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353話 スケガワの演説

「白銀さん!」

「スケガワもきたのか」

「ああ。ここからは生産班も防衛に加わるから、よろしく」


 これは心強い。生産職だって戦闘ができない訳じゃないからな。ただ、城壁に上がってきていきなりボスを見たことで、混乱してしまっているようだ。


「と、とりあえず生産職を入れてチームを組もう! 全部のチームにタンクを組み込んで防御重視で――」

「ダメだ! チームが組めない!」

「え?」


 誰かの悲鳴が聞こえたので慌てて確認してみると、確かにチームが組めない。というか、パーティそのものが解除されていた。代わりに、レイドパーティに組みこまれている。


 どうやら通常のレイドボス戦と同じように、レイドパーティでの戦いに変わったらしい。むしろこちらの方が当たり前なんだが、急にシステムが変わったため、各所で混乱しているようだった。


 さすがにこのままボスと戦うわけにはいかないだろう。スケガワもそう思ったのか、焦った表情で駆け寄ってきた。


「白銀さん、このままじゃまずい! みんなをなんとか落ち着かせないと!」

「ど、どうしよう?」

「俺に考えがある。ちょっと手伝ってもらっていいか?」

「できることなら何でもするぞ」


 俺が頷いた直後、スケガワがパンパンと手を叩きながら、大声を張り上げた。


「みんな! 注目! 白銀さんから話があるぞ!」

「え? ちょ、スケガワ? 何言っちゃってくれてんの?」


 手伝うと言ったけど、話ってなんだよ!


「いやいや、ここで何か皆を落ち着かせる一言を頼むよ。ささ」

「む、無理だって!」


 スケガワに声をかけられた周囲のプレイヤーたちが、一斉にこちらを見ている。やばい、何か言わないと!


 しかし、何も思い浮かばない。


 黙っている俺を見かねたのだろう。スケガワが俺の耳元で囁いた。


「じゃあ、俺の話に合わせてくれ。最悪、そうだって言ってくれるだけでいいから」

「お、おう。わかった」


 それくらいならできる!


「みんな! これはチャンスだぞ!」


 チャンス? 何を言い出すんだ? だが、ここで話の腰を折るわけにもいかない。とりあえずスケガワに合わせておかないと。


「そうだ!」

「白銀さんもそう言ってるぞ! いいか? もう一度言うぞ? これは、砦の防衛部隊の俺たちが、活躍するチャンスなんだ!」

「そうだ!」

「戦闘班が帰ってくるまで耐える? 否! ここで活躍すれば、メチャクチャ目立てるぞ! MVPも狙えるかもしれない!」

「そうだ!」


 MVPなんてものがあるのか分からない。むしろ、以前参加したレイドボス戦ではそんな物はなかったはずだ。だが、それで皆のやる気が出るなら、余計なことは言わないでおこう。


 スケガワと俺の言葉に、他のプレイヤーたちも盛り上がってきたようだ。まあ、俺はスケガワの言葉を復唱してるだけだが。


 俺も段々楽しくなってきたぞ。


「無理はしない! でも、活躍もするぞー!」

「「「おおー!」」」

「おいおい、白銀さん。ちょっと活躍するくらいでいいのかよ?」

「と、言うと?」

「ふっふっふ。あのボス、俺たちで倒してしまっても構わんのだろう?」

「おお! さすがスケガワ! 言うね!」


 他のプレイヤーたちからも拍手喝采だ。全員ゲーマーだからね。こういうノリが嫌いじゃない人が多いのだろう。


 混乱は完全に収まっていた。むしろやる気があり過ぎて、スタンドプレーに走らないかが心配なくらいだ。まあ、それでも混乱した状態のままボスに蹂躙されるよりはましだろう、


「とりあえず、陣形を組もう。まずは防御重視で様子見だ!」


 調子に乗った俺の指示に、プレイヤーたちが一斉に動き出す。


「そうだな! みんな、白銀さんの指示通り、隊列を組めー!」

「タンク、前に出て構えるぞっ!」

「魔術師は一番後ろだ!」

「ハリーハリーハリー!」


 ノリノリなのは分かるけど、少し聞き分けが良すぎじゃないか? いや、俺にリーダーを押し付けた手前、従ってくれているのかもしれない。


 そうして、隊列が組み上がった直後であった。


「キュオオオオ!」

「うわ!」

「ムム!」


 突如、不快な金切り声が俺たちを襲った。砦に接近してきたボスの鳴き声だ。


 ただ不快な声というだけではなく、音波攻撃のようなものであったらしい。陣形の前に並んでいたオルトたち盾職に、僅かにダメージが入っている。


 しかも、人によっては恐怖の状態異常に陥っていた。これは、恐怖を感じている相手に対してスキルや魔術の発動速度低下、命中力低下という、地味に辛い状態異常だ。


 即座に周囲の人間が治したので今は問題ないが、限界ギリギリの戦いになった時に状態異常にされると面倒かもしれない。


「オルトは大丈夫か?」

「ムム!」


 オルトは問題なさそうだ。俺に背を向けたまま、サムズアップで応えてくれる。ドリモの真似かね?


 ただ、恐怖の状態異常は、うちの子たちのようなNPCにはより大きな脅威であった。


 実は、恐怖という状態異常に陥っても、本当に恐怖心を感じる訳ではなく、怯えるようなこともない。いくらこのゲーム世界がリアルに近いと言っても、人間の感情や精神を操るような技術は未だに完成していないのだ。


 そもそもそんな真似できたら、ゲーム内にいる人間を外部から洗脳したりできそうだしな。


 恐怖や錯乱という状態異常に陥った場合は視界が震えたり、体の動きを阻害することで、疑似的にその状態を再現しているだけである。


 しかし、NPCの場合は違う。どうやら、ちゃんと精神的にもその状態に陥ってしまうらしいのだ。


 他のテイマーの話だが、恐怖状態に陥ったモンスが逃げ出してしまい、陣形が崩れて死にかけたという話を聞いたことがある。


「対策はしてあるけどな!」

「ム?」

「――?」


 俺は所持していた状態異常耐性を上げる魔法薬をモンスたちに振りかけた。これで、10時間は状態異常への抵抗にボーナスが入る。


 まあ、確実に防げるわけじゃないが、確率は大分減らせただろう。


 そうして音波攻撃への対策を施していると、ボスがさらに近づいてきているのが見えた。凄まじい速度であるようで、俺たちの想像以上に早く、この砦に辿り着くだろう。


「く、くるぞ! 防御主体! 反撃はヘイトを散らすために、魔術で一斉攻撃だ!」

「「「おう!」」」


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