304話 刻印の活用法
刻印はある程度分かった。座椅子とかに刻印を刻んでおこう。あと、劣化速度上昇は、発酵には使えるかもしれん。刻印入りの発酵樽を作って、早速ルフレを呼んで実験してもらうことにした。狙い通り、劣化速度上昇効果の付いた樽をルフレに渡す。
「頼むぞ! これで、さらに色々なものが速く作れるようになるかもしれん」
「フム!」
刻印はこんなところかな。
お次に試したいことは、最速の称号コレクターの報酬で手に入れたスキルスクロールであった。まだ開いていないのだ。
「称号の報酬だ。きっといいスキルがゲットできるに違いない!」
過去の例から考えても、ランダムスキルスクロールのランダムとは、全スキル中からという意味ではない。
水霊の試練で手に入れたスキルスクロールからは水関係。風霊の試練のスクロールからは風関係のスキルが手に入った。
多分、いくつかの候補があり、その中からランダムで選ばれるのだろう。
ならば、ユニーク称号の報酬であるこのスクロールからは、どんな凄いスキルがゲットできるのであろうか?
「くくく。、もしかしたらexスキルくらいは手に入ってしまうかもしれん……」
「――?」
「フム?」
「サクラ、ルフレ、見てろよ」
「――」
「フムー!」
そして、俺はスクロールを開く。
「ふはははは! なんかいいスキルよこい!」
軽く光ったスクロールが光の粒となり、俺の体に吸い込まれていく。成功だ。
「さて、どんなスキルを――うん?」
ステータスを見たら、確かに新しいスキルが追加されていた。だが、これか? これなのか?
「えっと、念動?」
俺が新しく覚えたスキルは、念動であった。スネコスリと仲良くなったら解放されるスキルである。あと、ゴーストタイプの敵が攻撃に使ってたかな?
プレイヤー間の評価では「罠解除に便利」、「攻撃には使えそうもない」、「遠くの物を取るのには便利だよ?」という評価だった。
シーフ系のプレイヤーに取得者が多いそうだが、それ以外のプレイヤーには不評であるらしい。
「色々ある中で、これか?」
「――?」
「ま、まだ使えないって決まったわけじゃないもんね! 色々と実験してみないと!」
ということで、念動を使用してみた。
「ほほう」
念動を使うと、見えざる手のような物が視認できた。あとは脳内でイメージすれば、意外とスムーズに動く。広がれと思えば霧のように広がるし、集まれと思えば棒のようにもなる。
しかもサクラにはこれが見えないらしい。術者だけに見えるのだろう。結構強そうじゃない?
俺は念動を使って物を持ち上げようとしてみた。そして、すぐにその使えなさに悶絶してしまった。
「くっ。射程がそこそこ……。でも力がこんなものじゃ……」
スキルレベルが低いせいか力が弱く、スプーンを5秒以上持ち上げていられなかった。射程は5メートルほどあるので、力さえ上がれば悪くないかもしれないんだが……。
「箸よりも重い物が持てないってやつ?」
いや。より念動を集中させれば、力が上がると書いてあったな。俺は念動を棒のように凝縮して、スプーンをもう一度持ち上げてみる。
「お、今度はいいぞ。じゃあ、これで物を投げてみるか」
俺は念動の腕を大きく振りかぶり、スプーンを放り投げようとした。しかし、振りかぶる途中で念動が途切れ、スプーンがその場で落下してしまう。効果時間が短いようだ。
「もう一度だ」
しかし、何度やっても振りかぶるところまでいかない。
「何か違うアプローチ……。野球の投球を考えるからダメなのか? バスケのパスっぽくいけば……」
俺は念動をより凝縮し、その反動を利用して物を飛ばすことを考え付いていた。投げるというよりは弾き飛ばす。パチンコみたいなイメージだ。
「うおおお! 念動スリングショットォォ……お~……」
飛んだ。20センチくらい。その後、何度か繰り返してみたんだが、やはり遠くに飛ばすことはできなかった。
「やっぱ力不足だな」
レベルを上げていけば、解消されるのだろうか? いや、もしレベルを上げただけで化けるのであれば、ションボリスキル扱いされないだろう。
調べていくと、このスキルの力は本体の腕力依存であるらしい。しかも、スキルレベルを上げてもそこまで強化されない。
このスキルの第一人者があの浜風らしく、使用感を掲示板に書き込んであった。さすが陰陽師だぜ。
スキルレベル20の時点で射程が10メートル。石を拾って、軽く投げる程度の力しかない。しかし、隠れた場所から挑発して誘導したり、離れた場所の素材を採取するのには使える。そういう評価だった。
便利ではあるかもしれないけど、他で代用できそう。特に様々な能力を持った従魔がいる使役職の場合は。
「……まあ、ボーナスポイントを消費した訳じゃないし、損した訳でもないんだ。レベル上げしながら使い道を考えよう」
クイクイ。
「――」
「お? どうしたサクラ」
裾が引っ張られたので振り向いてみると、サクラが何やら木工製品を手に持っていた。
「これは……団扇じゃないか! しかもこっちは竹とんぼ?」
「――♪」
「もしかして刻印が使えそうなアイテムを作ってくれたのか?」
「――♪」
「そっかー! えらいぞ!」
なんてできた子だ! それにしても、竹とんぼはともかく、団扇なんて作れるんだな。紙は以前ソーヤ君の店で仕入れたことがあるからそれを使ったのだろう。
ただ、俺が知る団扇とは構造が少し違っている。
なんと言えばいいか……。まず骨組みが少ない。その分、下半分が薄い木の板で出来ていた。紙を節約しつつ、強度を上げているのか?
持った感じ、リアルの団扇よりも重い。あと、団扇の下半分が木で出来ているせいでしなりが弱く、発生する風も弱かった。
だが、これは刻印にとっては悪くない。なにせ、刻印を施すにはある程度の余白は必要なのだ。オートではなく、マニュアルで彫れば融通が利くのだろうが、俺にはそこまではまだ無理である。
その後、団扇に刻印を施すと、風属性上昇・微という効果だった。品質は最低だが、それで発生する風が悪くなるわけもない。まあ、臭い風になったりしないかと、最初は少し不安だったけどね。
結果、少し動かすだけで強い風が生まれる、最高の団扇になったのだった。
「これはいいなぁ~」
「――♪」
そして竹とんぼなのだが……。こっちは失敗だった。3つは刻印がはみ出しておりゴミに。唯一成功したかと思った竹とんぼも、飛ばしたら空中分解してしまった。刻印を施した羽根の強度が下がったんだろう。効果は風属性上昇・微だったので、多分滞空時間が伸びると思うんだが……。
「まあ、団扇が成功したんだ。あまり落ち込むなって」
「フム~」
「――」
「ほら、元気出せ。な?」
「――♪」
いつもはお姉ちゃんなサクラが、落ち込んで甘えてくる姿はレアだ。それが見れてむしろラッキーと思ってしまったことは内緒である。




