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37話 ハーブティー

 ログインしました。緑桃の木には花の蕾が5つ付いている。収穫できるのは明日か。2日に1回収穫できるのは悪くないな。


 水臨樹はサクラを生んで以来、特に変化がない。ただ、急に成長した前例もあるし、またいきなり巨大になるかもしれないな。


 苗木も増えたし。この畑が果樹園になる日も近いかもしれない。


 まずは日課を済ませちゃおうかな。今日植える作物をオルトに株分してもらい、残った物を薬と食べ物に変え、薬を売りに行く。


 オルトだけじゃなくサクラも育樹があるし、リックは採集で木の実を収穫してくれている。


 それと、リックが持っている剪定というスキルは中々面白いスキルだった。どうやら樹木系限定で品質を上げてくれるスキルらしい。果樹園ルート一直線だね。


 とはいえ、このまま農業プレイだけをし続けるつもりはないぞ。いや、農業は続けるけど、フィールドを冒険だってしてみたいのだ。


 とりあえずクリアできるクエストから報告に行っちゃおうかね。俺はアリッサさんの露店から戻った後、オルトたちとともに花屋さんに向かった。


「どうも」

「あの時の兄ちゃんじゃないか!」

「これ、頼まれてたワイルドストロベリーです」

「おお! 作ってくれたんだな! ありがとうよ! ほら、これは報酬だ」


納品クエスト

内容:ワイルドストロベリーを栽培し、その実を10個納品する

報酬:200G、ミントの種

期限:なし


 200Gとミントの種だ。ミントっていう種がある訳じゃなく、ブルーミント、レッドミントの2種を5つずつもらえた。雑草も充実してきたよな。


「改めて礼を言うぜ。おれはスコップっていうんだ。よろしくな」

「あ、ユートと言います」

「なあ、ユートを見込んで頼みがあるんだが、話だけでも聞いちゃくれないか?」

「頼み、ですか?」

「おう。実は俺の弟が露店をやってるんだが、ちょっと仕入れの事で困っててな。助けてやってほしいんだ」

「助けるって言っても、俺はあまり戦闘が得意じゃありませんよ?」

「大丈夫だ。まあ、話だけでも聞いてやってくれよ。な?」


 うーん。これってチェーンクエスト的な奴なのか? まあ、話を聞くだけならいいか。無理そうなら断ればいいんだし。


「わかりました。とりあえずお会いしてみますね」

「弟は北区で露店を開いてるからよ」


 おじさんの言葉と同時に、マップに赤い点が表示される。


 俺はそのままの足で弟さんの露店に向かった。


「ムム」

「――♪」


 オルトとサクラは仲良く後ろを付いてくる。一見姉と弟なんだが、どうやらオルトが先輩としてサクラをリードしてやっているらしい。うーん、微笑ましいね。


「お、あれかな」


 言われた通りの場所には、確かに露店があった。ここもマッピング中に通ったはずなんだが、露店は無かったように思う。クエストが切っ掛けになって見えるようになったってことか?


「あのー」

「おう、らっしゃい。何をお探しで?」


 出迎えてくれたのは、花屋のおじさんそっくりの厳ついおっさんだった。ただ、こっちの人の方がやや背が低いかな?


「花屋のスコップさんの紹介で来たんですが。何やらお困りという事で」

「おお。お前さん異界の冒険者か?」

「はい。ユートと言います。こっちは俺の従魔たちです」

「ム」

「――」

「キュ!」


 皆がぺこりと頭を下げて、挨拶している。うんうん、偉いぞ。


「まだ依頼を受けられるかどうかは分かりませんが、とりあえずお話だけでも聞かせてもらえますか?」

「いいぜ。俺はライバっていうんだ。よろしくたのむ」

「よろしくおねがいします」

「見ての通り、俺の露店はハーブやスパイスを取り扱っているんだが……」


 ライバさんの言葉通り、露店では色とりどりのハーブやスパイスを売っていた。塩や胡椒、レッドミントやバジルル等々。しかもハーブティーなどもあるな。これは俺でも作れるのか?


名称:ハーブティーの茶葉・カモミーレ

レア度:1 品質:★8

効果:なし。食用可能。


名称:ハーブティーの茶葉・ラーベンダ

レア度:1 品質:★8

効果:なし。食用可能。


「実はよ。ハーブの仕入れ先が休業しちまって、幾つかのハーブの入荷が滞ってるんだ。で、幾つかのハーブを栽培して納品してほしいんだよ」

「種は貰えるんですか?」

「勿論だ」


 それなら栽培自体は可能だろう。だが、大量のハーブを恒久的にというのは中々厳しい。畑を圧迫するし。そう伝えたら、一回だけで良いそうだ。


「新しい仕入れ先は見つけてあるんだが、収穫と運搬を合わせたら10日かかるらしいんだよ。だから、今週分の仕入れさえできたらいいんだ」


納品クエスト

内容:ブルーセージ、レッドセージを栽培し8個ずつ納品する

報酬:300G、ラーベンダの種

期限:4日


 うーむ。相変わらず安い報酬だな。だが、チェーンクエストであるなら、最終的に良い報酬が貰える可能性がある。NPCからの頼みだしな……。それに、俺はあることを考えていた。


 このゲームのNPCは高度なAIで動いているらしい。それに、自由度もそれなりに高い。だったら、NPCと交渉が出来るのではないか? そう思ったのだ。


「あの、ハーブの種って売ってもらえないですか? ハーブじゃなくても、花の種でも良いんですけど」

「種が欲しいのか?」

「ええ。ハーブ類に興味があるんです」

「異界の冒険者にしては珍しいな。依頼をこなしてくれたら考えてやらんでもないぞ?」

「本当ですか?」

「おう。別に貴重な物でもないしな」


 ライバさんに今ある種を見せてもらうと、ハーブはオレガーノ、ヨモギン。花はアジサイ、コスモスの種があった。


 言ってみるもんだな。それとも、好感度的な物が高いおかげか? 一応、ライバのお兄さんの依頼をこなしてるわけだしな。


「じゃあ、依頼受けます」

「そうか! ぜひ頼むぜ」


 という事で俺は、ブルーセージ、レッドセージの種を10個ずつ受け取ったのだった。ついでにハーブティーも買ってみた。味を試してみたいのだ。


 俺は頭の中で畑の空きを考える。依頼の種を植えるスペースが無いな。ハーブ用の畑が手狭になってきた。


「新しく買っちゃうか」


 ハーブ用の畑は品質を気にしなくても済むから、最も安い2000Gの畑でいい。どうせだから買っちゃうか。ハーブティーやポプリ、押し花を作る実験をするにしても、今のままじゃ素材が足りないし。


 ということで、俺は新たに2面、畑を購入するのだった。とりあえず手に入れたばかりのハーブの種を植えておく。明日には納品できるだろう。


 お次は楽しい実験タイムだ。いや、オルトがハーブへの水まきを終えるまで暇なので、時間つぶしがてらね。ついさっき存在を知ったばかりだが、ハーブティーはぜひ作ってみたいし。


「さて、今ある雑草は――」


 バジルル、カモミーレ、ワイルドストロベリー、チューリップだ。


 半分は実験に使っても良いな。言っておくが、単なる好奇心だけじゃないぞ。雑草やその加工物は特殊な効果こそ無いものの、味や香りは凄く良いからな。俺の美味しいゲームライフの為に、ぜひ必要なのだ。


 本当はコーヒーが飲みたいけど、発見したという報告は聞かない。いや、いつか自分で作った豆でコーヒーを淹れるなんて、夢があるんじゃないか? まあ、いつになるかは分からんが。


「普通にハーブティーを作るんなら、乾燥させればいいんだよな?」


 いや、待てよ。前にカフェで飲んだフレッシュハーブティーは、普通に摘んだばかりのハーブにお湯を注いでたな? 想像以上においしくて驚いたんだよ。そっちを試してみるか。


 俺は鍋でお湯を沸かして、そこにカモミーレを投入してみた。火を止めて少し待って見ると、段々と色が緑に変わってきたぞ。


名称:雑草水

レア度:1 品質:★2

効果:なし。食用可能。


 ハーブティーにはならなかった。味はどうだ?


「ぶふっ!」


 俺は口に含んだ直後に緑の水を噴き出していた。やばいね。雑草のエグ味だけを抽出したような味だった。ただただ不味い。ホレン草携帯食に匹敵するぞ。


 バジルルでも試してみたが、結果は同じただの色付き水だ。どうやらフレッシュハーブティーは作れないか、俺のスキルが足りないようだ。


「仕方ない。ドライハーブティーを試すか」


 こっちも簡単だ。錬金のアーツ、乾燥をかけるだけだからな。


名称:ハーブティーの茶葉・カモミーレ

レア度:1 品質:★4

効果:なし。食用可能。


 よし成功だ。これでハーブティーは基本乾燥させればいいということが分かった。

 

 ただ、品質は低いな。俺は店で買って来た★8の物と飲み比べてみる事にした。作り方は全く同じ。使う水も井戸水だ。


名称:ハーブティー・カモミーレ

レア度:1 品質:★3

効果:なし。食用可能


名称:ハーブティー・カモミーレ

レア度:1 品質:★7

効果:なし。食用可能


 さて、何か差があるか。


「ずず……。ずず……うん?」


 違う……かな? ★7の方が香りが強い気がする。本当にごく僅かだが。★3が不味いわけではないし、しばらくは品質を気にしなくていいか。


 お次はポプリかね。そう思ったが、ポプリってどう作るんだ? 単に乾燥させたハーブを袋に詰めればいいのだろうか? うーん。


「まあ、一度やってみよう」


 チューリップをアーツで乾燥させてみる。


名称:ドライフラワー・チューリップ

レア度:1 品質:★4

効果:なし。観賞用。


 だよね。乾燥させただけなら、単なるドライフラワーだ。とりあえずこれを細かく砕いてみるが……。出来たのはゴミだった。やっぱり乾燥させるだけじゃダメか。


「仕方ない。ポプリの作り方はログアウトした時に調べてみよう」


 最後はワイルドストロベリーだ。普通のイチゴだったらジャムにでもするが、砂糖もないし。そもそも小さくて、ジャムにするには量も少ない。これも乾燥させてみるかな。


名称:ドライハーブ・ワイルドストロベリー

レア度:1 品質:★3

効果:なし。食用可能。


 ハーブティーではなく、ドライハーブか。食用可能となっているし、俺は一粒口に含んでみた。うーん、微糖? 甘さ控えめにも程があるな。ただ、香りは悪くない。イチゴと柑橘系を混ぜたような、甘味と酸味の混ざった良い香りがする。花屋のスコップが言っていたように、ハーブティーやクッキーなんかに混ぜたら美味しそうだ。使い道は色々あるだろう。


「これは色々研究し甲斐がありそうだ」

「ムム!」

「お? 水まき終わったか?」

「ム!」


 どうやら終わったらしい。よし、次は冒険だな! 折角戦えるようになったのだし、西の森で腐葉土や水軽石を採取したいのだ。


「よし、みんな! 西の森に行くぞ!」

「ム!」

「――!」

「キュキュ」


 オルトとサクラはちょこちょこと後ろをついてくる。可愛いな! リックはまるで毛皮の襟巻のように、俺の首に巻きついている。


 ちょっと暑苦しいが、それ以上にモッフモフのフッカフカだ。お日様の匂いもするし、ずーっとこのままでも良いくらいだな。


 西の門に向かう道中も、メチャクチャ見られまくった。


「――あれがシロガネ――」

「――ああ、初日で――」

「――白銀はテイマー――」

「――まじで称号を――」


 耳を澄ませると、やはり俺の噂だ。まだ俺の噂は消えてないのか……。まあ、まだゲーム内で10日目だしな~。


 俺は少し速足で門へと急いだ。


 森へ入ってしまえば他のプレイヤーの目も遮られると考えたのだ。


 実際森に到着すると、他のプレイヤーの姿はほとんど見られなくなっていた。


 まあ、きちんとレベルを上げて進んでいるプレイヤーはとっくに次の町へ行ったし。残っているプレイヤーも、レベル上げのために難易度の高い北と南に集まっている。


 今、西の森に入るプレイヤーはそう多くないのだ。いない訳じゃないけど、広い森の中ならそう出会う訳でもない。


「よし、ようやく落ち着いたな」


 ここからが本番だぜ。初日に行ったきりの小川に向けて、レッツゴーだ。


「川に向かいながら、採取もガンガンやっていくぞ。特にリック、木の実は頼んだぞ?」

「キュキュッ!」


 リックは俺の肩の上でピシッと可愛らしく手をあげると、木々の向こうへと駆けて行った。採集をしに行ってくれたんだろう。


 途中で薬草や木の実などもゲットしつつ、俺たちは森の中を進んだ。


 先日までだったらエンカウント即死亡だった灰色リスや牙ネズミたちも、今の俺たちの相手じゃない。3、4匹の群れが相手でも、十分に戦う事が出来た。


 傷薬にポーションも用意しているし、即死じゃない限りは死に戻ることもないだろう。


「ふっふっふ、今までの俺ではないのだよ」

「ムム」

「――♪」

「キュー」


 とはいえ、サクラに大分負担をかけているが。オルトは壁、リックは遊撃しかできんからな。俺に至ってはアクアボール以外にやれることが無いし。


 サクラはタンク兼アタッカーとして、獅子奮迅の活躍だった。というか、サクラに頑張ってもらわないとこのパーティは崩壊する。


「うーん、俺たちってバランス悪いな」


 本当はサクラには足止め役に専念してもらいたいのだ。だとすると、必要なのは前衛のダメージディーラー。近接アタッカーとなる。


「この辺で近接アタッカーと言えば、奴なんだよな」


 俺の初めてを奪っていった憎いあの人。ワイルドドッグさんである。


 始まりの町の周辺エリアには、レアだという樹精は除いて6種類のモンスターが出現する。牙ネズミ、灰色リス、スネーク、ロックアント、ラビット、ワイルドドッグの6種だ。


 その中で近接アタッカーが出来そうなのはワイルドドッグしかいなかった。もしくはギルドでモンスターを買うか。


「まあ、1匹でいる犬を見つけたら、テイムしちゃおうかな」


 そう思うと、案外出現しないものだ。結局俺たちがワイルドドッグに出会ったのは、川の探索を一通り終えた後のことだった。


 しかも4匹の群れだ。


「やっべー! 皆、本気で行くぞ!」


 MP温存とか言ってられん。俺は魔術をバンバンぶっ放して、なんとか犬の群れを殲滅した。


「むー、犬に出会っても、テイムをするMPがない」


 数発は使えるけど、それでテイムできるとも思えない。


「仕方ない。今日は帰ろう。収穫はあったしな」

「ムム」

「キュー」

「――!」



 称号の所持数に関しての質問をいただきました。プレイヤーが他人の称号の所持数を知るには、運営の公開する4日に一度の集計データを見るしかありません。


 この集計データは最初にゲーム内時間で96時間経過時点。つまり1/5の12時に公開されました。なので、次は1/9の12時に公開されています。


 そして、ユートがユニークモンスターマニアの称号を得たのは1/9の昼過ぎなので、集計データ公開時にはまだ称号を3つしか持っていませんでした。という事にしておいてください。お願いします。


 また、32話の冒頭で9日経ったと書いてしまったことで、ゲーム内が1/10という誤解を与えてしまったようです。なので、9日目という表現に直しました。サクラとリックを入手したのはゲーム内時間で1/9日となります。

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[気になる点] 「俺の初めてを奪っていった憎いあの人。ワイルドドッグさんである。」  初めてを奪ったって凄い言い方ですね。
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