316話 マモリの日記帳
リキューたちと一緒に地底湖を観光しに行くことにした俺たちは、彼女らに地底湖の情報などを詳しく聞きながら、町を歩いていた。
「やっぱり水中のモンスターが多いんだな。うちのパーティだと苦戦しそうだ」
「戦闘は私たちに任せてよ!」
「くくく……正確には、私の爆弾と、フィルマ」
「クルミちゃん、水中戦闘苦手だから」
「そうなのか?」
「武器がね~」
そう言えばクルミの武器はハンマーだったな。どうやら水中での取り回しが悪いらしい。
「まあ、最近リキューが開発した水中爆雷があれば、大抵の相手はどうにかなるから!」
「使いすぎは、赤字よ」
「分かってるって。いざという時はってこと! それに、フィルマもいるもんね!」
「そんなに凄いのか?」
「うん! なにせ、フィルマの水中戦を撮った動画が、凄い視聴数を叩き出してるんだから。今週のランキングに載ってるんじゃないかな?」
「ランキング?」
「え? 知らないの? 白銀さんが?」
プレイヤーが撮影した動画やスクショは、ゲーム内で公開することができる。公式動画などと同じように、ゲーム内、外で見ることができるのだが、最近のアップデートでランキング機能が追加されたらしい。
視聴者数で順位が決められるそうだ。
ランキング上位者には、ゲーム内通貨やポーション類など、わずかながら報酬も出るらしい。まあ、本当にわずかで、序盤で狩りをするのと大差はない程度の儲けしかないそうだが。それでも、ただ動画をアップするだけよりはモチベーションも上がる。
このランキング機能が実装されたことにより、格好いい映像や可愛い画像を撮影して、公開するプレイヤーも増えたらしい。
人気の動画は、上級プレイヤーによるテクニック解説や、激しい戦闘動画。あとはモフモフ動画なども人気が高いという。
そんなランキングで、フィルマが水中で踊るように戦う動画が上位に入っているらしい。テクニック動画、攻略動画としても有用でありながら、幻想的で美しいという評価も入っているそうだった。
「へー、凄いんだな。クルミとリキューが有名プレイヤーなのは知ってたけど、フィルマもトッププレイヤーなんじゃないか」
実は凄い3人組とチームを組んでしまったらしい。だが、褒める俺を3人が何とも言えない目で見ている。
「なんだ?」
「……ランキングトップが何を言ってんのさ」
「は? なんだって?」
「いや、今週の動画ランキングのトップ、白銀さんじゃん」
「いやいや。俺は掲示板にさえ書き込まないんだぞ? 動画を上げる訳ないじゃん」
「じゃあ、これは?」
クルミがそう言いながら、ランキング表を見せてくれる。確かにフィルマの名前があった。そして、一番上。トップの動画には確かに俺の名前があった。
動画のタイトルが、マモリの日記帳1。投稿プレイヤーはユートとなっていた。いや、知らんぞ?
とりあえず動画を再生してみることにした。
すると、最初にマモリの姿が映し出される。カメラ位置的には、だいたいマモリの視線と同じくらいの高さだろう。マモリのほぼ真後ろにカメラが浮かんでいるようなアングルだった。
後ろ向きのマモリがトテトテとホームの廊下を走っている。そして、縁側から飛び降りると、クルリとカメラの方を向いた。
マモリがシュタッと手を上げて「あーいー」と挨拶すると、カメラがマモリから少し離れる。そして、周囲の光景も目に入ってきた。
ホームの庭だな。そしてマモリの周辺に、小さいデフォルメ河童、丸いフォルムのシーツオバケ、大きめのぬいぐるみチョウチョ、茶色い毛玉が映っていた。うちのマスコットたちだ。
「あーいーあーいー」
「バケバケバーケ!」
「カッパパー!」
「テッフテフ~」
「モフモフ! モフモフ!」
な、なんだこれ? メッチャ可愛い!
その画像には、なぜか皆でラジオ体操らしきものを始めるマスコットたちの姿が映っていた。いや、そう言えばちょっと前に適当にラジオ体操をしていたらマスコットたちが交ざってきて一緒に楽しんだ日があったけど……。まさかあれで覚えたのだろうか?
まあ、まともに動けているのは座敷童のマモリと、コガッパのタロウくらいだが。
モフフのホワンに関してはその場で手足をバタバタさせるだけだし、オバケのリンネ、テフテフのオチヨに至ってはフワフワと上下に動いているだけに見えた。
ミケ猫のダンゴ、マメ柴のナッツは縁側から応援しているらしい。いや、ナッツが妙に規則的に吠えている。もしかしてメトロノーム的な役割なのだろうか?
そうやってしばらくの間、体操なのかお遊戯なのか分からない、マスコットたちの超プリティ映像が流れた。最後はマモリが額の汗を拭いながら、満足げな顔で「あいー」と笑う映像で締めだった。
いや、暗転後、また始まったな。マモリが無人販売所にアイテムを補充している。しかも、ご丁寧なことに、補充する商品のテロップが流れていた。まるでうちの無人販売所のCMみたいな映像である。
背伸びをしながら品物を補充するマモリの姿は凄まじく可愛いかった。庇護欲がギュンギュンにくすぐられる姿である。
ただ、それを見て思い出した。
「そういや、数日前にマモリから行動承認とかいうのがきてたな」
マモリの特性の1つに「お手伝い」というものがあったが、これが中々有用な特性だった。なんとその名の通り、様々なことをお手伝いしてくれるのだ。
例えばホームの掃除や、来客の出迎えのような簡単なものだけではなく、無人販売所の補充や、畑の草むしりのような簡単な生産の補助なども可能だった。
特に素晴らしいのが無人販売所の補充だろう。今まではギルドで人を雇っていたけど、それが必要なくなる。オレアも補充はできるけど、増えた畑仕事に集中してもらいたいしね。しかも、かなり細かく設定できるのだ。
何を優先にして、何を売ってはいけないか。補充の順番や、どの程度減ったら入れ替えるか、等々、何十項目も設定を決めることができた。
まあ、そのせいで大分焦らされたが。実は強制ログアウト直前だったのだ。
大慌てで無人販売所の設定を終え、他のお手伝い可能項目を許可して、ログアウトしたんだが……。
多分、あの時かなり焦っていたので、お手伝いだけではなく、日記帳の公開的な物にまでチェックを入れて、許可を出してしまったのだろう。それしか考えられない。
動画を見た感じ、マモリの一日を軽く紹介しつつ、無人販売所の宣伝も兼ねているといった感じか……。カメラワークはマモリの任意なのかね? 多分、見えないカメラが浮かんでいるようなイメージなのだろうな。
「動画が何で公開されたのかある程度納得したからいいとして……。なんで1位?」
確かに可愛いけど、2位に倍以上の差がついてるんだけど。そんなに凄い動画か? うちのホームでマスコットがワチャワチャして、畑でマモリが仕事をする風景が少し映っているだけだぞ?
「いや、だってマスコット可愛いし。珍しいし」
「くくく……カメラワークも完璧」
なるほどな。確かにマスコットはまだまだ未知のモノだし、たくさん映っているってだけで興味は引くかもしれない。
実際、コメントには可愛い、欲しい! といったものだけではなく、「屋敷ってどこ?」「ちらっとコタツが映ってなかったか?」といったコメントも書き込まれている。
「これって、ランキング上位だとお金とかがもらえるんだっけ?」
「そうだよ」
だったら、このままでもいいか。別に見られて困るような部分は映っていないし。というか、見られて困るところなんか何もないしな。
むしろこの動画、俺がほしいんだけど。マモリに頼めばもらえるか?
以前、拙作のイラストを担当してくださっていたうげっぱ様が、10月23日に永眠されました。
先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。




