379話 オープンビーチ
プライベートビーチで一通り遊んだ俺たちは、砂浜の上で休憩していた。
「はー、遊んだなー」
「ムムー!」
「みんなも楽しかったか?」
「――♪」
「フム!」
モンス達も楽しめたらしい。いつもだったらここで食事にでもするんだが、今日はそれができない。
そもそも、食料があまりないしね。バザールにはハチミツとかも売ってたから、戻れば食事は問題ないんだが……。
「いや、待てよ。オープンビーチに行けば売ってるかも」
オープンビーチの方にはバザールと同じように、屋台や露店を出すことができるらしい。さっきはプライベートビーチに心奪われていて全く気にしていなかったが、食べ物なども手に入るかもしれんな。
「ちょっと覗いてみるか」
「フム!」
「モグ!」
ということで、オープンビーチに入ってみたんだが――。
「うわぁ……」
凄まじい混雑具合だった。砂浜の空間を拡張して、混雑緩和を狙ってるんじゃないのか?
水着のプレイヤーが多いけど、普通の防具のプレイヤーもそれなりにいる。外見を変えるだけの外装にお金を掛けたくないという人も、それなりに多いんだろうな。
凄い混雑に戸惑っていたら、すぐに原因が分かった。
「みんな、男だもんな……」
「ム?」
「俺たちは、露店いくぞ」
「ヒム!」
入り口付近で、女性プレイヤーたちがキャッキャウフフと遊んでいたのだ。ビーチボールをパスし合いながら、楽しんでいる。全員が水着で。
それを遠巻きに色々なプレイヤーたちが見ているのだ。男性比率が高いのは仕方あるまい。
セクハラにならんのかと思ったが、さすがに見ているだけではそうならないようだ。それにだ、女性たちの人数は8人。ぶっちゃけ、見られたくないならプライベートビーチに行ける人数だ。
それでもオープンビーチの、しかも入り口付近で遊んでいると言うことは、まあそう言うことなんだろう。最近は流行ってるらしいしね。肉食女子。
「ま、俺には関係ない話だ」
「モグ?」
「ペン?」
ただ、半分くらいのプレイヤーはこっちを見ている。うちの子たちは目立つからなー。
「ムム!」
「おっと、すまんすまん」
「――!」
「ちゃんと歩くから引っ張るなって」
オルトたちに引っ張られながら、少し歩いた場所にある、ビーチバザーの会場に向かう。そこでは期待通り、百を超える露店が並んでいた。
「ほほー、色々あるじゃないか」
「――!」
露店では魚やこの辺のモンスターからドロップするアイテム以外にも、料理や防具が並んでいた。
防具なんかはあまり強くはないが、呼吸時間延長などの効果が付いている。
「お、これいいな」
「うえ? もしかして白銀さん?」
「ああ。このハチミツ飴、3つもらえるか?」
「はーい! ありがとうございます!」
正直、俺の正体がバレるのは仕方がない。ペルカもいるし、他の子たちも可愛いし。可愛くて珍しいモンスを連れた銀髪のテイマー=俺、という図式が成り立っているのだ。
俺自身はともかく、うちのモンス達は非常に目立つ。それに合わせて、その主である俺のこともそれなりに知られてきているようだった。
レイドボス戦で実感したね。なんか、全然知らん人から知られているだけじゃなくて、新人さんにも俺を知ってる人がいたのである。
どうも、掲示板に色々と情報が書かれていたらしかった。怖くて見てはいないけど、悪口じゃないっぽい。
うちの子たちの可愛さとか、有能さがメインで書かれているようだ。
ただ、ああいう掲示板って、褒めるだけじゃないじゃん? 絶対に良く知りもしないくせに、適当な悪口書き込む奴がいるじゃん? それも、あたかも事情通ぶってさ。
そういうの見るだけで精神ガリガリ削られそうだから、今後も自分関連の掲示板は見たくないのだ。
「うわー、まじペンギン!」
「ス、スク水! 白銀さん分かってる!」
「オルトキュン……ぐは!」
「衛生兵! 衛生兵はいないか!」
「ああ、サクラたん、おうつくしひ……」
メッチャ見られているけど、全く気にはならない。というか、オルトたちが周りからガン見されるのにはもう慣れたのだ。視線を受け流すコツは、周囲のプレイヤーたちを意識の外に追いやって、自分たちだけしかいないと思い込むことだね。
それに、話しかけてくる人はいない。LJOはその辺のマナーがしっかりしてるし、いいゲームだな。
その後、俺はモンス達の食事を買ったりしていたんだが、イベトがかなりギリギリになってきてしまっていた。
最低限の食事はゲットしたが、このままでは釣り竿用の木材などは買えそうもない。バザールの近辺に戻れば森があるらしいし、そっちで伐採か?
「いや、普通に料理を売ればいいか」
ここに露店を出すのはタダで済む。だったら、さっき釣った大量の魚を料理して、売ってしまえばいいだろう。
調味料は、漁村で入手済みだ。あとはスペースを借りるだけである。
「えーっと……ウィンドウから申し込めばいいんだっけ?」
操作は簡単だった。1分かからず、俺に与えられた露店スペースの場所が表示される。もっと奥の方かと思ったら、意外と入り口に近い。
空いたスペースに後から来たプレイヤーを順番に入れていく形なのだろう。
「まずは料理をしちゃうか。大量にあるアジで簡単に作れるものは……」
普通に考えれば、アジフライやアジの南蛮漬けが思い出されるんだが、さすがにここじゃ作れない。
「薬味も野菜もないし、結局刺身くらいしか作れるものがないんだよな……」
まあ、仕方ないか。考えてみたら、新鮮なアジの刺身に醤油があれば、他に何もいらんよな。
実際、作った刺身30人前は、速攻で完売してしまった。300イベトとそれなりに強気の値段設定にしてみたんだが、あっという間だったな。
醤油が切れてしまったので販売中止にしたが、作っていればもっと売れただろう。
「また漁村に行かないと」
今回の露店で、一気に9000イベトも稼げてしまった。これでさらに調味料を仕入れて、もっと稼ぐのだ!
「しかし、どうしてうちだけあんなに売れたんだ? 他にも刺身を売ってる店あるのに」
効果も1時間HP+5という、あってもなくても大して違いがないものだったし、本当にただの刺身だった。
なのに、うちだけ大盛況だったのだ。
「みんなも、ご苦労様だったな」
「ムー」
「――」
「ペン」
売り子をしてくれていたオルトたちも、てんてこ舞いだった。あ、もしかしてオルトたちの可愛いパワーのおかげか? それにしてはお客さんの集まりが早かった気もするが……。
父が亡くなった関係もあり、今年はお盆にお休みをいただきます。
次回の更新は8/18になりますので、よろしくお願いいたします。




