323話 湿地
地底湖の先に広がる第6エリア。そこは一見すると、背の高い草が生い茂る平原のように見えた。生えている草は葦に似ているかな?
「セーフティゾーンはどこだろうねぇ?」
「普通なら、フィールドの入り口の近くにあるけど……」
「見える範囲に目立つものはないな」
暗視のネックレスを装備してみるが、やはり何も発見できない。
周囲には、これと言ってセーフティーゾーンの目印になる物がなかったのだ。
普通だと、明らかに大きな木や巨石、不自然な花畑など、入り口付近から確認できる目印があるはずだ。
「セーフティーゾーンがないとか?」
「それはないと思いますよ?」
「くくく……他の第6エリアでは、存在しているから」
なるほど。ここだけに設置されていないということはないだろう。
「だとすると、この背の高い草に隠れて見えないってことか?」
「多分そうだよ!」
見つけ出すのがかなり面倒そうだな。ただ、ここまで来て戻るわけにもいかんし、もうひと頑張りしますか。
空中から周囲を見回せるアイネを偵察に出してもいいんだが、未知の場所では少し怖い。強敵に奇襲されれば、一発で死に戻りという可能性もあった。
いや、少し上から見下ろしてもらうか? ああ、だめだ。アイネは暗視を持っていないから、普通に見えないだろう。
アイネを偵察に送り出すのは、少し探索をしてみてどうしてもセーフティゾーンが見つからなかった時だな。
「ここに出るモンスターの情報がないので、慎重に行きましょうね」
「そうだね」
「くくく……どんな素材が手に入るかしら?」
「俺たちも慎重にいくぞ? オルト、サクラ、いざという時はタンクを頼む」
「ム!」
「――!」
「ドリモは後ろを頼む」
「モグ!」
可愛いモンス達を盾にするような感じになってしまうが、俺が死に戻るわけにはいかんからね。何せ、どんな凶悪なモンスが出るかも分からない場所だ。レベル帯的にも俺たちには少し厳しい場所だし、命大事にで行かなければ。
そして、先頭のクルミが草をかき分けて進み始めた。草はクルミの身長とほぼ同じくらいだろう。
「むー、前が全然見えない!」
手で草を押しても、中々前には進めないらしい。体ごと草むらに分け入っていく。しかも、行く手を阻むのはそれだけではなかった。
「うえー。なんか足の裏がグチョグチョしてる!」
「あー、どうも湿地みたいだね」
「フィルマ、気持ち悪くないの?」
「私はほら、防水ブーツだから」
「なるほど。リキューは?」
「くく……くくく……」
リキューのテンションが目に見えて下がっていた。まあ、リキューの足下は足袋に下駄だからな。そりゃあ、ビショビショになっているだろう。
「俺もブーツに水が滲みてきたな」
「ムー」
「――」
「モグ」
オルト達のテンションも揃ってダウンだ。特にドリモは歩き辛そうだった。一歩進むごとに、足を振って泥を落としている。
ルフレは全く変わらない。むしろ嬉しそうだ。水辺だからだろう。
アイネ、リックのコンビも問題ない。アイネは浮かんでいるから問題ないし、リックは俺の肩の上だ。戦闘時には投擲もあるから問題ないだろう。
「ここは何か対策しないと、ずっと気持ち悪いだけだねぇ」
「しかも全然進めないな……」
足が嵌まる程ではないんだが、僅かに足裏が沈み込み、非常に歩きづらい。さらに草のせいで見通しも悪いのだ。
「こうなったら……」
すると、クルミがメイン武器である巨大ハンマーを構えた。
「フィルマ、下がってて」
「クルミ、何するの?」
「これで草を吹き飛ばしてやるんだっ! ちょりゃあぁぁ!」
そのままハンマーをぶん回して草を薙ぎ払い始める。
だが、なかなか上手くはいかない。少し折れ曲がったりはするんだが、その程度だ。
「むきー!」
「ちょ、ちょっとクルミ! そんな振り回したら――」
「ゲゴオオ!」
直後、何やら大きな音が響いた。慌ててそちらを見ると、倒れた草の上に茶色い物体が寝転がっている。
「ゲ、ゲゴ……」
「うげげげぇぇ! カエルだ!」
「泥んこガエルだって! 可愛い!」
「うそ! どこが? フィルマ大丈夫?」
「えー、おっきいカエルさん、可愛いよ」
「くくく……カエル……ガマの油……可燃性かしら?」
どうやら草むらに潜んでいたカエル型のモンスターを偶然攻撃したようだった。
クルミはカエルが嫌いらしい。目を細めて、薄目で巨大カエルを見ている。フィルマは逆にカエル好きかな? クルミとは対照的に、目をキラキラさせていた。リキューは完全に素材を見る目だろう。
「ゲゴゴ」
俺もちょっと苦手かな? アマガエル系だったら話も違うんだが、デカいヒキガエルは普通に気持ち悪い。
「私の攻撃が直撃したはずなのに、ぜんぜんHPが減ってないよ?」
「くくく……打撃耐性があるのかも」
「となると、私かリキューだね」
その後、フィルマとリキューが連携して攻撃をしかけると、あっさりと倒すことができたのだった。どうやら打撃に対して高い防御を持つかわりに、刺突系の攻撃が弱点であるらしい。
「なあ、あれってセーフティゾーンじゃないか?」
「あ、本当だ!」
戦闘のおかげで周辺の草が薙ぎ倒され、先が見通せるようになっていた。泥んこガエルがあちこち飛び回ったからだろう。
むしろ、モンスターと戦って、草を薙ぎ倒しながら進むのがこのフィールドの攻略方法なのかね?
草の間に、明らかに乾いた地面が見えている。そこには薄紫の花が咲き誇り、明らかに休めるようになっていた。間違いなくセーフティーゾーンだろう。
「とりあえず、安全地帯に入ろうよ」
「そうだな」
「出遅れテイマーのその日暮らし 2」が発売されました。
Nardack様の素晴らしい表紙が目印です。
さらに、タチバナ様によるコミカライズがコミックウォーカーにて始まりました。
現在は1話が公開中です。
版元はコミックアライブ様となりますので、wEB版、書籍版と併せてよろしくお願い致します。




