32話 サクラ
今日でゲーム内では9日経った。
現実ではまだ3日目の昼だけどね。
オルトのおかげで畑も順調だ。薬を作って売って、金と経験値を稼ぐ作戦も軌道に乗ったし、畑もさらに増やした。ああ、原木も1本増やして、赤テング茸の量産体制も整ったぞ。
昨日だけでも納品系の依頼を複数こなせて、獣魔、農業ギルドのランクは4まで上がっていた。冒険者ギルドは2に上がったばっかだけど。
装備もバッチリだ。現在の俺たちのステータスはこんな感じである。
名前:ユート 種族:ハーフリング 基礎Lv6
職業:テイマー 職業Lv6
HP:27/27 MP:35/35
腕力:3 体力:3 敏捷:6
器用:8 知力:8 精神:6
スキル:採取:Lv8、使役:Lv7、従魔術:Lv8、調合:Lv15、杖:Lv1、テイム:Lv1、逃げ足:Lv1、農耕:Lv9、料理:Lv12、錬金:Lv15、植物知識:Lv8、手加減
装備:杉の杖、アズライトのローブ、硬革の靴、獣使いの腕輪、ブロンズのネックレス
持ち物:携帯食×7、簡易調合セット、簡易料理セット、簡易錬金セット、木の枝
蜜団子★6×4、浄化水×50、引き寄せ香、傷薬★5×7、傷薬・粉×3、傷薬・水×5、祭壇への鍵、火結晶、水結晶、土結晶、風結晶
下級ポーション★6×3、即死薬★6×3、サラダ★5×5
所持金:8560G
称号:白銀の先駆者、不殺、大樹の精霊の加護
所属ギルド:冒険者ギルド(2):獣魔ギルド(4):農業ギルド(4)
使役モンスター(1/4):ノーム
卵×1
名前:オルト 種族:ノーム 基礎Lv8
契約者:ユート
HP:30/30 MP:36/36
腕力8 体力6 敏捷5
器用11 知力13 精神9
スキル:育樹、株分、幸運、重棒術、土魔術、農耕、採掘、夜目、栽培促成ex
装備:土霊のクワ、土霊のマフラー、土霊の衣
完全に生産系になってきたな。
だが、今日の俺は気合が入っているぜ。なにせ今日から本気で攻略を進めるつもりなのだ。そのために即死薬や下級ポーションを揃えたし、傷薬も増産した。
そして、ボーナスポイントを消費してスキルも習得するつもりだ。とりあえず、魔術スキルは欲しい。それと索敵系だ。
まずは弱めのモンスをテイムするところから始める。まともに戦闘できるようにならないといけないからね。そんなことを考えながら、畑のある南区まで歩いてきたんだが……。
「え?」
何だあれ?
ゲームの中なのに思わず目を擦っちまったぜ。
なんか畑にでかい木が生えていた。あれ俺の畑だよな?
1本は分かる。今日まで順調に成長してきた緑桃の木だ。すでに5メートルほどの高さに成長し、昨日は花を付けていた。今日はきっと実が採集できるんじゃないかと期待していたのだ。
だが、もう1本は何だ? いや、水臨樹の苗が埋まっていた場所なのは分かる。でも昨日までは1メートルくらいだったんだぞ? それが今日は3メートルくらいに成長している。なんか成長速度が異常過ぎない?
「と、とりあえず行こう!」
俺は畑にダッシュした。
「オルト――え? 誰?」
「ムッムー!」
「――!」
なんか、オルトの隣に誰かいた。桜色のロングヘアの少女だ。葉っぱと枝を編み込んで作った服を着た、神秘的な美少女である。年齢で言ったら13、4歳くらい? オルトのお姉ちゃんぽくも見えるが……。
NPCか? 畑とかの個人が所有する敷地には他のプレイヤーは無断で入れない仕様だし。特定のNPCなら有り得るが。
「でも、マーカーが青いな」
青マーカーはプレイヤー。もしくはプレイヤーと契約しているモンスや精霊だ。赤が敵で、黄が普通のNPC。白色はイベント関係の証らしい。緑は採取アイテムなどだ。
「えっと」
「――!」
俺が戸惑っていたら、少女が俺の前に跪いた。片膝をつき、片手を胸に当てて恭しい感じで頭を垂れている。
「え??」
「ムム!」
「オ、オルト、説明してくれ」
「ムー」
久々のジェスチャーだな。なんだ、何か手を動かしているな。顔の前でしきりに四角を描いている? そして、なにやら指で押す仕草。
「あ! もしかしてステータス操作か?」
「ム!」
正解か。俺は言われるがままにステータスウィンドウを開いてみた。そして気づく。
「テイムモンスターの欄に、なんか増えてるな。えーと、サクラ?」
「――♪」
この少女がサクラで間違いないようだ。オルトと同様に喋ることはできないらしい。俺に名前を呼ばれて、嬉しそうに微笑んでいる。
でも、どうしてだ? 全く心当たりは無いんだが。だって、テイムすら試してないんだぞ? 勝手にテイムされるとか有るのか? いや、事実目の前にいるからあるんだろうが……。
「――!」
サクラが俺のローブの裾をチョンチョンと引っ張って、なにかアピールしている。
「何だ? 来いってことか?」
「――!」
頷いているな。合っているらしい。サクラが俺を案内したのは、水臨樹の前だった。もう苗木じゃないな。完全に樹木だ。
そして、そのまま水臨樹に触れると――サクラの姿が消えた。
「え?」
驚いていたら、水臨樹からサクラの顔がニュっと突き出た。うお! 樹から生える少女の生首。ホラーだぜ!
「――!」
うん、でも分かった。サクラはこの水臨樹の化身みたいな存在なんだろう。しかも名前が決まっているってことは、ユニーク個体だ。
もしかして超激レアなんじゃないか?
名前:サクラ 種族:樹精 基礎Lv10
契約者:ユート
HP:36/36 MP:38/38
腕力10 体力12 敏捷7
器用5 知力10 精神14
スキル:育樹、樹魔術、光合成、採取、再生、忍耐、鞭術、水耐性、魅了、木工、森守
装備:樹精の鞭、樹精の衣
バランスも良いうえ、スキルも面白い。畑仕事までこなしてくれるぞ。それにこのステータス、前衛向きだ。小さい女の子を壁役とか男としてどうなんだって話だが、俺が欲しかった防御タイプのモンスターだった。
これで勝つる!
俺の心も決まったぞ。杖以外に武器スキルを取るかどうか悩んでいたんだが、魔術スキルで行こう。
「さて、どうすっかな~。土魔術はオルトがいるし。まあ、攻撃は出来ないけど、属性被りが無い方が良いよな?」
「ム?」
「うーん。水にするか。農業にも使えそうだし」
俺がそう呟くと、オルトとサクラがウンウンと頷いている。
「2人とも賛成か?」
「ムム」
「――♪」
「よし。じゃあ8ポイント払って水魔術を取得だ。あと、4ポイント使って気配察知を取っておこう。奇襲で接近されるのが一番怖いし」
これで準備よし! じゃあ、収穫と調合を済ませたら8日ぶりに町の外に出ちゃおうかな。思いもがけず新戦力を手に入れちゃったしね!
収穫物としては、緑桃4つが新しいかな。これだけ残して、他はいつも通りに調合しちゃおう。
とは言え、まずは戦力の確認だ。新スキルにサクラの戦闘力。あと、オルトは戦闘に連れ出してもいいのかどうか。
実はこれが結構な悩みだ。農耕系モンスとは言え、畑仕事しかしなかったらレベルの上りは遅いだろう。出来れば戦闘経験値が欲しい。だが、オルトが早々に死に戻ったら意味がないし。
後ろで案山子になってもらうのか、壁役や囮役は出来るのか。見極めないとな。
「よし、戦いの前にまずは納品しにギルドに行くか!」
「ムー!」
「――!」




