346話 鳥の襲撃
廃砦に辿り着いた俺は、生産職が集まっているという大広間に向かってみた。イメージでは、床や壁が石で作られた少し広めの部屋ってくらいだったんだが、予想以上にファンタジーである。
部屋の中央に2メートル近い巨大なクリスタルが静かに浮いていたのだ。
「ムー」
「フムー」
「――」
オルトとルフレ、サクラが口をあんぐりと開けて、クリスタルを見つめているな。モンスたちにも珍しい光景であるらしい。
特にオルトの反応がいい。
目のキラメキが他の子たちと違っていた。だが、それは何もオルトだけに限った反応ではないらしい。
「ムー」
「ムムー」
オルト以外にも何体かのノームたちが、オルトと同じように目を輝かせてクリスタルを見上げているのだ。
もしかして、土霊の街に雰囲気が似てるからだろうか? あそこも水晶が立ち並ぶ、神秘的な場所だった。
何かイベント的に重要なものだろうか? それとも単なる背景オブジェクト?
いや、イベントが始まれば分かるか。
「オルトは好きにしてていいぞ」
ここからは俺たちの仕事なのだ。
それにしても、人が結構多いな。広間のプレイヤーたちはいくつかのグループに分かれているらしいが、20人程のグループが10個ほどあった。
好き勝手にやっている雰囲気はないので、何らかの作業を分担しているんだろう。
誰に声をかけたらいいのか分からず迷っていたら、近寄ってきたプレイヤーに先に声をかけられた。
「白銀さん! やっときてくれたか!」
「石田も一緒のサーバーだったか」
「おう! あいつもな!」
「お待ちしてました」
「ソーヤ君もか!」
なんか、同じサーバーに俺の男性のフレンドばかり集まってしまったようだ。こんなこともあるんだな。でも、この2人なら話しやすくてよかった。
「マップを色々と回っててさ。そうだ、集めた素材なんかはどうすればいい? どっかに一括でまとめてるのか?」
「ああ、そうですね」
ソーヤ君たちから現在の状況を教えてもらった。生産者たちはいくつかのグループに分かれ、イベント素材を加工する班と、加工された物をイベントアイテムにする班で作業を進めているらしい。
他にはバフ用のアイテムを作るグループや、戦闘用のアイテムを作るグループもあるそうだ。
俺は道中に手に入れたアイテムを出して、テーブルの上に並べていく。
「もう加工されているのは有り難いです。それにブローチのできも素晴らしいですね。さすがですよ。これはサクラちゃんが?」
「途中で作ってもらったんだ」
「30分縛りは中々厳しいですよね。あれのせいで素材が集まらないんですよ」
「こっちのインゴットは鍛冶の方に持ってかないとな」
「ああ、そうか。さっき向こうで渡せばよかった」
そうやって俺のイベントアイテムを見せていたら、ソーヤ君の動きが止まった。その視線の先には、薄汚い木の欠片が置かれている。
一見すると、木材にもできなそうな、小さい木片でしかない。
だが、俺の持ってきた中では目玉アイテムの1つと言えるだろう。ゴリラエリアで手に入れた鳥殺しの香木だ。
「こ、これって……?」
「お目が高いねソーヤ君。っていうか、他に手に入れた人はいないの?」
「少なくともこのサーバーにはいませんね」
「じゃあ、こいつも?」
「この石は……。はい、これも初見です。どこで入手したんですか?」
「えーっとだね――」
とりあえずゴリラエリアの場所を説明しようと、口を開いた直後であった。
「襲撃だ! 手が空いてるやつは防衛に回ってくれ!」
「アイテムはできてますか?」
「やばいやばい!」
広間に数人のプレイヤーが駆けこんできた。防衛役として、城壁に配置されていたプレイヤーたちであるらしい。
「襲撃? まだボスの出現まで時間があるだろう!」
「ボスじゃねー! 鳥の大群が現れて、こっちを攻撃し始めたんだっ!」
石田の疑問に、報告に来たシーフが食い気味に言い返す。なるほど、ボス以外の敵が出現しないとは言われなかったな。完全に運営に裏をかかれた形である。
「石材と木材で補修した場所は鳥が近寄らないんだが、逆にそれ以外の場所に集中するから、かなり面倒なことになってるんだ!」
「皆さん! できあがったイベントアイテムを持って応援に行きましょう! ただ、半分は残ってアイテムを作らないといけません!」
ソーヤ君が見事に生産職を仕切っている。
「白銀さんは、どうします?」
「うーん、俺は防衛に行くよ」
アイテム作製の流れがまだ分かっていないからね。ただでさえ人手が足りていないのに、説明してもらうために人手を割いてもらうのは申し訳ないのだ。
「じゃあ、みんな行くぞ!」
「モグモ!」
戦闘と聞いて、ドリモがやる気だ。ツルハシを肩に担ぎ、先頭をきって駆け出した。
階段を登って、城壁に上がってみる。
すると、空を覆い尽くす、黒い無数の点が目に入ってきた。城壁の上には、ダメージを受けた多くのプレイヤーたちがいる。ただ、襲ってきたという鳥たちは、すでに城壁付近にはいない。
「状況は?」
「おお! 白銀さん!」
俺はすぐ近くにいたコクテンのパーティーメンバーに声をかける。簡単に説明してもらったところ、鳥たちはヒットアンドアウェイを繰り返してくるらしい。
群れで一気に襲いかかってきて、しばらくすると上空に退避し、再び降下してくる。
本当にヒッチコックの世界だったか!
「1羽1羽は弱いんだ。それこそ、こっちにぶつかって、その衝撃で死ぬくらいに」
ただ、数が多すぎるのが問題だった。1羽から1点のダメージしか食らわないとしても、何十羽もの鳥が一斉に襲いかかってくれば大ダメージである。しかも、全方位から攻撃が来るため、防ぎきることも難しかった。
「軽装の奴は、かなり厳しい」
「まじか」
俺、軽装中の軽装なんだけど。全身を鳥に啄ばまれて死亡とか、超怖い。
「ど、どうしよう。オルトの守護者でどうにかなるのか?」
「ム?」
だが、悩んでいる暇はなかった。
「鳥どもが来るぞ!」
空を覆い尽くしていた数万羽の鳥の群れが、まるで一個の巨大な生き物のようにうねりながら、こちらに向かってくるのが見えた。
以前、空を飛ぶムクドリの大群を見たことがあるが、あれに似ている。こっちの方が、規模が数倍大きいけどね。
「まずは防御に専念する! 頼むぞみんな!」
「ヤー!」
「キキュ!」
「ファウとリックは俺の後ろにいろ!」
「ヤ?」
「キュ?」
やる気満々のところ申し訳ないが、お前たちが鳥どもに揉みくちゃにされたら、どうなるか分からんからな。




