3話 ノームの真価
キーワードに、生産、テイマー、非異世界を追加しました。
作中に出てくるオンラインゲームのタイトルが間違っておりました。
Low of Justice Online を Law of Justice Online に修正しました。
作品ジャンルについて、SFではなくファンタジーなのではないか? というご指摘を頂きましたが、作者的にはVRMMO物はSFというイメージなのです。
また、なろう内で予定されているジャンル変更後の区分けにおいても、VRゲームはSFジャンルに区分されるようですので、とりあえずはこのまま行かせていただきます。ご了承ください。
「……くそ、死に戻ったか」
周りの奴らもエフェクトで俺が死に戻ったと分かっているのだろう。明らかに俺を笑っている奴もいる。
「はぁ、1回ログアウトしよ」
始まりの町では、ベンチなどに座っていれば簡単にログアウトできる仕様になっている。俺は広場から少し離れたベンチに腰掛けると、ログアウトと念じた。
「……最悪の気分だな!」
俺はVRメットを外すと、ベッドから起き上がる。時計は、ログインしてから1時間ほどしかたっていない。
「デスペナルティがないのが、せめてもの救いだよな」
LJOは、死に戻っても最初の3回まではデスペナルティがない、初心者救済用の有り難い仕様だった。
それ以降だと、所持金の1~3割消失、所持品1~3品消失、ステータスが一定時間半減から再開となるのだ。ステータスは時間経過で回復し、ゲーム内時間で半日経てば元に戻るけどね。
まさかこんな序盤で自分が消費する羽目になるとは思ってもみなかった。
「まずは、情報を集めてみよう」
何が失敗だったか。それは初期モンス、オルトの戦闘能力の低さを確認しなかったことだろう。レベルの高さとスキルの字面だけを見て、浮かれて突っ走っていた。
俺は朝に作っておいたサンドイッチを食べつつ、PCを開く。
「ノームの情報はないかね」
βテストでトップテイマーだったという人物、アミミンさんが使役モンスターについて情報をまとめたページだ。
彼女が初期に獲得できるモンスターの能力を考察し、おススメ度を掲載したページにノームは載っていない。
「あった、こっちに載ってたか」
それは、第3エリアで入手できるモンスターのまとめページだった。
俺は初期ボーナスでアドバンステイムを選択したので、第2エリアのモンスターから初期モンスが選ばれたはずだ。第3エリアは含まれない。
読み進めていくと、βテストの時にノームは第3エリアにしか出現しなかったらしい。なので、正式サービスから第2エリアにも出現する仕様に変更されたのだろう。そのおかげでアドバンステイムを選択した俺の初期モンスターとして出現したのだ。
ノームの紹介は簡潔だ。完全なる生産モンスター。そう書いてあった。細かい説明を読むと、ノームは戦闘がほとんどできないらしい。
レベルアップで覚えるのは、鉱石採取系か、農業系のスキルばかり。初期から持っている重棒術は、ツルハシやシャベル、クワを使うときにだけ発揮され、土魔術も戦闘系の魔術は一切覚えない。唯一、高レベルでアースヒールを覚えるくらいらしい。
その代わり、ファーマーとしての能力は非常に高く、中堅の生産職と比べても遜色ない農夫系モンスターだと書いてある。
「ノームならぬ農夫って……。笑えねー……」
中盤以降、畑と合わせてゲットすべし! だってさ。
「アミミンさん。俺、初期にゲットできちまってるんだが」
やっちまった! モンスに戦闘を任せるつもりだったから、戦闘系のボーナスは一切取っていない。むしろ紙耐久の貧弱キャラだ。
「キャラメイクやり直すか……?」
しばし悩む。冬のボーナスも残っているし、再度課金したって構わない。むしろ、そうすべきだ。完全にネタキャラになってしまっている。
「でもな~」
なんかモヤモヤする。金の問題ではないのだ。作り直しはなんか負けた気がする。力を入れて作り上げた自分の分身を、そんなに簡単に切り捨てて良いのか?
そう思ったら案外簡単に覚悟が決まった。
「俺は、このキャラで行く。行こう」
もうスタートダッシュとか、最前線とかどうでもいいや。ただ、自ら作り上げたテイマーのユートと、その相棒オルトでLJOの世界を生き抜いて、楽しんでやる!
「よし! 覚悟完了!」
となればノームの特性を生かそう。
アミミンさんのページでは、ノームは農夫系と評されていた。確かにオルトのスキルも、採掘:農耕:株分:育樹:栽培促成exと、農業系スキルばかりだったし。
俺のオルトとデフォルトのノームと比べると、その農夫適性は異常に高い。まず、普通のノームは重棒術、土魔術、夜目、採掘、農耕、株分しか持っていない。
育樹はユニーク個体故の特殊スキル。栽培促成exは、キャラメイク時に選択したエクストラスキルボーナスで手に入れた物だろう。幸運はブラッドスキルによるボーナスと思われた。ちなみに、通常個体の髪は茶色と書かれている。オルトの緑髪は、ユニーク個体の証だろう。
先程の失敗を教訓にオルトのスキルをチェックしておく。
重棒術:重い棒を振り回す技術。ノームの場合、土木道具や農具を扱うためだけのスキル。
土魔術:大地の力を扱う魔術。ノームの場合攻撃魔術は覚えず、農業系の術だけを覚える。
この2つはさっき知った。もっと早く見ておけば良かったんだ。
夜目:暗い場所でも昼間と同じように見える。
採掘:鉱石の採掘や、地面を掘るためのスキル。
この2つはまあ想像通りだな。洞窟内の採掘で活躍する、ノームらしいスキルだ。採掘はLv5で覚えるらしいが、オルトはボーナスのおかげで最初からLv5だからな。初期スキルに入っていたんだろう。
農耕:農業を行うためのスキル。全農業系作業にボーナスが付く。特化していない分ボーナスは小さいが、その分すべてに適用される。
株分:植物を種子に戻し、数を増やすためのスキル。株分けのレベルによって、品質低下の度合い、増える数が変化する。
育樹:樹木を栽培するためのスキル。また、品質を低下させる代わりに、木の実などから苗木を生み出すことも可能。育樹のレベルによって、品質低下の度合い、成長の速度が変化する。
栽培促成ex:植物の栽培速度を大幅に上昇させる。栽培した植物の品質を僅かに上昇させる。自らが手入れをしている物にのみ適用。
幸運:様々な場面で運が良くなる。
幸運だけはアバウトな説明だが、敵のドロップや採取品がレアになる確率や、生産時の成功率の上昇などが予想されるらしい。
なるほど、完全に農夫だね。となると、このスキルを生かしていく方向だ。不幸中の幸いに、俺は調合、錬金スキルを習得している。薬草などを栽培し、ポーションを作って売れば、多少の儲けは出せる気がする。
生産でお金を稼ぎつつ、納品クエスト等で経験値を稼いで、レベルアップを狙っていこう。
テイマーについても、もう一度確認しておこうかな。テイマーの最も大きな特徴として、名前にもなっているテイム能力がある。確率で、魔獣を支配し、使役できる能力だ。
実はテイム自体は他の職業でも使うことが可能だ。レベルアップで貰えるボーナスポイントを消費して取得できる。
ただ、テイマーの特別なところは、専用スキルの従魔術というスキルがあることだった。効力はテイム率上昇、テイムモンスターの能力上昇、テイム枠取得の3つだ。
他職でも覚えられる使役というスキルが同じ効力を持っているが、従魔術と使役はその効果が重複する。つまり、両方覚えておけば、相乗効果でテイム率やテイムモンスの能力上昇が非常に高くなるという事だった。
テイマーのデメリットとしては、同行させているモンスターにも経験値が割り振られるため、取得経験値が減るという事。そのせいで、パーティーには敬遠されてしまうという事があるだろう。ソロ向きの職業なのだ。
その分、レベルアップに必要な経験値が他職よりも低めに設定されているらしいが、基礎能力が低いため、レベルが上がってもプレイヤー自身は強くなるのが難しい。ソロ向きなのに弱い。そこもまた、不人気職と言われる所以だろう。
とび抜けたプレイヤースキルでも持ってれば話は違うんだろうが……。俺はリアルで武術の達人だったりもしないし、何故か俺だけが使える思考加速能力を持ってたりもしない。単なる運動不足の会社員である。
あれ? これって茨の道か? いかん、なんかダメな気がしてきた。いやいや、テイマーで行くと決めたんだ。何を言ってるんだ俺!
こんな時は――。
「よし、取り敢えずお湯沸かしてコーヒー飲むか。一回リフレッシュして、再開だ!」