384話 海流突破
俺たちは海流を突破するため、あれこれと試行錯誤を続けていた。だが、一向に上手くいかない。しかし、これらのチャレンジは決して無駄ではなかった。
「ふっふっふ。今までの失敗を生かした、究極の作戦だ!」
「フムー!」
「ペッペン!」
「良い気合だ! この作戦の成否は、お前たち2人の頑張りにかかっているといっても過言ではない! 頼んだぞ!」
「フム!」
「ペペン!」
ルフレとペルカがビシッと敬礼すると、配置に就いた。ルフレはまだ船上で、ペルカは水中でスタンバイだ。
俺は船尾に陣取り、オルトたちに背中を支えてもらう。
「よぉぉし! 準備完了だ!」
まあ、これが失敗したら、力押しじゃ無理ってことなのだろう。大人しく、他の方法を探すさ。
多分どこかに、海流が弱い場所があるか、海底が浅くなっている場所があったりするんだろうしな。俺の水中探査スキルがあれば、浅瀬を探すことは難しくないと思う。時間はかかりそうだけどね。
「いくぞ!」
「フームー!」
「ペペーン!」
まず最初にペルカとルフレが全速力で海流の中を泳ぎ、船を少しでも曳き続ける。だが、当然5メートルも進めず、押し返されそうになった直後。
「モグ!」
「フムー……」
「ペッペーン!」
ドリモがルフレの襟首を掴んで船に引き上げ、同時にペルカがペンギンハイウェイを発動した。
船の前方へ弧を描くように延びる、光のレールが掛けられる。
「ペペペペーン!」
そのレールに乗って超高速で空に飛び出したペルカに引っ張られ、俺たちの乗った船も宙を飛んだ。
だが、そこでひとつ誤算があった。
「ゴオオ!」
「ええ? モンスター?」
なんと、水中から何かが現れたのだ。最初は細長い海蛇かなにかだと思ったが、違っていた。それは、半透明の巨大な触手だった。
やばい! このままだと叩き落とされる!
そう思ったのだが、ペルカの攻撃力は想像よりも強かった。ペルカの嘴が青白く輝き――。
「ペン!」
「ゴロォ!」
ペルカの突進は、そのまま触手を跳ね飛ばしていた。どう見てもボス級の敵の体の一部っぽかったのに!
俺はずっとペンギンハイウェイを移動の技だと思っていたが、もしかして攻撃方法だったのか?
ペルカには嘴撃、突撃強化、氷結纏い、三角撃と、突進技を強化するスキルが揃っている。これと高速移動が可能なペンギンハイウェイが合わさることで、凄まじい威力を発揮したようだ。
いや、検証は後だ!
「来るぞ! 衝撃に備えろ!」
「ムムー!」
「ヒム!」
「――!」
そして、船が海面に落下する直前、サクラが魔術を発動する。それはアイヴィー・ウォールという蔦の壁を生み出す術だった。今は海面を覆うように、寝かされた状態で生み出されている。
地面がない場所のせいで、効果時間が非常に短いのだが、数秒もあれば問題ない。
落下した船は、蔦の壁の上を滑るようにさらに前進した。海面に落下してしまうと、そこで推進力が大幅に殺されてしまうからな。それを防ぐための蔦の壁である。
このタイミングで、俺はハイドロプレッシャーを発動した。
「どりゃああああ!」
水に押された船が、海流をものともせずにグングンと加速する。だが、すぐに船足は鈍り始めた。一瞬の魔術では、長時間は加速していられない。
しかし、俺の後を継いで、ルフレが同じように水魔術を発動する。ルフレの魔術は攻撃には使えないが、散水や洗浄用に水流を放つ術があるのだ。
そうしてまたわずかに先へと進み――。
最後の最後は再びルフレとペルカ、ドリモが頑張った。ドリモが力を振り絞って船を漕ぎ、再び水中に飛び込んだルフレたち2人が全力で流れに逆らって泳ぎ、船を引っ張ってくれたのだ。
「モグモグモグモグー!」
「フムムムムー!」
「ペペペペペペペ!」
その結果――。
「船が押し戻されない……。抜けたぞ!」
「フームー!」
「ペッペーン!」
俺たちは海流を突破したのであった。
「やったぞぉぉ!」
「――!」
「ヒッムー!」
俺の魂の叫びに反応したモンスも、その場でバンザイをし始める。長かった。本当に長かったぜ。
だが、俺たちはやり遂げたのだ。
「バンザーイ! バンザーイ!」
「ムッムー! ムッムー!」
「モグモー! モグモー!」
思わず万歳三唱してしまった。でも、それくらいうれしいのだ。
いやー、大変だった。力押しで先に進むなら、最低でも俺以上の水魔術師が4人は必要なんじゃないか? 触手への対策も必要だし。不可能ではないけど、かなり難易度が高いだろう。
「さて、これからどう――うん? ええ? なんだありゃあ!」
どこに向かって進むか、ルフレたちに相談しようと振り返った俺は、視界に映ったあるものに驚きの声を上げてしまっていた。
「し、島?」
そう。島だ。まだ多少距離はあるが、間違いなく小さな島が見えている。
「ム」
「――?」
オルトとサクラが手を額に添えて、遠くを見るポーズだ。その視線は、確実に島の方を向いている。
「島だよな?」
「ム!」
「――」
「オルトたちにも見えるのか……」
でも、どうして急に見えた? だって、さっきまでは見えていなかったんだぞ? 海流を突破したと言っても、距離的にはせいぜい30メートルくらい進んだだけだ。
それで、急に島が見えるなんてありえるか? いや、海流を越えないと見えないようになっているのか?
「なあ、ルフレたちが連れて行こうとしてくれてたのは、あの島か?」
「フム? フムム」
「え? 違う?」
「ペン」
「ああ、この海域その物が新しい釣り場ってことかな?」
「ペペン!」
どうやら、ルフレとペルカの目的は、あの海流を越えることであったらしい。釣り竿を手に持ち、釣りをしないのかと首を傾げている。
「そ、そうだな。せっかく連れて来てもらったんだしな」
ぶっちゃけ、あの島が超気になる。しかし、ルフレたちの気遣いを無駄にするのもかわいそうだ。まあ、島は逃げないわけだし、少し釣りをしてから島に向かえばいいか。
「じゃ、最初に釣りを楽しむとするか」
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