362話 未分化の力
「もどってきたぞー!」
「ムムー!」
レイドボス戦を終えた俺たちは、始まりの町にあるホームへと戻ってきていた。
あのラウンジから帰還する際、各地の転移門を選ぶことができたのだ。
「ウニャー」
「ワンワン!」
「お、ダンゴにナッツ、出迎えてくれるのか? 可愛い奴らめ!」
右手に仔犬の腹。左手に子猫の腹。どっちもフニフニで至高の手触りだ。これほど贅沢なおさわりがあるだろうか?
微妙に違う手触りのダンゴとナッツを堪能していたら、あっと言う間に10分経過してしまっていた。これがモフモフの魔力か……。
「さて、いつまでも遊んではいられん。ボス素材も手に入ったし、これをルインのところに持ち込んでみるかね?」
レイドボス戦でゲットできた報酬は、アンドラスの羽根×3、アンドラスの爪、アンドラスの尾羽、アンドラスの剛嘴の4種であった。羽根や尾羽は、ローブに使えるんじゃないかと思う。剛嘴は、杖かね?
あとは、サーバー順位が1位だったので、その報酬としてお金がもらえた。最終的に全サーバーでアンドラスを撃破できたため、どこでも報酬にそれほどの差はなかったようだ。
ピッポーン。
『MVPの集計が終了しました。第1サーバーのMVPに選ばれたので、報酬をお送りいたします。獲得票数、第1位でした』
MVPに選ばれたんですけど! え? まじ? しかも1位って……。
だって、戦闘で――いや、今回はちょっと活躍したな。死に戻ったが、アンドラスを地上に下ろしたのは間違いなく俺だ。
アンドラスの背中に乗ったのは偶然だけどね。そこを評価してくれたのかもしれない。あと、イベントを発生させたご祝儀的な意味もあるのかもな。
誰に入れるのか悩むし、とりあえずイベントを発生させたこいつに入れておけ的な票はあるだろう。
「ま、もらえる物が増えたんだから、ラッキーって思っておけばいいか」
追加報酬は、アンドラス退治MVPという称号と、お金とボーナスポイント。そしてアイテムだった。称号は効果なしの名誉称号だ。まあ、これはいい。
問題はアイテムだろう。アンドラスの剛嘴と、アンドラスの魔眼から選ぶことができるようだ。この2つがアンドラスのレアドロップなのだろう。
「うーむ……ここは魔眼一択だろ」
剛嘴はあるし、魔眼の方が杖やローブに使えそうだ。
インベントリに追加された魔眼を取り出してみる。目と言ってもグロテスクな物ではなく、青みを帯びた丸い水晶玉って感じだった。陽に透かすと、非常に美しい。
「あいー!」
「おっと、マモリか。どうしたんだ慌てて?」
「あい! あーいー!」
縁側に座って成果を確認していたら、そこに座敷童のマモリが突撃してきた。どうやら、俺に何かを訴えたいらしい。
「バケー!」「カパッ!」「モフフ!」「テッフ!」
「なんだなんだ? マモリだけじゃなくて、お前らもか?」
焦った様子のマモリに他の妖怪マスコットたちも加わり、俺の周りはあっという間に人外の者たちで囲まれてしまった。
「あい!」
どうやら、今出て来たばかりの転送扉に向かっているようだ。まあ、マスコットたちが行ける場所は、ここ以外は畑しかないが。
「なんだなんだ?」
まあ、ついて行ってみれば分かるだろう。
そのままマモリに先導されるままに歩くと、どうやらマスコットたちは俺を納屋に連れてきたかったらしい。
「一体何が――おおぉ? まじか! これを教えてくれてたのか?」
「あーい!」
リックとファウの卵にヒビが入ってた。孵化する直前だ。というか、孵化する!
俺がそう思った直後、ヒビが大きくなり、卵の内側から眩い光が溢れ出した。いつもの演出だ。
「まーぶしー!」
「あーいー!」
マモリも両手の平で目を覆って眩しさに耐えている。
「しかし、失敗したな~。リックたちを呼んでおくべきだった!」
モンス達に親子の感情があるか分からんけど、一応リックとファウの間に産まれた卵だからな。
「マモリ、リックとファウを呼んできてくれ」
「あーいー!」
マモリが納屋を出て言った直後、光が完璧に収まり、そこには新たなモンスが――。
「あれ? いない? なんだこれ。光の球?」
後には白い光の球がフヨフヨと浮かんでいた。
ウィル・オ・ウィスプのような光の精霊っぽいのかと思ったが、どうも違うようだ。マーカーが出ていないのだ。
俺が首を傾げていると、ウィンドウが自動で立ち上がった。
「えーっと、なになに……? 未分化の力が渦巻いています? アイテムを捧げて、力の方向性を決めてください?」
ああ! これか! アミミンさんのページに情報だけは載っていたやつだ。発生する条件は解明されていないが、卵が孵化する時に極稀に起きる現象であるらしい。
手持ちのアイテムをいくつかこの光の球に捧げることで、普通とは違うモンスが生まれてくる場合があるそうだ。灰色リスになったこともあるらしいので、絶対にレアモンスになるわけではないっぽいが。
「選択できるアイテムは3つか……」
モンスターの素材から、武器や道具まで、色々なアイテムを選ぶことができる。とりあえず、俺はインベントリの一番上にあるアンドラスの魔眼を選択してみた。
「ふむふむ。アイテムを選択すると、それに合わせてここの数値とか、種別が変化すると」
ウィンドウには3つの項目があった。格、潜在、種別だ。
アンドラスの魔眼を選ぶと、格が5、潜在が3となり、種別の欄には、鳥7、悪魔4、氷結5と表示されている。
次いで、アンドラスの剛嘴を選ぼうとしたんだが、「同種族のモンスターの素材は1種類しか選択できません」と表示されてしまった。全部アンドラス素材を選んで、レイドボスをゲット! とはできないらしい。
次に、オレアが素材生産スキルで生み出してくれた、樹精の霊木を選択してみる。格が7、潜在が5に増え、鳥や悪魔の種別は消えなかった。そして、新たに、樹木4、精霊2、が増えている。
試しにアンドラスの魔眼の選択を解除してみると、格2、潜在2に減少し、種別は樹木と精霊だけが残っていた。
「格、潜在は加算方式。種別は、選択した素材に含まれている属性的なものが表示されるのかね?」
次はイエローウッドを追加で選択する。すると、格3、潜在3、樹木5、精霊2、草花1と変化した。どうも種別が被った場合も、その種別ごとに数値が加算されるらしい。
多分だが、種別の種類が多けりゃいいってもんじゃない気がする。だって、鳥で悪魔で樹木で精霊で草花で氷結属性も持っているって、意味が分からん。そんなのキメラですらない。
だとしたら、種別の中でも最も高い数値が反映されるとか、一定数値に達している種別が反映されるとか、そんな形になるだろう。だとしたら、格、潜在が高いうえに、種別の値が高くなる組み合わせを発見せねばならない。
「制限時間があるのか。でもまだ50分以上ある。これは楽しくなってきたぞ!」
 




