354話 アンドラス
俺たちプレイヤーが陣形を組み上げた直後、ボスが砦の直上へと到達していた。
「なんとか間に合ったな!」
だが、相手はメチャクチャ強そうだ。
赤と黒の羽根に身を包んだ、巨大な鳥である。顔はフクロウっぽい平面な感じなんだが、体は細くてまるで燕のようだ。
「アンドラスっていう名前か」
確か悪魔の名前だったかな。以前、イベントで戦闘したグラシャラボラスと同じ、ソロモン72柱の悪魔だったはずだ。イベント系のボスは、その辺からの出典なのだろうか?
天空から砦を見下ろしていたアンドラスが、甲高い鳴き声をあげると、その翼を大きく羽ばたかせ始めた。
「クオオオオ!」
「うおぉ? か、風が!」
アンドラスの翼によって起こされた強風が、砦全体を襲い始める。
体が吹き飛ばされるほどの威力ではないんだが、無視できるほど弱くもない。立っている最中も、多少踏ん張っていないとバランスを崩してしまいそうだ。
「キ、キキュー!」
「リ、リック!」
「――!」
いや、リックにはかなり厳しかったらしい。俺の頭の上から飛ばされかけていた。サクラが鞭で助けるのがもう少し遅かったら、どこかに飛ばされていただろう。
「よくやったサクラ!」
「――♪」
「キュー」
鞭でグルグル巻きにされてサクラの腕の内に抱えられたリックが、「助かった~」という表情で安堵の溜息を漏らす。
「リックは俺のローブの中にこい」
「キュ!」
その間にも、風が少しずつ圧力を増している。どのプレイヤーも軽く腰を屈め、風に耐えていた。
すると、そこに何かが飛来する。
カンカン!
オルトが掲げたクワに弾かれたそれに目をやると、黒い羽根だった。羽根手裏剣的な攻撃なのだろう。風に乗せて一斉に放つことで、範囲攻撃が可能であるようだ。
しかも、アンドラスの行動は当然ながらそれだけでは終わらなかった。
「クウウオオオッ!」
アンドラスの叫びに呼応するように、黒く輝く小さい魔法陣が出現する。城壁の上だけなのだが、30ヶ所はあるだろうか。
「今度はなんだよ……。みんな! 光から離れろ! オルト、俺たちもだ!」
「ムム!」
攻撃か? もし砦に遠距離から攻撃できるとなると、防ぎようがないんだが……。
足元に浮かび上がった直径1メートルほどの漆黒の魔法陣は、どう見ても不吉な存在である。少なくとも、俺たちにとっていい結果をもたらすとは思えなかった。
オルトたちと一緒に、魔法陣から距離を取る。
「ムム?」
「――!」
俺たちの盾として一番前で武器を構えていたオルトとサクラが、警告するように唸り声をあげた。
その直後、魔法陣から何かが姿を現す。
「グルルル……」
「うわっ! でっかい狼!」
魔法陣は直接的な攻撃ではなく、召喚魔術のような物であったらしい。
黒い魔法陣から、漆黒の毛並みをした狼が飛び出してきた。
今回の敵は鳥だけじゃなかったのか!
だが、驚いてばかりもいられない。先制攻撃のチャンスなのだ。
「みんな、やれ!」
「――!」
「キキュ!」
俺たちは狼に向かって一斉に攻撃をした。他のプレイヤーたちも、召喚された直後の狼たちに攻撃を加えている。
だが、そのHPは想定よりも大分多いようだ。最初の一斉攻撃で倒された黒狼はいない。それどころか、そのHPは半減さえしていないだろう。
「強い!」
「なによこいつ!」
「かったいなー!」
魔法陣から現れた大量の黒狼を前にして、プレイヤーたちが顔をしかめている。せっかく組んだ隊列の内側にエネミーが召喚され、乱戦気味になっているからな。かなり厳しい状況だと理解したのだろう。
しかも、さらにこちらにとってマイナスの条件がある。
「うわ! 風が!」
「ちょ、羽根が飛んでくるぞ!」
アンドラスの引き起こす強風と、その風に乗せて放つ羽根手裏剣は未だに止んでいなかったのだ。
「白銀さん! どうしたらいいと思う?」
「ス、スケガワか。とりあえず狼を倒そう!」
空にいるアンドラスには、魔術師や弓士で対処するしかない。しかし、ただでさえ、戦闘部隊と砦防衛部隊でプレイヤーを分けているのだ。ここでさらに魔術師が抜けたら、黒狼を倒すまでにどれだけ時間がかかるか分からなかった。
だったら、片方に集中した方がまだましだろう。
「分かったよ白銀さん!」
「白銀さんの言う通りにしろ!」
「了解!」
ここまでは俺の指示で大失敗はしていないおかげか、皆が一斉に動き出してくれた。ただ、これでアンドラスが超威力の広範囲攻撃でもしてきて大量の死に戻りが出たら、戦犯は確実に俺になってしまうだろう。
あー、胃が痛い。まあ、ゲームの中だから、気のせいなんだけどね!
GW中の更新ですが、今年は休養に充てたいと思います。
今後の更新は、27日、4日、11日、15日を予定しております。




