352話 鳥寄せ餌
赤い鳥たちを駆逐したとはいえ、プレイヤーと鳥との戦いはまだ続いていた。
なにせ、黒い鳥どもはまだまだ大量にいるのだ。
すでに数度、鳥の襲撃を受けている。ただ、オートカウンターを持つプレイヤーの数が減ってしまい、思うように迎撃はできていなかった。
まだ死に戻りはいないが、少しずつプレイヤーの体力が削られている。しかも、それだけではない。鳥の攻撃によって、砦の耐久力も削られていたのだ。
そう、ダメージを受けているのは俺たちだけではなかった。
「白銀さん! やっぱりクリスタルの光が青から黄色に変化し始めてる!」
城壁の上に駆け戻ってきた石田の言葉に、俺や周囲のプレイヤーは呻いてしまう。
「あれが砦のライフを示すってことで間違いはなさそうだ」
砦が鳥たちによって破壊される度に、大広間のクリスタルが次第に変色してきていた。それがライフと同じ色だと気付いたのは、クリスタルの前で生産班を指揮しているソーヤ君である。
彼らから送られてくる伝令たちからの報告により、あのクリスタルが砦のライフを伝える物であるというのは確実であるようだった。
どうやらボスが出現するまでの時間は、砦の補修のために与えられた時間だったらしい。さっきまでは鳥に襲われても、砦が破壊されることなどなかったのだ。鳥の役割は、こちらの補修作業の邪魔だったのだろう。
だが、ボスが出現したことで、砦にもダメージが入るようになってしまった。もしくは、砦にダメージを与えられる鳥が出現したか。
ともかく、今後は自分たちだけではなく、砦も守る必要が出てきてしまったのだった。
まあ、その辺の考察は、石田とかソーヤ君の受け売りだけどね。
これは、多少のリスクを負ってでも鳥を殲滅する必要があるかもしれない。
「鳥を一網打尽にする……。やっぱあれを使えってことかね?」
実は、イベントアイテムである鳥寄せ餌が結構残ってしまっている。使い所が難しくてほとんど使用しなかったのだ。
この餌は、鳥寄せ石という素材から作られている。俺たちも、泉の中で手に入れた分しか発見できなかった。かなりレアな素材と言えるだろう。
他のプレイヤーも同じような状況らしく、俺たち以外には10組くらいしか入手できていなかった。
どこも、かなり分かりづらいところにあったようだ。俺たちの見つけた水の中なんてまだマシで、地面の中や、岩の中などに隠されていた場合もあったらしい。どうやって見つけたんだろうな?
この石を加工してできるのが鳥寄せ餌なんだが、使ったプレイヤーに対する鳥からのヘイトが上昇するという効果があるようだった。それこそ、範囲攻撃を放った時と同等である。
そのせいで最初に使ったプレイヤーが死に戻ってしまい、誰もが使うのを躊躇い、結果として余ってしまっていた。
これを使って鳥を集めて、皆でアイテムや魔術を使うのがいいのかね?
他のプレイヤーたちにも相談してみると、ほとんどのプレイヤーはその作戦に賛成してくれたのだった。
「じゃあ、白銀さんの作戦でいきますか!」
「まあ、白銀さんが考えたんだし、何とかなるだろう」
「そうそう、赤い鳥を滅殺した手際は見事でしたからな」
「サクラたん可愛い……」
妙に物分かりがいいので驚いたが、彼らもこのままではヤバいと分かっているのだろう。
というか、いつの間にか完全に俺がリーダーになっている。皆、それでいいのか? それとなく尋ねてみたが、皆がいい笑顔で「カウントは任せますから!」とか「指揮を取るなら真ん中がいいですよ!」とか言ってくれる。
どうやら、俺にリーダーを押し付ける気満々であるらしい。
「うーむ……」
仕方ない。もう鳥どもが再襲撃してくるまで時間がないし、ここはとりあえずリーダーっぽく振る舞っておこう。ここで指揮系統が混乱したら、まじでイベント失敗するかもしれん。
まあ、なるようになるさ。
「じ、じゃあ、魔術師とタンクでチームを組んでくれ! 戦士はアイテムを!」
俺の指示通りに皆が動いてくれる。よし、この分なら上手く布陣が組めるだろう。
やることはさっきとほぼ同じだ。ただ、鳥のヘイト集めに鳥寄せ餌を使い、鳥をより一ヶ所に集中させる。
「白銀さん! 鳥が動き出した!」
「よし! オートカウンター部隊は、鳥寄せ餌を準備!」
「「「おう!」」」
「魔術師は詠唱を!」
「「「了解!」」」
そして、作戦が開始された。
元々密度に偏りがあった鳥たちが、寄せ餌によってさらに一ヶ所に集まってくる。アイテムとスキルによってヘイトを稼ぎまくったオートカウンター部隊の周囲は、鳥たちが集まり過ぎてまるで漆黒のドームに覆われているように見えた。
その代わり、俺たちの周りには鳥が一切存在しない。
そこに周囲のパーティからの一斉攻撃が降り注いだ。魔法を放つ人数は減っているが、鳥が密集しているおかげで問題はない。
オートカウンター部隊も巻き込んでいるが、このゲームにはフレンドリーファイアがないからね。だからこそできる戦法と言えよう。
黒鳥たちがポリゴン化することで、漆黒のドームから無数の淡い燐光が立ち上り、メチャクチャ綺麗だな。
結局、その戦いで鳥の8割ほどを倒すことに成功したのだった。
「やった!」
「死に戻りはいないな?」
「俺たちの作戦勝ちだー!」
皆が喜んでいる。まあ、その気持ちも分かる。死に戻りゼロだったのだ。
ただ、問題もあった。
「今のでアイテムをほぼ使い切っちゃったんだけど……」
俺も皆も、調子に乗り過ぎてしまった。アイテムを使うと面白いように鳥が倒せるので、ついついアイテムを使い過ぎてしまったのだ。
大幅に数を減らしたとはいえ、鳥はまだ残っている。次の襲撃、どうしようか? オートカウンター持ちと、魔術師+タンクの同時攻撃でなんとかなるか?
「白銀さん! 追加のアイテムもってきました!」
「おお、ソーヤ君! あなたが神か!」
「え? え?」
「これで戦える!」
そんな風に喜んでいるのも束の間、鳥たちに再び異変が訪れていた。再び襲いかかってきたわけではない。
むしろ、北に向かって飛び去って行く。
その方角を見る俺たちの目に、あるものが飛び込んできていた。
巨大な赤黒い何か。それが空に浮かんでいる。
「あれは……鳥か?」
「大きな鳥ですねー」
それは、赤と黒の二色の羽根を備えた、巨大な鳥であった。多分、その翼長は25メートル以上はあるだろう。
どう考えても、アレがボスであった。
確実にこちらに近づいてきている。
「ついに来たかー」




