374話 真夏の毒毒生物
魚屋の大将からは情報だけではなく、300イベトまでいただいてしまった。料理を作るというのが、クエスト扱いだったのだろう。
おかげで、料理に使ってしまったビギニアジを買い直すだけでなく、ビギニタコとビギニイカも入手できた。
ああ、因みに、料理に使った白米や海苔は、持ち込みアイテムだ。料理セットなどの生産セットには、5種類×20個まで、関係アイテムを登録できるのだ。
そうじゃないと、生産職が最初は何もできなくなるからな。
俺はおにぎり用の白米、海苔。何にでも使える食用草の粉末。醤油、味噌を持ち込んでいた。さすがに料理はセットに登録できなかったので、太巻きは諦めた。
「料理1つ作って300か……。モンスターから入手できるイベトが少な過ぎないか? いや、あれは雑魚だったからか?」
初心者の平原で倒した灰色リスなどからは、1イベトしか手に入らなかったのだ。上位に入りたければ、もっと強いモンスターを狩らなくてはいけないのだろう。
「ま、俺に戦闘でのイベト稼ぎは無理なんだし、他で頑張ろう」
例えば、釣った魚を料理して売るのもいい。その為には、大量の魚が必要となるのだ。
「貸船屋さんにいってみるか」
「フム!」
「ペン!」
この漁村に来て以来、ルフレとペルカが特に元気だ。海の近くだからかね?
この場所からも、海が見えている。なにせ、村のすぐ前が海だからな。青い海からは、すがすがしい潮風が吹きつけている。
「……船を借りるのはいつでもできるし、海に行ってみるか」
「フムムー!」
「ペンペペン!」
ルフレたちは当然賛成だよね。他のみんなもワクワク顔だ。ヒムカ以外は。やはり火の精霊だけあって、水は苦手であるようだ。
「ヒムカ、海行ってもいいか?」
「ヒム」
ローテンションで頷くヒムカ。
まあ、水に浸かったらダメージを受けるって訳じゃないし、気分の問題なのだろう。今回はちょっとだけ我慢してくれ。無理に海に入れとは言わんから。
ということで、俺たちは村の散策を一時中断して、海に向かう。
「海は海だけど、ここで遊ぶのは難しそうだな……」
この辺は、地形が少し特殊だった。
海→ゴツゴツした岩場が広がる磯→砂浜→村という感じだ。海に行くには磯を超えねばならず、水遊びをするという感じではない。
そこそこ荒い波が磯の岩場で砕かれ、盛大に水飛沫が巻き上げられている。そこで躊躇なく海に飛び込んだルフレとペルカはさすがだが、俺たちには無理だ。
だが、やれることがないわけじゃないぞ?
「やった新種の図鑑登録達成だ!」
「モグ!」
「――!」
磯には、いくつかの生き物がいたのだ。最初に見つけたのがフジツボ。次に見つけたのがヒトデである。
だが、3種類目の生物が事件を起こす。
「ムムー!」
「オ、オルト! どうした!」
少し離れた場所で潮だまりを覗き込んでいたオルトが、いきなり悲鳴を上げたのだ。
「え? 毒?」
「ムムー……」
情けない表情で俺のそばに駆け戻ってきたオルトは、毒に侵された状態であった。
数秒に1点ダメージという微毒だ。しかも、俺が毒消しを捜している最中に治ってしまったので、被害はほとんどなかった。
オルトがビックリしたくらいだろう。
「にしても、何があったんだ?」
「ム?」
俺の足にしがみ付いているオルトの頭を撫でてやりながら、状況を確認する。すると、オルトが潮だまりの近くまで歩いて行って、俺たちを手招きした。
「お、俺達まで毒にならないよな?」
「ム!」
オルトが自信満々に頷く。どうやら近づくくらいなら大丈夫っぽいな。
「で? 何がどうして毒をくらった?」
「ムム!」
「この魚たちか?」
「ム!」
バスタブほどのサイズの潮だまりにいたのは、無数の小魚の群れだった。ナマズっぽい外見の黒い魚だ。それが、何十匹も集まって、一個のボールのようになって泳いでいる。
「へー」
「ムム!」
俺が触ろうと手を伸ばすと、その手をオルトに叩かれた。触るなと言っているようだ。
どうやらこの小魚が、オルトに毒を与えた相手であるらしい。
「えーっと……ゴンズイ?」
どっかで聞いたことがあるような……。登録されたばかりのイベント図鑑を見て思い出した。
ナマズの仲間の海水魚。背びれと胸鰭に毒を持つ。身を守るために作る球状の群れは、ゴンズイ玉と呼ばれている。ゴンズイが死んでも毒は消えないので、みんなも注意しよう。刺されるととても痛いよ!
イベント図鑑にはそんな風に書いてある。俺がどこかで見たことがあるのも当然だった。ニュースか何かでやっていた、夏休みの危険生物特集で紹介されていたのを見たのだ。
「この図鑑の書き方……。完全に子供に注意を促す感じだよな」
ゲームの中で夏の海辺の危険生物を登場させて、リアルでの注意を促そう的なことなのか? やはり、第二陣だけではなく、子供プレイヤーを意識したイベントっぽいな。
「毒が軽かったのも、注意を促すことが目的だからかね?」
「ム?」
「まあ、いいや。今後は俺もみんなも、不用意に未見の生物に触れたりしないこと! 分かったな?」
「ム!」
「ヒム!」
「――!」
オルトたちは勢いよく挙手してくれた。ヒムカは、そもそもそんなことしないよって感じの顔だ。
「ルフレとペルカが戻ってきたら、注意してやらんとな」
そんなことを考えていた俺の耳に、ペルカの悲鳴が聞こえてきた。
「ペギャー!」
「やべっ! 遅かったかも!」




