371話 いろいろなどうしょくぶつ
ヒマワリを購入した後、俺は屋台を巡ってみることにした。
そこで理解したのは、屋台に売っている物を鑑定しても図鑑には登録されないが、購入後なら問題ないと言うことだ。
実際、屋台で販売していたカブトムシは、買った後に図鑑に登録されていた。
ただ、俺にとって重要なのはそこではない。
「おいおい……カブトムシが飼えるのかよ」
見た目は普通のカブトムシだ。従魔でもなく、育てたからといって何か恩恵がありそうでもない。
だが、そんなことはどうでもいい。男の子の永遠の憧れ、カブトムシ。それがゲーム中で飼育できるとは……。
「このケースは、自作できるのか? 完全にプラスチック製だと思うが……」
カブトムシは、透明なプラスチックケースに入れて販売されていた。蓋が青や緑の籠状になっている、リアルでよく見るやつだ。
名前が飼育ケースだし、それ専用のアイテムだろうか? これがあれば、捕まえた昆虫を飼えるのか?
だとしたら、このケースが欲しい。
「町の中を巡ってみるか」
そう思って都市を歩いていると、周囲のプレイヤーが増えてきた。そして、ほぼ全員が俺を見ている。
「ムーム!」
「ペペーン!」
まあ、うちの子たちは目立つもんな。そこにペルカが加わって、最早うちよりも目立つパーティなどないレベルで目立っているだろう。
いつものように遠巻きにしているだけで声をかけてくるようなプレイヤーはいないし、ここは気にしないでおくべきだろう。
「うーむ、飼育ケースは売ってないな……」
「モグモ!」
「どうしたドリモ?」
「モグ!」
急にドリモが俺のローブの裾を引っ張った。何かを見つけたらしい。ドリモの視線の先を追ってみた。
どうやら、建物と建物の間を見つめているようだ。
「えーっと……ネコか」
「モグ」
そう言えば、この世界で野良猫を見たのは初めてかも知れない。マスコットなら存在しているんだけどね。
パッと見は茶虎の日本猫だ。
「ふむ。普通のネコだな」
鑑定した直後、イベント図鑑の動物のマスが1つ埋まる。ヒマワリといい、ネコといい、ごく普通の動植物が登録対象になっているようだ。
「カブトムシも登録されたし、なんか夏休みの自由研究みたいになってきたぞ」
いや、本当にそうなのかもしれん。世間は夏休みで、このゲームはたくさんの学生がプレイしている。小中学生も多いだろうし、それを意識したイベントであってもおかしくはないだろう。
「まあ、いいや。町の中にも図鑑登録対象が色々といるって分かったし。町中探検としゃれ込むかね」
「フム!」
「ヒム!」
「みんなもやる気だな。じゃあ、誰が次の対象を見付けられるか競争だ! どうだ?」
「――!」
「ペペン!」
それから10分後。
「――!」
「おお! よく見付けたなサクラ!」
サクラが指差す先には、小さな白い蝶が止まっていた。雑草の葉の上で羽を休めているのだろう。
「モンシロチョウ、ゲットだぜ! よしよし、よくやったな。次も頼むぞ」
「――!」
「ムム!」
「フム!」
どうやら褒められたサクラを見て、他の皆のやる気がさらに上昇したようだ。今まで以上に真剣に、登録できそうな対象を探し出した。
ルフレなんか、四つん這いで地面を観察したりして、やんちゃ過ぎる。しかも衣装がドレス風だからね。違和感が凄いのだ。
因みに雑草類は登録されなかった。正確には、夏の雑草という名前で一括登録されてしまった。それをタッチしてみると、ブタクサやらエノコログサやら、10種類の雑草の名前と写真を見ることができるのだ。憐れ、雑草たち。
あと、ハーブもイベント図鑑には登録されなかったね。バジルルなどが生えていたんだが。
「もっと特殊な……。いや、ネコとかヒマワリが特殊かどうかはわからんけど」
とかやっている内に、今度はヒムカが何かを発見したらしい。俺を手招きして呼んでいる。
「ヒムヒム!」
「今度は何を見付けたんだ?」
「ヒム!」
ヒムカが指差した先には、家の玄関に紐で繋がれた、一匹の犬であった。ラブラドールかな? ただ、鑑定結果はイヌとなっている。
「よし! よくやったなヒムカ!」
「ヒムー!」
そんな風に町を歩き回ること2時間。俺たちは町をぐるりと一周してしまっていた。結構広い町だったが、全プレイヤーを収容するにはこれくらいは必要なんだろう。
町の中央にはプレイヤーであれば自由に露店を開ける広場が存在しており、すでに多くのプレイヤーたちで賑わっていた。
広場は一見するとそこまで大きくないが、エリアに存在するプレイヤーの人数に応じてサイズが変化するらしいので、全プレイヤーが集まっても問題ないそうだ。
「で、収穫は飼育ケースの発見と、図鑑が少し埋まったことか」
すでに発見していたヒマワリ、カブトムシ、モンシロチョウ、ネコ、イヌに加え、ジョロウグモ、アジサイを発見している。
蔓が門に巻き付いた朝顔も発見したんだが、何故か図鑑には登録できなかった。雑草とひとくくりにもされないし、何で登録されないのかは不明だ。
まあ、折を見てまた鑑定してみて、ダメだったらアリッサさんにでも相談してみよう。
今回はサーバー分けされていない以上、どこかにはいるはずだからね。
「よし、町の雰囲気は掴めたし、次は外に出てみるか」
「ム!」




