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327話 地底湖の情報


 ゾロゾロとプレイヤーを引きつれながら、俺たちは早耳猫に向かう。その会話に耳を澄ませてみると、「白銀さん――」「また早耳猫に――」という声が聞き取れた。


 もしかして、俺が早耳猫に色々と情報を売っていることが広まってきた? 一応、オルトたちのおかげでちょっとは知られているみたいだし、この行列の目当ては俺か? 有名プレイヤーの仲間入り? ええ? 困ったなー。


 そうやって歩いていると、クルミたちが小声で聞いてくる。


「そういえば、どうだった?」

「栽培できました?」

「バッチリだ」


 俺の答えに、クルミたちの顔がほころぶ。


「やりましたね」

「くくく……さすが白米の先駆者」

「やめれ。まあ、これで売る情報が増えたってことだ」

「ねえ。お米の情報、本当に全部売っちゃうの? 少し秘密にしておけば、大儲けできるよ?」

「皆に広めたら米を栽培する人間も増えるだろうし、米を使った料理も広まるだろ? 俺としてはそっちの方が嬉しい」

「欲がないなー」


 いやいや、何を言うんだクルミ。むしろゲームの中で好きなだけ米を食いたいという、食欲に忠実に行動してる結果じゃないか。


「それに、今回売る情報を基に攻略する人間が出たら、どうせばれるだろ? だったら先に広めてもいいんじゃないか?」

「くくく……やはり、白銀の先駆者が白米の先駆者に」


 いやいや、白米さんとか呼ばれるようになったら恥ずかしすぎる。まさか、本当にそうなったりせんよな?


 地底湖の情報に関しては、俺よりもフィルマに権利があると思うんだが、彼女はあっさりと全てを隠さずに売ると決めていた。


「私だけの成果じゃないですから。それに、白銀さんがお米の情報を売っても、地底湖が攻略されなかったら無駄になっちゃうかもしれません。私もお米が広まってくれた方が嬉しいですし」


 そうなんだよね。俺が早耳猫に米の情報を売っても、地底湖を抜けない限り俺たち以外のプレイヤーが籾を手に入れるのは難しい。


 俺たちが採取してきて供給したとしても、需要には到底追いつかないだろう。


 となると、米の情報と併せて地底湖の情報も売る必要があった。


 フィルマたちにとって、自分たちだけが先行しているというアドバンテージは大きい。地底湖の先の情報を秘匿し続ければ、様々な恩恵を受けられるだろう。


 それを、米のために全部開示してくれるというのだから、感謝してもしきれないね。


「2人とも欲がなさすぎるよ。私だったらトコトン秘匿して、暴利をむさぼるのに!」

「ふふふ」

「くく……」

「何で笑うのよフィルマ、リキュー」

「くくく……クルミには無理」

「うん。クルミは隠し事苦手だもんね」

「無理じゃないよ!」


 3人娘の仲の良いやりとりを後ろからほっこりしつつ見守っていると、あっと言う間に早耳猫のクランハウスだ。


 カランコロンというベルの音を聞きながら、中に入る。その直後、外に大量のプレイヤーが押し寄せたのが分かった。ガヤガヤとした声の中に「地底湖」とか「人魚が」とかいう言葉が交ざっている。


 もしかして、俺たちが――というよりはフィルマたちが地底湖を攻略したっていう情報がもう出回っていて、それ狙いか? まあ、クルミたちが他のプレイヤーに少しだけ情報を渡したし、その後に地底湖開放のワールドアナウンスも流れたしな。


 やべー、有名プレイヤーの仲間入りとか、超自信過剰じゃないか。単なるフィルマたちのおまけでした! あー恥ずかしい。


「こんにちは!」

「いらっしゃー……」


 受付にいたアリッサさんの笑顔が、俺たちの姿を見た瞬間固まった。数秒間、そのまま動かずにいたが、すぐにその顔に不敵な笑みが浮かんだ。


 そして、勢いよく立ち上がって俺にビシッと人差し指を突き付けた。


「にゅふふ。来たわねユート君! 今回は前回のようにはいかないわよ!」

「え? はい」


 俺、何かしたっけ?


「前回は情けないところを見せたけど、今回はばっちり準備してあるわよ! まあ、ユート君から買った情報のおかげだけど……」


 後半は聴き取れんかったが、情報を買い取るためのお金を用意しているってことかね? ドヤ顔をしているのは、俺の想像を超える所持金を持っているからだろう。


 その気持ちは分かる。俺も所持金が多いときは何故か気持ちが大きくなるタイプだからな。それで失敗することも多いけど……。


「ふふふん。いくら用意したのか知らないけど、私たちの持ってきた情報を舐めてもらっちゃ困るわね!」

「有名プレイヤーが連名で持ってくるなんて、よほど凄い情報なのかしら? でも、地底湖を攻略したっていう話は聞いてるわよ?」

「ふふん。それだけだと思わないでほしいわね。超重要情報よ! ある意味、攻略情報以上の価値があるわ! 発見者は私じゃないけどね!」

「へ、へぇ?」


 何せ米の情報だからな。クルミの言葉に嘘はない。


 それを聞いたアリッサさんが表情を引きつらせて、鳩尾の辺りを擦っている。あれ? なんでだろう? また大儲けできる情報だと思うんだけどな。


 リアルであの動作がクセになっていて、ゲームの中でも無意識でやってしまうのかもしれない。だとしたらリアルは相当苦労人? それとも若くして逆流性食道炎の使い手なのだろうか?


「そ、それは楽しみね! そ、それで? 地底湖の情報以外にどんな情報を売ってくれるのかしら?」


 アリッサさんが何故か俺を見つめているが、視線を向ける相手が違いますよ?


「いやー、地底湖に関しては俺は本当にお手伝い程度で。攻略法を発見したのはほぼフィルマの手柄ですね」

「いえいえ! ルフレちゃんがいてくれたからこそですから!」

「青の人魚とルフレちゃんが発見に大きな役割を果たした? つまり水中に攻略の鍵があるってことね」


 さすがアリッサさん。今のやり取りだけで、情報を読み取った。


 その後は、フィルマが主体となって攻略情報を語っていく。俺たちにもボスが出現する条件は確定できていないが、ログを見せてある程度の推測は教えておいた。


「この段階で、通常フィールドの突破に水中行動持ちが絶対に必要だとは思えないわね。だとすると、釣りが重要なのかしら?」

「いえ、どちらかがあればよいのではないでしょうか?」

「なるほどね。泳げるんなら、水中で魚を捕まえればいいのか。もしくは、突撃ヤマメを倒すこともトリガーなのかも」

「釣りが使えるなら、この美味しい魚を餌にして釣りをするっていうのが重要なのかもしれません。3匹全部が青ヒレだったっていうのは、白銀さんにしても偶然にしては出来過ぎですし」

「それはありえそう」


 議論が白熱している。確定情報ではないが、今まで滞っていた南の攻略情報だし、アリッサさんも興奮気味だ。


「いやー、素晴らしい情報だったわ。これなら――」

「まった。まだこれだけじゃないわ」


 クルミがそう言って、俺を見る。アリッサさんの視線も、俺を向いた。皆に見つめられ、とりあえず笑ってみる。


「あ、あはは……。そうだったわね」

「くくく……ある意味こちらが本命」

「うんうん」

「こ、これ以上に凄いって……。ど、どんな情報?」

「えーっとですね。まずはこれを見てもらえます?」


 俺はインベントリから籾を取り出すと、アリッサさんに手渡した。首を傾げているところを見ると、さすがに鑑定する前ではこれが何かわからないらしい。まあ、一見すると小さい植物の種にしか見えないしね。


「これは――はああああああああ?」

「うわ、びっくりした」

「こ、これ、これ……これぇぇ!」

「籾です」

「……」

「アリッサさん?」


 急に俯いて黙ってしまった。一体どうしたんだ?


「う――」

「?」

「うみゃー! またまけたー!」


少々風邪が長引いており、次回更新は23日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
もう猫の獣人じゃなくて猫やん自然に猫語が出るのは
[良い点] 「白米の先駆者」 [一言] アリッサさんが、リアルでのユートの職場の先輩だったら面白いですね。
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