360話 白銀さんも同じ枠
戦闘場所を砦の中庭に移し、アンドラスとの激しい戦闘が未だに続いていた。
どうやらプレイヤーたちは片方の翼に集中攻撃を仕掛けて破壊したらしい。アンドラスは未だに飛び立てていなかった。
まあ、その巨体から繰り出される攻撃などが厄介なことに、かわりはないようだが。
今も、騎士槍のように太い足の爪で胴体を貫かれ、無残にも死に戻っていくプレイヤーが映っていた。
「それにしてもプレイヤーが多くないか?」
中庭に集中しているからだろうか? 妙にプレイヤーの数が多く見える。
「アンドラスが落ちたタイミングで、戦闘班が戻ってきてくれたんだよ」
だからか。
「ああ、今コクテンが映った」
「コクテンさんが白銀さんの後を継いで指揮してくれているよ」
「ああ、それなら安心だ」
むしろ、その方が100倍安心だ。
「うおー! 白銀さんの特攻を無駄にするなー!」
「アイネちゃんのために!」
「サクラたんの仇を討つんだ!」
「オルトちゃんが目の前で消えるのを見た私たちのトラウマ! どうしてくれるんじゃーい!」
「戻ってきたらリックちゃんのいないこの悲しみ!」
士気は高いらしい。口々に叫びながら、突撃を繰り返している。
「なあ、この凄い動きをしてる女性プレイヤーは、戦闘班の人か?」
アンドラスと戦うプレイヤーたちの中でも、特に異彩を放っている女性がいた。黒髪を後頭部でお団子にした、非常に軽装の美少女だ。
最も危険なアンドラスの正面を受け持ち、そのヘイトを一身に受けながらも、死に戻らずに戦闘を続けている。
その戦いを見た感想を一言でいうなら――忍者? もうね、そうとしか言えない超高速機動が目の前で繰り広げられていた。
身軽な職業に加え、かなりのプレイヤースキルを持っているんだろう。
「それはKTKさんだ」
「ス、スケガワ! 知っているのか!」
「うむ、教えて進ぜよう」
ライデ――ではなくスケガワが言うには、あの女性は最強の一角と呼ばれているトッププレイヤーであるらしい。
こういうゲームでは、どのプレイヤーが最強なのかと、時おり語られることがある。
ただ、LJOではその議論に結論を出すのは非常に難しかった。
PvPもPKも存在せず、プレイヤー同士の対戦が以前のイベントのみだったからだ。しかも、そのイベントに不参加だったプレイヤーも多い。
それでも、普段の活躍や戦闘時の動きから、こいつは最強候補だろうと誰もが認めるプレイヤーが少数ながら存在するらしかった。
「彼女はその中でも特に有名なプレイヤーだ。レイドボス戦で無被弾とか、ゴブリンの巣を単独踏破とか、KTKじゃなければ嘘って言われるようなトンデモない記録が満載だぜ?」
称号の数が、俺に次いで2番目でもあるらしい。しかし、俺と違ってカッコイイ称号ばかりなんだろうな。
人間業じゃない先読みと、広すぎて宇宙人じゃないかって言われてる視野と、変態過ぎてチートの疑いを100回くらいかけられてるプレイヤースキルをもった、リアルチートプレイヤーだそうだ。
多くの後追いプレイヤーを生み出し、そのことごとくが心を折られる事態になっているという。どこの主人公だ!
「KTKの真似はするな。どうせ無理だから。それがシーフたちの合言葉だ」
「そ、そんな凄いのか。いや、確かに凄いけどさ」
今も、無数の羽根手裏剣を完璧に回避してみせた。何だあの動き。
空中を蹴るのは何かのスキルなんだろうが、その後のアクロバットな動きはプレイヤースキルの為せる業だろう。空中で側転してるんですけど?
歌で戦争を終わらせる愛を覚えてる系アニメのロボットが、敵のミサイル弾幕を回避する時にあんな動きをしていた気がする。
「重装攻撃特化系のプレイヤーの名前が多い最強候補たちの中で、唯一のアサシンタイプだからな。というか彼女が強すぎて、他の軽装身軽タイプのプレイヤーが候補に上がらないんだ」
時おり、活躍して目立つシーフや暗殺者がいたとしても「まあ、KTKほどじゃないな」と言われてしまうらしい。
「な、なにそれ! 超かっこいいじゃないか! うわー、憧れるぜ。俺もそんなこと言われてみたい」
「……白銀さんがそれを言うのか? 同じ枠だぞ?」
「え? 何?」
KTKの戦闘が凄すぎて、一瞬スケガワの言葉を聞いていなかった。すまんすまん。
だって、ムーンサルトで目から放たれた光線を回避するとか、もう映画の世界だろう。
今の光線。あれが凍結攻撃の正体っぽいな。当たった壁が白く変色したのが見える。霜が降りたようだ。
「あんな速度の光線。どうやって回避したんだ」
「さあ? トッププレイヤーの動きは、正直解析不可能だしな」
KTKさんとやらはさすがに最強の一角と言われることはある。未だに被弾がない。
数分後。
「クオオオォォォ……」
アンドラスのHPバーが砕け、その体がポリゴンに変わっていく。俺たちの勝利だ。
結局、KTKは最後までダメージを受けることなく、一切表情を変えないままであった。
あれが最強クラスのプレイヤーか。
なんか、ゲームを始めた頃、あわよくば最強と呼ばれたいなんて考えていた自分が馬鹿みたいだ。
最強プレイヤーになるには、あれと同列の強さが必要ってことだろ? いや、ムリムリ。過去の俺、馬鹿じゃないの?
万年運動不足サラリーマンが何夢を見ちゃってるのって感じだ。
「スケガワ」
「どうしたんだ? 遠い目をして?」
「俺、テイマーで一番を目指すよ」
「……ああ、KTK現象か。まあ、それがいいと思うよ?」
「うむ」
なんて話をしている内に、ステータスウィンドウにリザルトが表示される。
探索段階で死に戻ったプレイヤーには多少のペナルティはあるが、ボス戦で死に戻っても報酬が減らされることはないらしい。
ただ、一応MVP賞が存在しているようだ。その決定方法が少々特殊で、参加プレイヤーたちの投票で決められるらしい。上位5名に、同じMVP賞が与えられるそうだ。
「動画からでも投票できるみたいだけど……」
頼れるみんなのまとめ役だったコクテンと少し迷ったが、俺はKTKに投票しておいた。やっぱり、最後の戦闘では度肝を抜かれたからな。




