか謎の襲撃者から逃れることができていた。
ノンストップで小島まで泳ぎきったルフレたちは、疲労困憊で砂浜に寝っ転がっている。1時間以上船を曳き続けても疲れを見せなかったルフレたちも、全速力だとやはり疲れるようだった。
「さて……この島は、どんな島なんだ?」
もしかしてメッチャ強いモンスターがウヨウヨいるような島じゃないよな? だとしたら、結局死に戻るんだけど。
それに、船って時間がきたらどうなるんだ? もし船だけ勝手に戻るとしたら、帰還手段がなくなってしまう。
だが、ここまできて探索しないという選択肢はないのだ。
「ま、とりあえずルフレたちが回復するまではこの砂浜を探索するか」
軽く見て回ったところ、ヒトデやフジツボは発見できた。
植物的にはシュロが見えている。それらだけ見ると遊楽の浜や東の漁村近辺とそう変わらないが……。
「この辺はシダかな?」
浜から先はすぐに森になっているんだが、下草っぽく生えているのはシダだった。そして、木々はヘゴと表示される。
イメージしづらかったら、オーストラリアやニュージーランドの原生林。もしくはジュラ〇ックワールドの背景の森を思い浮かべてくれればいいだろう。
日本ではなかなか見かけることがない雰囲気である。それこそ、巨大な蜥蜴とかヘビが飛び出してきそうな雰囲気があった。
「モグ?」
「――」
ドリモとサクラも、俺と一緒に古代風の森を覗き込んでいる。ただ、どっちも冷静なタイプだからね。
怖がったり、怯えたりしている様子はなかった。そんな2人を見ていたら、俺も落ち着いてきたぞ。
「よし、ルフレたちも回復したみたいだし、このまま森に突入――」
「ヒムゥ!」
「ど、どうしたヒムカ?」
「ヒム! ヒムム!」
ヒムカが、俺の言葉を遮って大きな悲鳴を上げた。船から落ちかけた時よりも、さらに驚いているように思える。
俺は、ヒムカが必死に指さす方を確認してみた。森の入り口だ。
「……うげ! なんだあれ?」
そこには、シダの葉にとまる巨大な昆虫の姿があった。トンボか? だが、そのサイズは俺の知るトンボとはだいぶ違っている。多分、カラスよりもデカいだろう。
鑑定してみると、メガネウラと表示されていた。史上最大のトンボで、古生代の地球に生息していたらしい。
モンスターではなく、イベント限定の昆虫らしかった。マーカーはなく、襲ってもこない。当然、ゴ〇ラのエネルギーを吸って巨大怪獣になったりもしないだろう。
毒生物やサメを夏の注意喚起シリーズとするならば、こちらは夏休みの自由研究シリーズって感じかな?
だが、虫が嫌いな人が見たら、トラウマレベルのショックなんじゃないか? 昆虫が大丈夫な俺でも、あのサイズのトンボはちょっと引くわー。
「ムムゥ?」
「フム?」
オルトたちも、追いかけたりせずに遠目から観察している。
「ふむ。でも、よく見たらカッコイイかも?」
「ヒムゥ?」
「お前は虫嫌いだったのか……」
俺の呟きを聞いたヒムカが、信じられないものを見るような目で俺を見る。ヒムカ、水が苦手だったり、虫が苦手だったり、意外とひ弱だな。シティボーイなのかもしれん。
「あれ、捕ってみたいな」
「モグ!」
「ペペン!」
逆に、動物タイプのモンス達は全く怖がらない。むしろやる気だ。
「飼えたら面白そうだし、もしかしたら売れるかもしれないし」
俺だったら、あんな巨大トンボが売ってたら、絶対に買っちゃうからね!
「カブトムシを捕まえようと思って買った、虫取り網と、飼育ケースがある。これで捕まえてみよう!」
出遅れテイマーのコミカライズ最新話が公開されています。
アリッサさんの表情が好きです。




