328話 水田準備
「いやー、米の情報は高く売れると思ったけど、ここまでいくとはね~」
なんと、地底湖と米の情報を合わせて600万であった。ああ、チェーンクエストの情報はまだ終わってないから、今回は見送ることにしたよ?
一応、近い内にまた情報を売りに来ることになると思うとアリッサさんには伝えておいたけどね。
しかし、600万ね。最近はプレイヤーたちの所持金が初期に比べて増えてきて、情報料も上がっているらしいが……。それでも600万はやばいよな。今回も分割で支払われることになった。
早耳猫のお金は大丈夫かな? 尋ねてみたら、「ぜ、全然大丈夫だし? 本当だし!」って言ってたから、多分大丈夫なのだろう。
情報料は、俺とフィルマたちで折半だ。4等分のつもりだったんだが、今回はパーティで分けるのが良いと言われてしまったのだ。
地底湖に関してはルフレが少し手助けをしただけだし、ボス戦でもおんぶにだっこだった。米だって発見者は俺だけど、クルミたちだけで地底湖を突破しても発見はできていたはずだ。
米栽培の情報は俺がもたらしたが、他はフィルマの方が活躍しているだろう。戦闘面では本当に助かったし……。
まあ、結局2等分で押し切られてしまったが。あの状況で多数決はズルいよな。
それに、押し問答をしている時間が勿体なかった。俺はすぐにでも追加の水耕プールを買いに行きたかったのだ。ログアウト時間も迫っているし、その前に準備をしてしまいたい。
「じゃ、俺たちもいくか」
「ム!」
「目指すは水霊の街だ!」
早耳猫から戻って来て1時間後。なんとかログアウト前に全ての準備を済ませることができていた。
いやー、自分の行動力に驚きだよ。
「ホームの菜園が全部水田になっちゃったけど、仕方ないよな」
うちの場合はホームが日本家屋なので、水田でも違和感はない。むしろいい背景だろう。
「拡張と植え替えのために、ゲットしたばかりの情報料をかなり散財してしまったな……」
農業ギルドにお金を支払うと、畑の作物を植え替えることができる。俺はそのサービスを使って雑草畑を少し減らし、ホームに併設されていた畑を全て水耕プールと入れ替えていた。費用はかさんでしまったが、悔いはない。
「これも白米のためだ」
ホームで稲作を行うのは、その方が毎日経過の観察がしやすいからである。それに、縁側から眺める稲穂というのも、きっと乙なものに違いない。
「ムム!」
「おお、オルトもやる気だな」
「ムー」
オルトの場合は米云々ではなく、新しい畑に新しい作物という部分に興奮しているのだろうが、やる気があるのは頼もしい限りだ。
「まあ、クルミたちが採取した分も半分以上買い取らせてもらったから、足りなくなることはないか」
彼女たちは自分で料理が出来ないので、籾だけ持っていてもどうしようもなかった。俺のような料理スキルのあるプレイヤーに預けて、調理をしてもらわなければならないのだ。
しかし、情報を無駄に拡散することはしたくないらしく、早耳猫に渡す分以外は俺が預かることになったのだった。
しかも想像以上に安く譲ってもらってしまった。条件は、栽培に成功したら最初に白米を食べさせることである。
籾を他のプレイヤーに売ればいくらでもぼったくれると思うんだが、それよりも食欲優先であるらしかった。
「3人娘のためにも頑張らないとな」
「ムム!」
まあ、俺は水耕スキルを持ってないから、オルトに頑張ってもらわなくちゃならないが。
「オルト先生頼みます!」
「ムッムー!」
田植えは重労働だっていう話をよく聞くが、オルトは非常に楽しそうだった。泥んこになりながら、株分で生み出した苗を水耕プールに植えていく。
「おーおー、育ってるねぇ」
「ムー!」
オルトの栽培促進exのおかげで、植えたばかりの苗がグングンと成長を見せている。もう倍くらいの高さにはなったかな?
「さすがに1日で収穫は無理だろうけど、この分なら結構早いか?」
まあ、今日中にここまでこぎつけられてよかった。明日のためにも早くログアウトしたい。
「ただ、まだやることがあるんだよな」
俺は田植えを終えたオルトに、地底湖で手に入れたヒカリ茸を手渡した。
米やら何やらのせいで霞んでしまったが、元々はこれがほしくて地底湖を目指していたのだ。
「これを育てられるか?」
「ムム……」
「あれ? 無理?」
いや、どうも分からないって感じだな。赤テング茸・白変種を株分してもらった時と同じだ。これを株分して育てることは可能だが、何が育つかはオルトにも分かっていないのだろう。
いやー、オルトとずっと一緒に居るおかげで、その微妙な表情とジェスチャーの違いが分かるようになったな。
「じゃあ、頼むよ。水はこれを使ってくれ」
茸は与える水次第で品質が変わるらしい、俺は手持で一番レア度の高い、地底湖の水を使うことにした。フィルマに1スタック分売ってもらったおかげで、余裕があるのだ。
「頼んだぞ」
「ム」
何ができるんだろうな。楽しみだぜ。
「じゃあ、次が今日最後の実験だ」
米の試食は明日である。まだ精米の仕方もわからないし。
俺が取り出したのは、株分したものとは別のヒカリ茸だった。これに光胡桃を混ぜて塗料にすれば、蛍光塗料になるらしい。
俺は材料とニカワを混ぜ合わせていく。普通は色を付けるための素材が必要だが、今回はそれはなしである。
そうして出来上がったのは、ドロッとした透明な液体であった。一見すると、粘着剤か何かに見えるが、名前はきっちり蛍光塗料となっていた。
しかも品質が★6と結構高い。少しいい材料を使ったからだろうな。
「試しに何かに塗ってみるか……。えーっと、これでいいや」
俺は以前にサクラが試作した木の柵を取り出してみた。よくホームセンターのガーデニング用品売り場に置いてある、白いタイプの木柵である。
「これに蛍光塗料を塗ると――ほー。これはいいね」
木の柵が青白く光り、夜の闇に浮かび上がっている。これなら、暗い場所でも良く見えるだろう。
「成功だな」
ぶっちゃけ明確な使い道がある物ではないけど、面白そうなアイテムである。サクラやヒムカにも好きに使うように伝えておこう。サクラが苔玉を作り上げたように、何か面白いアイテムを製作するかもしれない。
誤字報告機能について、お願いがあります。これは言葉通り、誤字を報告していただくための機能だと考えております。
現在、多くの方が「ここはこういう表現の方がよいのでは?」という文章添削を誤字報告機能を使って送って下さっているのですが、それが寝込んでいる間に溜まってしまい、確認と修正に数日かかってしまいました。
その間、当然執筆の時間が削られてしまいます。
できれば文章の修正に何時間も使うよりも、少しでも新しい文章の執筆に時間を割きたいのです。
また、誤字脱字報告が文章修正の提案に埋もれてしまい、誤字修正が遅れるということも多々発生しています。
より良い作品になってほしいという好意は大変ありがたいのですが、明らかな誤字脱字誤用以外は感想等でお送りください。お願いいたします。




