359話 死に戻り直後
「――っと、ここはどこだ?」
暗転の後、そこはホテルのラウンジのような場所であった。
床には豪華な絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリアがぶら下がっている。観葉植物や彫刻なども飾られているな。その部屋にソファや椅子などが置かれ、プレイヤーたちが思い思いに寛いでいた。
テーブルの上の果物やお菓子は、食べることもできるらしい。いたれりつくせりの空間だな。なんだここ?
「えーっと、ここは――」
「白銀さーん! ナイスファイト!」
「自爆攻撃さすがやでー!」
「さすしろー!」
「ナイス自爆! いい死に方だったね!」
「無茶しやがって!」
盛大に拍手をされた。どういうことだ? まるで馬鹿にされているような言葉だが、そうでないことは分かる。むしろ、褒められているようだ。
「な、なんだ? それに、誰?」
「ここは死に戻り組の待機場所だよ。白銀さんが派手なことやってくれたんで、みんな喜んでるんだ」
「あー、なるほど。死に戻り――って、スケガワ?」
死に戻りの待機場所にいるってことは、俺よりも先に死に戻ったのか?
話を聞くと、俺がアンドラスの背中にいる最中、羽根手裏剣が頭に直撃し、即死してしまったらしい。
「……目の前でミニスカヒラヒラさせて戦う奴が悪いんだっ!」
「ああ、そう」
つまり、ミニスカのプレイヤーに目を奪われて、回避に失敗したってことね。
「このゲーム、どう頑張ったってスカートの中は見えないのに」
「白銀さんも男なら分かるだろ? 男の性ってやつなんだよ!」
「いやー、俺には分からないなぁ」
そういうことにしておいてくれ。だって、周囲の女性プレイヤーの目が怖いんですもの。あれを前にして、自らの欲望を素直に口にできるスケガワ……。
尊敬は全くできんが、凄い奴だぜ。
「う、裏切り者!」
「な、なんのことやら。それよりも、今の状況は?」
「……白銀さんがアンドラスを地上に落としてくれたおかげで、勝てそうだよ」
このラウンジでは、未だに続いているレイドボス戦を見守ることができた。
大型モニターでも見れるし、自分のステータス画面からも視聴可能だ。しかも複数視点をザッピングできた。
「ムー!」
「ヒム!」
「うんうん。みんなもちゃんといるな」
モンスたちも、ソファに腰かけた俺の周りに集まってくる。オルトたちはいつもと変わらず元気そうだ。
「ごめんな。死に戻っちゃったよ」
「フム」
「モグ」
ルフレとドリモは、慰めるように俺の腰を叩いてくれる。「ま、仕方ないよ」と言ってくれているのが分かった。ええ子たちばかりやでホンマに。
「フマー」
「――」
ただ、アイネとサクラは非常に暗い表情だ。落ち込んでいるらしい。
「さっきのこと気にしてるのか? あれは仕方ないって。お前らのせいじゃないから」
「フマ?」
「――?」
「怒ってないって。それに最後は――いや、まてよ?」
ふと考えてしまった。
最後、思わずサクラとアイネをかばったけど、あれって意味あったか? だって、俺が死に戻ったら、どうせサクラたち従魔も死に戻るんだぞ?
むしろ、あそこはサクラとアイネを盾にしてでも――。
「フマッ!」
「わ、悪い悪い! 冗談だって」
思わず口に出していたか。アイネにポカッと叩かれてしまった。
まあ、目の前でアイネたちが炎に飲み込まれる映像はショックが大きそうだし、これでよかったんだろう。2人を盾にして生き残っても、動揺が凄すぎてどうせすぐに死んでたと思うしね。
「ほ、ほら、戦いはまだ続いているし、応援しよう」
みんながイベント映像を見やすいように、俺は床に胡坐をかいて座ることにした。左右をオルト、ドリモが固め、俺の膝の上にアイネ、背中から覗き込むような位置に、サクラとルフレ、ヒムカである。
「へー、いろいろな視点があるな」
一番見やすいのは、アンドラスを斜め上から俯瞰した映像かな? 迫力があるのは、アンドラスを正面に捉える映像だろう。
俺が死に戻る直前あたりからの流れを、スケガワが説明してくれた。
「白銀さんの起こした大爆発で、アンドラスの野郎が城壁に落ちて来たんだ」
ただ、俺が想定していたような墜落というよりは、軟着陸に近い感じだったようだ。着陸予想地点からプレイヤーが逃げ出す暇があったらしい。
考えてみたら、墜落させていたら被害が凄まじいことになっていたかもしれん。
巨体の下敷きになったプレイヤーは無事じゃ済まないし、砦にもダメージが入っていただろう。
そう考えたら、軟着陸が一番マシだったのかもしれないな。
砦を外から見ることができる映像には、一部が大きく崩れた城壁が見えていた。10メートル近くに渡り、完全に崩落している。
アンドラスが着陸した跡なのだろう。
砦のHP、大丈夫か? いや、まだイベントが敗北扱いになってないってことは、平気なのだろう。
「ソーヤ君たちも頑張ってるな……」
ああ、なんで俺はあそこで死に戻ったんだ!
みんな、頑張ってくれ! 俺のイベント報酬のためにも!




