358話 風を計算に入れないと
「フ、フマー?」
「ちょ、アイネッ?」
リックとアイネを入れ替えた瞬間、アイネが俺たちから後ろ向きのまま離れていく。
アイネがその場にとどまっているのに、俺やサクラが乗っているアンドラスが動いているため、引き離されているのだ。
「フーマー!」
「あ、あぶねー!」
慌ててアイネが俺の胸に飛び込んでくる。アンドラスがゆっくりと飛んでいてくれて助かった。
今は翼による強風攻撃をくり出している最中で、ホバリングに近い状態だったのだ。
「さて、作戦を説明するぞ? リキューの中二爆弾でアンドラスを地面に引きずり落とす。それはいいな?」
「フマ!」
「――!」
「だが、まずは、もう少しアンドラスの背中で耐えるぞ」
「フマ?」
「ああ、今すぐにはやらない」
狙うのは、アンドラスが急降下を始めた直後だ。
アンドラス自身が下に向かって勢いをつけてくれているし、地面にも近い。叩き落とすならその瞬間が最適だろう。
「フマー」
「――♪」
アイネとサクラが手をパチパチと叩いて褒めてくれた。同意ってことでいいんだよな?
「狙うのは翼の付け根だ」
爆弾1個で翼を完全破壊できるとは思わないが、片翼にダメージを入れればバランスを崩せるかもしれない。
「この爆弾は、起動スイッチを押して5秒後には爆発する。普通は投擲して使うんだが今回はそれは無理だと思う」
「――?」
これを投擲して使うには、アンドラスの背から飛び出した後に投げ付けるしかない。
「相手が動いているし、風も強い。俺の投擲じゃ狙った場所には届かない」
アンドラスの翼が起こす強風は、魔術や弓矢さえ弾いてしまうのだ。スキルも持たない俺の投擲なんか、絶対に防がれる。
「そこで、これを使おうと思う」
「フマー?」
「そうだ、サクラの鞭だ。ほら、翼の付け根の近くにも棘があるだろ?」
アンドラスの背中には、大小無数の棘が生えていた。この棘に爆弾を結び付けて固定すればいいのだ。
「よし、まずは爆弾の設置だな。行くぞ」
「――!」
「フマ!」
女の子2人の敬礼も良いものだね。スクショ案件だ。
「おっと、違う違う。今は急がねば」
それから数分。
俺たちは無事に爆弾の設置を終えていた。まあ、邪魔する相手は強風だけだしね。
それにしても、サクラの器用さは想像以上だった。爆弾を鞭で縛って棘に括りつける作業が、俺の予想の数倍速かったのだ。
丸い球体型の爆弾は、鞭を巻きつけるだけでも難しい。俺としては、多少雑でも、鞭でグルグル巻きにするつもりだったのだ。だが、サクラはそれでは不満だったらしい。
やりたいというから任せてみたんだが、まるで高速再生動画でも見ているかのような速さで、鞭をサッカーボール用のネットみたいに綺麗に編み上げてしまった。
爆弾にフィットするように編み込まれた鞭は、安定感抜群だ。これなら解けたりはしないだろう。後は鞭の余った部分を棘に巻き付ければ、設置完了である。
この技術を応用して、苔玉を上からぶら下げられるようにしたら綺麗かも知れないな。普通の球体型のランプでもいいけど。
「もう結構時間が経った。いつ急降下がきてもおかしくないから――うぉぉ?」
「クオオオオオオオ!」
「フマ!」
「――!」
ついに急降下がくるか! アンドラスの甲高い叫び声が響き渡った。予備動作として、翼が畳まれるのが分かる。このまま翼を大きく振り上げ、その勢いで体を急降下させるはずだ。
「いくぞ! アイネ、頼むからな!」
「フマ!」
俺は目の前の爆弾のスイッチを押すと、そのまま一気にアンドラスの背中を蹴った。
「――!」
「サンキューサクラ」
一緒に飛び降りたサクラが、再び生み出した鞭で俺を引き寄せてくれた。
「あとはこのままアイネ――ええ?」
「――!」
な、なんでだ! 俺たちの体がアンドラスに吸い寄せられるように、後方へと押し返された!
乱気流? いや、アンドラスが急降下し始めたことで生まれた真空的な場所に、空気が流れ込んだせいか?
ともかく、このままだと爆発に巻き込まれる。
「アイネー!」
「フマー!」
俺の言葉に反応したアイネが、俺たちの体を必死に引っ張ってくれた。だが、時すでに遅しだ。
目の前で、爆弾から炎が吹き上がるのが見えた。凄まじい勢いで、炎の壁が押し寄せてくる。
俺の視界が赤い炎で塗りつぶされた。
「アイネ! サクラ!」
「――!」
「フマ!」
俺はとっさに2人を抱き寄せ、炎に背を向けた。直後、背中に強烈な熱が襲いかかってくる。いや、熱さは精々ホッカイロをいきなり押しつけられた程度なんだが、急激に温度が上昇したのでより熱く感じたのだろう。
当然、俺の貧弱な装備とステータスで耐えられるはずもない。
一瞬で俺のHPバーが吹き飛んだ。




