348話 ファウVS騒音
コクテンたちが他のプレイヤーたちと立てた作戦を聞かせてもらう。皆、戦闘班の中でも一目置かれているプレイヤーばかりである。
「えーっと、つまり。ヘイトを分散させるために、魔術師全員で一斉に範囲攻撃を放つってことか?」
「そうです。ただ、いくつか問題点があります」
まず、ヘイトがどこまで分散するのか分からないこと。
同時に放ったとしても、コンマ数秒のズレは絶対に発生する。完璧な同時など不可能だ。
となると、最悪の場合は一番最初に魔術を放ったプレイヤーか、最後に魔術を放ったプレイヤーにヘイトが集中する可能性もあった。
「一応、最初の時に分散していたようだから、心配はないと思うのですが……」
威力の差や、属性の違いでヘイトにも差異が出る可能性もあるらしい。
確かに、それはあるだろうな。俺のショボ魔術と、本職の超魔術で溜まるヘイトが同じだったら、運営に文句を言ってやるところだ。
「上級職の魔術師は上級職のタンクと組ませたり、回復アイテムを多めに配布したりということも考えているんですが……。なかなか話がまとまらなくて」
中には、上級プレイヤー優遇だとごねるやつもいるらしい。
あと、下手に博打をせずに、様子を見た方がいいんじゃないかというプレイヤーも少なからずいるようだ。
「ボスが出現する時間まで耐えれば、変化があると考えているみたいです」
「あー、それはありえるよな?」
「はい。でも、何もないかもしれません」
それに、ボスが出現するまでに鳥をできるだけ倒しておく方が、色々とよい可能性もあった。
例えば、倒した鳥の数に合わせ、ボスが弱体化したりといった場合だ。
「あれだけ手痛い反撃があるということは、イベント的に考えれば鳥を減らすことに意味があると思うんですよ」
「なるほど」
それは確かにそうだ。鳥を倒されたくないから、反撃を激しくしているわけだろうし。
「鳥を減らす方がいいかもな~」
「白銀さんもそう思いますか?」
「ああ。少し怖いけど、俺も協力するよ」
うーむ、モンスの布陣をどうしよう。
先程はファウが大分危険だった。しかも、敵の数が多すぎて回避盾としての役割は機能せず、歌唱演奏もデバフは無効化されてしまう。範囲攻撃もないから、攻撃してもいまいちである。
それに対し、今回の鳥に対して非常に効果的な能力を有するモンスターがいた。
「ヒムカを喚ぶかどうか……」
ヒムカの持つ逆襲者スキルは、オートカウンターの性質を備えている。鳥のように1撃で倒せる相手なら、ほぼ無敵に近いんじゃなかろうか? MPが続くうちは、という注釈が付くが。
でも、すでに従魔の宝珠は1つ使ってしまっているし、ファウもバフ役としては機能する。もう少し待つ方がいいか?
「喚ぶか……喚ばないか……」
どうせ喚ぶなら、さっきスケガワに頼まれた時に召喚しておけばよかった。
なんか、木工用にサクラとクママを入れ替えた時といい、今回のヒムカといい、このイベントでは後手後手に回ってしまっている。
そう考えると、ファウとヒムカの入れ替えに少し躊躇ってしまうのだ。
もし、ボスが出現した時にファウの能力が必要になったら?
しかし、他に入れ替えできるモンスもいないしな。
壁役のオルトがいなければ俺なんざ即死だ。サクラは壁役もできるうえに魔術も撃てる。回復役のルフレも外せないし、ドリモは最大攻撃力である。リックはスキルである木実弾によって、ヘイトを溜めずに範囲攻撃ができるから外したくはない。
「となると、やっぱファウなんだよな……」
「ヤ?」
クママといいファウといい、お前らそんな無垢な瞳でこっちを見上げるなよ……。狙ってるんじゃないだろうな?
「ヤー?」
いかん、純粋過ぎる目が凶器過ぎる。俺の心をグサグサ刺してくるのだ。
「ま、まあ、従魔の宝珠はあと2回使えるから、送還したファウを再召喚もできるしな」
だからすまん! ファウ!
「送還ファウ!」
「ヤ、ヤー?」
「召喚ヒムカ!」
「ヒムー!」
目を丸くした「え? 嘘? 私?」的な表情のファウが消え、右手を腰に当てつつ、左拳を天高く突き上げるポーズのヒムカが現れる。
「ヒムカ、頼むな」
「ヒムヒム!」
ファウのご機嫌取りの方法は後で考えるとして、今は鳥対策が優先だ。
「白銀さん、終わりました?」
「おっと、すまんコクテン。待たせた」
「いえいえ、パーティの入れ替えは重要なことですから」
「それで、何か俺たちにやらせたいことがあるんだったか?」
「そうなんです。と言っても、普通に作戦に協力してくれるだけで十分ですが」
「どういうことだ?」
「白銀さんと、その従魔たちと一緒に戦えるとなれば、かなりのプレイヤーは協力してくれるでしょうからね」
「確かに。白銀さんたちとレイドイベントに挑むなんて、お祭りみたいなもんだからな」
「うんうん」
コクテンと仲間たちがそんなことを話している。
「いや、それだけで皆が協力的になるわけないと思うけど……」
「いやいや、何を言ってるんです。白銀さんの従魔の人気を考えたら、確実ですよ」
「アイドルみたいなものだからなー。それこそ、ゲーム内でオルゴールを発売したら、結構売れるんじゃないか?」
「オルゴール?」
「あれ? 知りません? 最近、注目されてるんですけど」
なんでも、音楽系ジョブ用のアイテムに、曲を録音して、MP消費で再生できるアイテムがあるそうだ。
本来の目的は、歌唱や演奏スキルの楽曲をスキルがないプレイヤーでも使えるようにするアイテムだという。効果は下がるものの、誰でも使用が可能になるのは画期的だ。
だが、最近はそれをバフアイテムとしてではなく、普通に音楽を楽しむためのアイテムとして活用する者が現れたらしい。
このオルゴールは、録音に失敗すると音だけが吹き込まれてバフは発揮されないのだが、音を楽しむためだったらそれで構わないし、問題もない。
むしろ、ゲーム内で作詞作曲したオリジナルの楽曲などを吹き込むことも可能であるということだった。
人気のある歌唱系プレイヤーのオルゴールは、非常に高値で取引されているらしい。すでに歌姫のような地位を築いているプレイヤーもいるんだとか。
「うーむ、このゲーム、まだまだ奥が深いな」
その後、軽い打ち合わせの後、魔術が使えるプレイヤーによる一斉範囲魔術砲撃作戦がいよいよ決行されることになった。
うちのモンス達が参加することになったと説明したら、かなりの数の反対派が賛成派に変わったのには驚いたね。コクテンたちが言っていた通りだった。
まあ、うちの子たちの人気云々というよりは、お祭り騒ぎに乗り遅れるなって感じで盛り上がった結果っぽいけどね。
活動報告にて、今後の予定などをお知らせしております。
とりあえず、4月の初週には更新を再開できればと考えております。




