381話 サクラ印の釣り竿
「さて、村に戻ってきたな」
「ム!」
「ヒム!」
オープンビーチでは色々と大変ではあったが、収穫も多かった。
刺身を売ってイベトを稼げたし、釣り竿用の木材も手に入った。それに、図鑑も少し埋まったのだ。
「ハマヒルガオにハマエンドウ。あとはシュロか」
図鑑に登録できる物はいたる所にあるらしい。これは気を抜けないぜ。
「さて、醤油も補充したし、また刺身用の魚を仕入れないとな!」
そのためには、釣り竿が必要だ。
「サクラ、作れる?」
「――!」
「おお、頼もしい!」
サクラは満面の笑みで木材を手に取った。どうやら自信があるらしい。
「うーん、できれば作業場があるといいんだけど……」
村に工房などあるはずもない。だが、周囲を見回してみると利用できそうな場所が目に入った。雑貨屋さんの外に置かれた、テーブルと椅子だ。
もしかして、軽作業用のスペースなのか? そう思いつつ貸してもらえないか尋ねてみると、好きに使えと言うことだった。
それどころか、釣り竿を作ると話すとアドバイスまでもらえてしまったのだ。なんと、釣り糸に最適な糸を売ってもらえたのである。
店には並んでいない商品だったのだが、何か裏商品を売ってもらうためのトリガーでも引いたかね? 釣りの話をしたのが良かったのかもしれない。
「普通の糸でも作れるはずだけど、これがあれば高性能の竿が作れるんじゃないか?」
「――!」
「楽しくなってきたな!」
俺はサクラと手分けして、早速釣り竿作りに取りかかることにした。
「ああ、みんなは少し遊んでていいぞ」
「フム!」
「ペン!」
水中コンビを先頭に、うちの子たちは岩場に駆けていく。これがリアルだったら溺れる心配をするところだが、モンスたちなら安心だ。それに、万が一があっても最強のライフセーバーが付いているからね。
それでも一応釘は刺しておこう。モンス達、目を離すと意外と無茶するのだ。
「おおーい! 危険なことはするなよ!」
「モグ」
ドリモが俺に振り返って軽く頷く。俺が見てるから心配するな。そう言いたげな様子だ。ドリモさんマジ頼りになるぅ!
「ドリモ、サンキューな」
「モグモ」
背を向けて歩き出すドリモの背中が頼もしすぎるぜ。まあ、あっちは任せておけばいいだろう。
「じゃ、俺たちはこっちで作業だ」
「――♪」
サクラがいそいそと俺の隣に座り、ニコリと笑った。俺と一緒に作業ができて嬉しいと、アピールしてくれている。うむ、可愛い。
俺はその頭を軽く撫で、そのまま作業を開始した。まあ、メインはサクラが担当して、俺はヤスリをかけたりする地味な役回りだけどね。
そうして1時間後。
6本の釣り竿が完成していた。全てに釣りスキルが付与され、これがあれば誰でも釣りが楽しめるはずだ。
「こっちの竿は、どっかで売ろうな」
「――……」
試しに普通の糸で作った竿は、酷い性能だった。比較するとこんな感じだ。
名称:木製の釣り竿・サクラ印
レア度:2 品質:★7 耐久:220
効果:釣りスキル付与
重量:2
名称:木製の釣り竿
レア度:2 品質:★2 耐久:120
効果:釣りスキル付与
重量:2
名前をサクラ印に変更した方が、完成品である。一見すると品質以外の差はないようだが、スキル付与アイテムは、品質でスキルの効果が大きく変わるらしい。
木製釣り竿の場合、★1つで釣りスキルのレベルが2~3程度上下すると言われていた。★7と★2では、最低でもスキルレベルが10は違うということだ。これは大きいだろう。
本当は刻印・風も試してみたかったんだが、無理だった。細すぎて印を刻めなかったのだ。残念だが仕方ない。
「じゃあ、これで釣りに行くか! オルトたちはなにして――って! なんか大漁なんだけど!」
「ム?」
岩場で遊んでいたはずのオルトたちの前に、魚介類が山と積み上げられていた。
「ど、どうしたんだこれ?」
「ムー!」
「ヒム!」
「モグモ!」
10個ほどあるビギニシジミは、オルトとヒムカ、ドリモが砂浜を掘ってゲットしてくれたらしい。潮干狩りってことか。
他にいる、ビギニエビやビギニホタテは、ペルカたちの素潜りの成果だろう。想像以上に食料の確保は簡単そうだった。第2陣のプレイヤーのためにも、その辺の難度は低いのかもな。
「よくやったなみんな!」
俺が褒めると、モンス達が嬉し気に飛び跳ねる。うむ、可愛い奴らめ。
「それじゃあ、釣り竿が出来たから、また釣りに行くぞ!」
「フムー!」
「ペペーン!」
みんな楽し気だが、ルフレとペルカの喜びようは尋常ではない。もしかして、船を曳くのがそんなに楽しかったのか?
2人とも俺のローブをグイグイと引っ張って、貸船屋さんに連れて行こうとする。やっぱり、船が好きなようだ。
「分かった分かった。急ぐから」
「フームー!」
「ペーン!」
今回もモンスブーストが期待できそうだぜ。
 




