366話 桜でんぶと太巻き
「おー、これが白銀さんのホーム?」
「くくく……これは良い縁側」
「それよりも! 早く! ペンギンさんと遊ばせてください!」
相変わらず猛っているフィルマをなんとか落ち着かせると、俺はホームにいる従魔やマスコット、妖怪たちを縁側に集合させた。
「新しい仲間のペルカだ。よろしく頼むな!」
「ペン!」
「――!」
「キキュー!」
サクラが屈んでペルカと握手をし、リックはその周辺を走り回る。他の子たちも好意的な反応だった。
特に嬉しそうなのがルフレである。
「フム!」
「ペン?」
「フム~!」
「ペペ~ン!」
ペルカを高い高いしながら、クルクルと回り始めた。ペルカも手足をバタバタさせて、嬉しそうだ。水属性のモンス同士、共鳴するものがあるのかもしれない。
「ふわー、なにここ……しゅごい。ここに住みたい」
「くくく……入場料が取れるわね」
クルミとリキューも、うちの子の可愛さに目を輝かせているが、やはり一番テンションが高いのはフィルマだ。
「私もうペルカちゃんと遊んでいいですかっ! ねぇ! いいですよねっ!」
「あ、ああ。もういいぞ」
「わーい!」
フィルマがかつてないほどの満面の笑みで、ペルカたちに突進していった。
「クルミたちはどうする?」
「私も遊ぶ! 次、いつ来れるかわかんないもん!」
「くくく……わたしも、嫌いじゃないわ」
まあ、後は放置しても大丈夫かな。フィルマたちはモンスに意地悪するようなタイプじゃないし。
3人娘の接待はうちの子たちに任せて、俺はホームで料理をすることにした。
実は、ログアウト中にテレビを見ていて、ある料理を閃いたのだ。
「用意するのは白身魚。砂糖。あとは着色も兼ねたワイン少々」
まずは魚を茹でていく。
「で、茹であがったら細かく切ってミンチにして、砂糖を加えて――」
ああ、砂糖はつい先日、前線の町で発見された最新の調味料だ。今では多くの前線プレイヤーによって各地に持ち込まれ、大量に流通している。凄く安いわけではないが、発見当初に比べたら普通に手に入るようになった。
「よく混ぜてから――」
俺が作っているのは、昔ながらのご飯の友、桜でんぶである。まあ、色が薄いから、桜っぽくはないと思うけど。
以前から、白米に組み合わせられる甘い魚料理を試行錯誤していたんだが、TVの料理番組を見て衝撃を受けたね。
こんな身近に、魚を使った甘い料理があったとは。しかもご飯に合う!
「で、これをフライパンで炒って――」
俺は少しシットリ目の桜でんぶが好きなので、カラカラになる直前で炒るのをやめる。だが、それでもキッチリ料理は成功していた。
できあがったのは、魚のふりかけというアイテムだ。なるほど、確かにふりかけっぽい。
「味は……うん。少しコクが足りない気もするけど、ちゃんと桜でんぶだ。色も、意外と赤いじゃんか」
ワインが想定以上の仕事をしてくれたおかげで、全体的に薄らと桃色になっている。市販の桜でんぶに比べれば色が薄いが、素人が作ったのならこれでも構わないだろう。
「これを、いま炊いたばかりの豆ごはんで握れば――完成だ! 豆ごはんおにぎり、桜でんぶ入り!」
いい出来なんじゃないか? さて、味はどうだろう?
「うん! うまい!」
ご飯に混ぜた豆の食感もいいし、中の桜でんぶも美味しい。少し甘めに作ったのだが、ご飯に合わせるにはこれくらい濃い味の方がいいのだろう。
「まてよ、海苔も手に入ったことだし、太巻きとかもいいかもしんない」
酢飯と海苔はある。具は、桜でんぶ、赤キュウリ、シイリ茸、卵焼き、茹でエビと、メイン具材はほぼそろう。
干瓢があれば完璧だけど、まだ発見されてないからな。
「よし、太巻きいっちゃおう!」
巻き簀はないが、なんとかなるかな? 慎重に手で巻けば行ける気もする。まあ、それで失敗したら、サクラに木工で作ってもらおう。
ただ、海苔はまだ貴重だからな。できれば失敗したくない。タゴサックにもらった板海苔が数枚あるだけなのだ。
まずは具材の準備である。
「酢飯には、米酢を使いたいけど、まだないからね。ワインビネガーにしておくか」
オルトたちが食べられるように、具材は甘めでいこう。シイリ茸は甘辛く煮る。卵焼きも、砂糖多めだ。
いや、まてよ。伊達巻きにしてみるか? あれも確か魚のすり身を入れて焼いた卵焼きだったもんな!
卵はまだ貴重品だ。鳥系のモンスターのドロップからしか入手できないのである。ああ、そう言えばガルーダの卵をペルカに使っちゃったな。また入手しに行かねば。
試しに魚のすり身と砂糖、調味料を入れた卵焼きを作ってみると、ちゃんと伊達巻きと表示された。よし、これを使ってみよう。
「で、小振りな海老を煮つつ、赤きゅうりを細く切る」
これで準備は万端だ。さっそく太巻きを作ってみよう。
海苔の上に酢飯を敷き、用意した具材を乗せていく。桜でんぶはかなり多めにしておいた。
「で、これを巻いて――」
む、結構難しいな。グニャグニャしていて、全然真っすぐにならない。それでも、少しずつ海苔を丸めていき、なんとか太巻きっぽくはなっただろう。
「サクラに巻き簀を絶対に作ってもらう」
とは言え、完成した料理はきっちり太巻きと表示されていた。成功したらしい。まあ、品質が★1だけど、そこはご愛嬌ということで。
「うむ。まあまあ美味い」
リアルで食べる太巻きと比べると劣るけど、まあまあの味だ。これならモンスたちも喜んでくれるだろう。味見をしてもらいたいところなんだが、まだ遊んでるかな?
縁側に戻ってみると、3人娘とうちの子たちはだるまさんが転んだで遊んでいた。
「だーるーまーさーーーんがころんだっ!」
「フマ?」
「ワフー」
「アイネちゃん動いたー! あと、ナッツちゃんもー!」
クルミのフェイントに引っかかったアイネたちが、トボトボとアウトゾーンに歩いていく。すでにフィルマやペルカはアウトか。フィルマがアウトゾーンでひたすらペルカをモフモフしている。
まあ、どっちも幸せそうだからいいけど。
「残りはリキューとマモリちゃんだね!」
「くく……次も勝つ」
「あい!」
どうやら、この2人が強いらしいね。リキューなんて、チャガマを抱いているうえに、頭の上にダンゴを乗せてるんだけど。あれでよくバランスが取れるな!
まあ、もう少しで終わりそうだし、待っててみるか。
なんて思ってたんだけどね。
「あー! 白銀さんだ! ねえ! 一緒にやろうよ!」
「あいー!」
「ワンワン!」
「バケー!」
「ポン!」
可愛い子たちに囲まれて懇願されて、断れるやつがいるだろうか?
結局、その後は俺も混じってみんなで鬼ごっこやかくれんぼをして遊んだ。いやー、童心に帰ってしまったぜ。
マスコットたちが異様にかくれんぼ上手だった。毎日この屋敷で遊んでいるから、隠れ場所を熟知しているらしい。
そして、3人娘は最後に米料理を受け取り、ホクホク顔で帰っていったのだった。
ああ、途中でおにぎりと太巻きをおやつ代わりに出してみたけど、おおむね好評だった。唯一クルミが桜でんぶが苦手だったせいで、渋い顔をしていたくらいだろう。
うちの子たちはみんな美味しそうに食べていたから、今後はこれを量産してもいいかもしれないな。
それと、ペルカは基本魚介類が好きであるらしい。




