305話 風車改造できません
「刻印スキルは面白そうだな……。他の刻印も手に入らんかな?」
ボーナススキルをチェックしてみるが、そこに刻印スキルは存在していなかった。多分、何かのスキルをレベルアップさせたときに入手できる、派生スキルなのだろう。
「残念だね~。でも、前提スキルによっては、取得を目指してみてもいいな」
こういう時こそ早耳猫!
「あ、その前にやれそうなことは全部試しておこう。サクラ、団扇まだあるか?」
「――♪」
「よし、これにこの塗料で――」
思いついたのは、描画スキルを使って、刻印のマークを描くことであった。
「えーっと、さっき刻印を施した団扇をお手本にして……こうか?」
うーん、どうしても完全に同じ形とはいかないか。しかも効果が発動しないし。
「……ああ、そうか。こうすればいいんだ」
俺は刻印スキルをオート発動した。どこに彫るか、刻印のマークが団扇の表面に浮かび上がる。しかし、決定はしない。浮かび上がったマークをトレースするつもりなのだ。
「お、これは楽だぞ!」
そうやってほぼ完璧に刻印を描くことができたんだが――。
「ダメか~」
まあ、刻んで印すスキルだもんね。彫るということが重要であるらしい。
「じゃあ、俺は早耳猫にいくから、後は頼むな? 地下は皆でローテーションで使うこと」
「――♪」
「フム!」
サクラたちを残して、早耳猫に向かう途中。俺は畑の風車塔を見上げて、ふと思いついた。風車は風属性のものだよな? あれに刻印を施したら、より強化できないか?
「風車の羽根には届かないし……。石臼とか外壁か?」
「フマ?」
「トリ?」
「お、アイネとオレアか。面白い取り合わせだな?」
いや、ちびっ子で精霊っぽい者同士。意外と気が合うのだろうか? 木人形風のオレアの肩に、アイネが掴まって浮いている。
「今から風車塔に刻印を試すんだ、見てろよ」
「フマフマ!」
「トリリ!」
応援してくれているのだろう。2人が俺の左右でズンタッズンタッとリズムに乗って、踊っている。動き回りながらバンザイを繰り返す、子供特有の適当ダンスではあるが。
「じゃあ、まずは外壁に……む?」
ダメだ。彫刻刀が全く通らん。硬いとかそういう話ではなく、システム的に傷をつけることができないらしかった。
「フマ~」
「トリ……」
「まてまて、まだ失敗と決まったわけじゃない。他の場所でも試すぞ」
次は石臼に試す。だが、こちらもダメであった。見えない壁に阻まれる。
「オブジェクトに刻印はできないってことか?」
「フマ!」
「トリー!」
「お? どうしたどうした?」
アイネとオレアが俺を引っ張り始めた。どうも、どこかに連れて行こうとしているらしい。ちょっと抵抗してみたら、2人の必死の顔が可愛い。
「フマフマ~!」
「トーリー!」
俺がニヤニヤしながら見下ろしていることに気づいたのだろう。オレアが俺の足を、アイネが俺の頭をポカポカと叩く。それも可愛いんだが、これ以上悪戯したら嫌われそうだ。
「分かった分かった。いくって」
「フマ!」
「トリ!」
全くもうって感じでプンプン怒っている2人に連れていかれたのは、果樹園であった。まずはオレアかな? 自分の本体であるオリーブ・トレントの上の方を指さしている。
「何が……え? あれなんだ? 巣箱?」
「トリ!」
なんと、オレア(本体)の枝の上に、白木の箱が設置されていた。どう見ても鳥の巣箱だ。だが、そこから顔を出したのは小鳥ではなく、リックであった。
「キキュ?」
「なるほど、リックの巣箱!」
多分、サクラが作ったのだろう。まさか、そんなものを作って、自分たちで設置するとは思っていなかった。だが、サクラが作ったものであれば、刻印を施せるだろう。
「うーん……。あれにそのまま刻印するのは怖いな」
良い効果が付けばいいけど、変な効果が付いたらせっかくの巣箱が台無しである。
「あとでサクラに巣箱を作ってもらって、それで試そう。ホームに置く分も欲しいし。教えてくれてありがとうなオレア」
「トリ!」
「キュー!」
「はいはい、お前もなリック」
「フマー!」
「お前のところも行くから、焦るなって!」
ちびっ子たちに纏わりつかれてしっちゃかめっちゃかだ。特に頭部。肩車状態のアイネと、頭の上に乗ったリックのせいで、視界が悪い。
「スネー」
「うお! お、お前もか!」
最後にスネコスリがやってきて首に巻きついた。もう、訳が分からん。
「あいー!」
「ニャー」
「ワン!」
「うお? お前らも畑にきたか」
突然足に走った衝撃に振り返ると、俺の足に座敷童のマモリが抱きついていた。その両脇には、三毛猫のダンゴと、マメ柴のナッツが控えている。この3体が並んだ絵面、ヤバくね? 可愛さが爆発している。
「ニャー」
「こ、こら! ダンゴ! お前まで登らんでいいから! あ、マモリ! なぜナッツを俺に押し付ける! わかった! 抱くから!」
「フマ!」
「あああ分かってるから! お前の所にもいくから! 目を塞がないで! だーれだ? 状態だから!」
「フマ?」
うちの子たちを体中に纏わりつかせてお祭り状態の俺がアイネの指示でたどり着いたのは、養蚕箱の前だった。
「養蚕箱か。確かにあれなら刻印を施せるかな?」
ホームオブジェクトの中でも自作可能なアイテムだからな。案の定、刻印を発動してみると、弾かれることはない。それに養蚕は風の精霊であるアイネが持っている初期スキルだ。刻印・風と相性がいいかもしれない。
「でも、これも今すぐは怖いな」
「フマ?」
「もう少しスキルレベルが上がってからな?」
「フマ」
だいたい、まだ最初の糸も回収できてないのだ。改造するには、デフォルトを知っておかないとだめだろう。




