33話 リック
32話のステータス表記について、たくさんのご指摘ありがとうございます。
後半の表記が変更前のままだったようです。
幾つか変更させていただきました。また、ギルドの横の数字は、現在のギルドランクです。
また、この時点でサクラがテイムされたことになっているのだから、表示があるはずではないかという指摘もいただきました。
このステータス表記は、ユートがその前の時点で確認したステータスを、独白的な感じで思い返しているという事にしてください。
この後のサクラの登場シーンにインパクトが無くなってしまう恐れがあるので……。お願いします。
納品を終えた俺たちは、遂に町の外に進出していた。
いやーどうなる事かと思ったが、どうにかなるもんだな。
「サクラ、いいぞ! そのまま拘束してろ!」
「――!」
「アクアボール!」
「ヂュ~!」
なんとか、戦えている。完全にサクラのおかげだが。
サクラは両腕から鞭のような蔓を生み出し、それを鞭のように操って戦うスタイルだった。それだけでも強いのに、拘束力と状態異常に秀でた樹魔術に、高い防御力も持っている。再生スキルでHPも回復できるから、本当鉄壁だ。
サクラに相手の動きを封じてもらい、水魔術と杖で攻撃というのが必勝パターンになりつつあった。まあ、灰色リスや牙ネズミと3対1なら問題ないだろう。アクアボールが当たればほとんど1撃で倒せるし。複数の敵が出てきたらやばいかもしれないが。
気配察知スキルで1匹だけのモンスターを狙って戦っているからな。
オルトは壁役ならソコソコこなせた。攻撃方法はないが防御力がそれなりに高く、結構頼もしいのだ。
前衛の2人がいてくれるおかげで、俺は安心して魔術が使えるってもんだ。
灰色リスのドロップは、毛皮か木の実が多いらしい。インベントリの中にはいつの間にか灰色リスの毛皮×5、青どんぐり×3、胡桃×3が入っていた。LJOは剥ぎ取りの必要が無いから、倒せば勝手にドロップが収納されるから便利だね。
次でもう10匹目か。
「これでサクラとオルトの確認は終了しとこう」
次は、俺の番だ。1人でどこまでやれるのか。その確認だ。危なくなったら助けてもらうけど。
「いた」
俺の視線の先にいたのは1匹の灰色リスだった。可愛い可愛いリスさんであるが、侮ってはいけない。あんな外見でも立派なモンスターだからな。
俺は杖を握りしめた。考えてみれば、1人でモンスターに立ち向かうのは初めてだな。いや、何を弱気な。相手は最弱の敵。そして俺には武器も魔術もある。
「よし、やれそうな気がしてきた」
ここでやつに打ち勝って、逃げるだけの人生におさらばだ!
まだこちらに気づいていない灰色リスに、先制のアクアボールを発動する。
「くらえ、このリス公!」
「ギュ」
灰色リスのHPが半減した。遠距離過ぎて、威力が半減してしまったか。でも、先制できたのはデカイぞ。さらに近寄って杖で攻撃だ。俺は灰色リスに向かって杖を振り下ろした。
「とりゃっ!」
スカ
「ぐぬ。せい!」
スカ
「こんなちっこい奴に、攻撃が当たるか!」
「キュ!」
「くそっ! この、この」
相打ちになった。互いに1割程度、HPを減らす。後ろでオルトとサクラがハラハラ顔で見つめているのが分かるな。
「くっ、やるなリス公」
「キュキュ」
「んりゃっ!」
「キュ!」
相打ちなら、攻撃を当てられそうだ。それでも、半分くらいしか当たらないが。
7割ほどHPを減らされたところで、俺は奥の手を使う。
「キュア!」
ふっふっふ。俺のHPは全回復だ。薬は大量に用意してきているんだぜ?
そしてリスのHPは残り1割ほど。
「これで形勢逆転だな」
「キュキュ……キュ――!」
「無駄無駄ぁ!」
そして、俺の杖がリスのHPを削りきった。灰色リスの体が光の粒子となって消える。
「やったぞ!」
1人でも勝ったぞ! いや、レベルで見たら当たり前なんだけどさ。でも初1人勝利だ。
「よし、次は今日最後の闘いにするつもりだ。頼んだぞ?」
「ムム!」
「――!」
2人そろって敬礼だ。かわいい。というかどこで覚えた? モンスのAIって謎だな。
さて、回復を済ませたら、ずっと死蔵していたあのアイテムの出番だぞ。
「引き寄せ香~」
そう、ユニークモンスターを必ず引き寄せるという、今は亡きミレイから慰謝料代わりに分捕った微妙アイテムだ。
本当は北の平原のワイルドドッグとかに使いたかったが、群れに出くわしたら普通に死ねるし。南の森の入り口の弱いモンスでも、ユニーク個体ならまあ少しはましだろうと考えたのだ。
そして、現れたのはまたもや灰色リスだった。ユニーク個体の証なのか、背中と額には白い模様がある。
「オルトは壁役、サクラは最初は攻撃だ」
「ム!」
「――!」
オルトが引き付け、俺の杖とサクラの鞭がリスのHPを容赦なく削る。いや、少し調子に乗りました。サクラの攻撃がリスのHPを削っている。俺の杖は微々たるものだ。
「そろそろかな。サクラは拘束に専念しろ」
「――!」
作戦的には非常に単純である。まずは普通に戦い、ある程度HPを減らす。その後、サクラの樹魔術で拘束し、俺の手加減で限界までHPを削る。あとはMPの続く限りテイムを繰り返す。
MPが切れてもテイムが成功しなかったら、その時は倒すしかないが。ユニーク個体は確実にレアドロップを落とすから、損はしないだろう。多分。
サクラの樹魔術が発動し、リスの足元から伸びた無数の蔦が、その体を絡めとった。
「良し。手加減からのーアクアボール!」
「キュー!」
手加減を使ったことにより、俺の体と、放つアクアボールが赤いエフェクトに包まれる。なんかかっこいいぞ! テンション上がってきた!
「くっくっく、これでお前のHPは残り1だ。大人しく俺の従魔となるがいい! かわいい子リスちゃんめ! テイム!」
「キュー!」
「――?」
「ム?」
うん、失敗でした。でもくじけんぞ。
「テイム!」
「テイム!」
全然だめだ。MPだけが空しく減っていく。いや、くじけるな!
「テイム!」
「テイム!」
残り1回分しかMPがない。このためにMPを節約して戦ってきたつもりだったのに! 俺にユニーク個体はまだ早かったか?
「成功しろ! 成功してくれ! テイムッ!」
「キュルー」
「お?」
なんかリスが一瞬輝いたぞ。俺は慌ててステータスを確認した。テイムモンスターの欄に新たな名前が追加されている。
名前:リック 種族:灰色リス 基礎Lv4
契約者:ユート
HP:18/18 MP:10/10
腕力4 体力6 敏捷14
器用6 知力5 精神6
スキル:警戒、採集、剪定、跳躍、登攀、頬袋、前歯撃
装備:なし
「よ~し! 成功だ! ふははは、ついにモフモフを手に入れたぞっ!」
3体めのモンスゲットだぜ! ステータス的にはオルト達に劣るが、灰色リスじゃ仕方ない。だが、このプリチーさの前にはステータスなど些細な問題である。
「キュ~?」
「モフモフやでー!」
やばい、ベルベットのような短毛の手触り。最高だ……。モフモフムニムニで、少し温めのビーズクッションでも触っているような感じだ。
「キュ」
「か~わ~い~い~」
しかし、3体とも全部ユニークとか、結構珍しいんじゃね?
『おめでとうございます』
おお、祝福のアナウンス。これはもしや、例のあれか?
『テイムモンスターが、初回から3匹目まで、全てがユニークモンスターでした。称号『ユニークモンスターマニア』が授与されます』
やっぱり! また称号だよ! 珍しいって嘘なんじゃないか?
称号:ユニークモンスターマニア
効果:賞金10000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。ユニークモンスターとの遭遇率上昇、テイム率上昇
ボーナスポイントは嬉しいけどさ。これって良い事だけじゃないんじゃ? ユニークモンスターって普通の個体より強いし、ピンチの時に遭遇したらアウトだぞ? 手に入ったものは仕方ないけどさ……。
まあいいや。ボーナスポイントと賞金を獲得できたと思おう。テイム率上昇も有り難いし。
「MPもちょうど切れたし。町に戻るぞ」
「ム」
「――♪」
「キュー」




