310話 ガルーダ戦決着
「キュオオオオ?」
「よっしゃ! きたきた! やっぱり飛行からの蜘蛛糸玉は落下確率が高い!」
ガルーダ戦開始から3分。多少のダメージを食らいながらも、アイネたちがミッションを成功させていた。
翼に蜘蛛の糸が絡まったガルーダが、天空から落ちてくる。落下ダメージも入るし、やっぱりこの方法がベストだな!
「――!」
「よし、ブランチバインドも成功! ドリモ、突貫だ!」
「モグモーッ!」
事前の作戦通り、竜血覚醒を使用したドリモの姿が変化していく。
「え? ドリモ?」
「モグッ!」
竜血覚醒スキルがパワーアップした効果だろう。なんと、ドラゴンモードになったドリモの姿が今までと違っていた。
今までは竜のような翼の生えたトリケラトプスといった姿であった。
だが、今はもっと竜っぽい。後ろ足が発達したことで、四足歩行から二足歩行になり、前足が自由に動くようになった。しかも、大きさは今までの倍ほどはある。猪くらいのサイズはあるだろう。
顔も、より鼻の部分が前に伸びて牙が大きくなったことで、トリケラトプスよりもラプトルなどに近くなっている。額の二本角はより太く、長くなったな。反りも少し入ったか?
また、翼が大きくなったことで、その羽ばたきを利用して加速できるようになったらしい。追い風と合わせたことで、まるで低空を飛んでいるかのような凄まじい速度を実現していた。
ドリモが高速突進からの体当たりを敢行する。
その角が、黄緑色の巨鳥の翼を抉った。いいぞドリモ!
「モグモー!」
「キュオオオオン!」
かなりのダメージが入った! さすがパワーアップしたドラゴンモード。多分、いきなり1割以上削っただろう。
しかも位置取りが最高だ。このあと、クママに入れ替わった後のことも考え、クママが攻撃し易い場所を選んでくれたのだろう。ドリモさん、まじ頼りになるぅ!
「よし、行くぞ! 召喚、クママ! 送還、ドリモ!」
「クママー!」
「クママ、そのまま目の前の鳥を攻撃だ!」
「クックマ!」
クママはモンスの中でも特に人懐っこい性格である。他のプレイヤーたちに撫でまわされるのもむしろウェルカムなほどだ。しかしながら、うちの中では一番好戦的でもある。こういった場合、呼び出してもすぐに攻撃に移れるのは頼もしかった。
クママの爪の先が毒々しい紫色に染まる。クママはレベル30で毒爪というスキルを覚えていた。まあ、ボスに効果があるかは分からないが、入ればラッキーくらいだな。
「このままいくぞ!」
「クマ!」
「フム!」
ガルーダ戦を開始して20分。
「キュオオオオオ!」
「だぁぁ! あぶねー!」
俺たちはガルーダのHPを残り1割まで減らすことに成功していた。ただし、ここからが真の戦いとも言える。奴の行動パターンが変化し、後衛へのヒット&アウェイを繰り返すようになるのだ。
「やべー、早過ぎて攻撃が当たらん!」
「フマー……」
「ヤー……」
「飛行部隊もか」
速いとは聞いていたんだが、ここまでとは思っていなかった。飛行可能なファウたちがいれば、蜘蛛糸玉を当てられると思っていたんだが……。
空中での隙となるはずのホバリング時間が異様に短い。それでいて攻撃中は風を纏っているので、蜘蛛糸が吹き飛ばされてしまうのだ。
「クマー……」
「フムー……」
ルフレのMPがもう残り少ない。ボロボロのクママを回復するか、入れ替えるかどちらかだ。ただ、リックはガルーダ相手にどうだ?
「いや、クママはもう限界。ここはリックだ! 召喚リック! 送還クママ!」
「キキュー!」
「リック、オール木の実フリー! 好きなだけ投げまくれ!」
「キュ!」
「ファウ、もう蜘蛛糸玉じゃなくていい! 歌で援護!」
「ヤー!」
「アイネは防風に専念!」
「フママー!」
防風とは、アイネが20レベルで覚えた新スキルである。その名の通り、パーティメンバーに対する風の影響を弱める効果があった。
後はもう俺が魔術で決めるしかない!
「仕方ない! もう途中でMP切れする覚悟だ!」
俺が使うのはスキルレベル35で覚えた新水呪文、アクアショックである。なんと、ついに範囲呪文を覚えたのだ。
普通のRPGと違って、撃ったら自動で敵全体にダメージを与えるような便利な呪文ではないが、直径5メートルのドームくらいの範囲をカバーできていた。当然、空中にも放つことができる。
今度突っ込んできたタイミングで、この術を当ててやるつもりだった。消費はアクアボールの3倍ほどで、威力は8割くらいだろうか。
敵単体に使うには勿体ないが、当てやすいと言うメリットもある。
「MP回復手段は使い果たしたからな……。残りのMPで奴を削りきれるか?」
そして、俺の心配は的中する。もう少しというところで、俺のMPが枯渇したのだ。
「リック!」
「キュー!」
リックも頑張っているが、やはり風の守りで木の実が逸らされてしまい、思うようにダメージが入らないらしい。
クママを残すべきだったか?
そう思っていたら、ガルーダの上に差す影があった。
「フマー!」
アイネだった。なんと、そのまま突っ込んで行く。そして、風の守りに弾き飛ばされることなく、アイネはガルーダに体当たりを成功させていた。
防風で風の守りを弱めたのだろう。
「フマフマ!」
「キュオオオ?」
至近距離で蜘蛛糸玉を食らったガルーダがバランスを崩し、落下を始める。
ただ、アイネも無事では済んでいない。風の守りのダメージをもろにくらい、瀕死だったのだ。俺は戻ってきたアイネを抱き留め、褒める。
「よくやった!」
「フマ……♪」
しかし、ガルーダが地面の上でも諦めない。嘴で周囲のモンスたちを狙っているのだ。その前にヒムカが自ら跳び出した。
「ヒムー!」
挑発するように、ガルーダに向かってクイックイッと手招きしている。その挑発が通じたのか、逆襲者の能力故か。ガルーダのターゲットがヒムカに移ったようだった。
鋭い嘴がヒムカに向かって突き出される。
「キュオオオオ!」
「ヒム!」
だが、ヒムカはその攻撃を避けようともしなかった。真正面からぶつかり合い、あっさりと弾き飛ばされる。死に戻ってはいないが、HPはレッドゾーンに突入していた。
しかし、ガルーダも只では済んでいない。なんと、逆襲者によるダメージを頭部にくらったことで、朦朧状態に陥っているのだ。ヒムカはこれを狙ったのか?
「い、いまだー! つっこめー!」
「キュー!」
「――!」
「ヤー!」
俺たちはがむしゃらに突っ込んだ。もうMPがないので、物理で殴るしか攻撃方法が残っていないのだ。アイネまでもが、ポカポカとガルーダを叩く。
結果、残5%ほどだったガルーダのHPバーが砕け散り、俺たちは勝利をつかみ取ったのだった。まじで命からがらだったな。
「か、勝った~」
「フマー」
「ヒムー」
まじで疲れた!




