299話 大家族
不動産屋で新たなマスコットやオブジェクトを手配してホームに向かうと、いつの間にか賑やかになっていた。
「ムムー!」
「ヒムー!」
「フマー!」
「フムー!」
精霊たちが追いかけっこをしている。その様子を眺めながら、クママやドリモが縁側でまったりとしていた。
「クマー」
「モグー」
「植物コンビは光合成中か?」
サクラとオレアは、揃って柳の古木のそばで佇んでいる。
「それにしても、一気に風情が出たな」
「――♪」
「トリ!」
俺が柳の古木を褒めると、サクラとオレアも嬉しげだ。同じ植物として、仲間意識でもあるんだろうか?
「お、トンボがいるぞ!」
柳の根元に広がる池には、トンボだけではなくアメンボ等の姿もあった。さらに、メダカっぽい魚までいるな。いやー、風に揺れる柳の枝と相まって、涼し気でいい。これがタダとは、ラッキーだったな。
庭は夏だが、炬燵も楽しめる。ゲームならではだろう。
「チビーズはどこ行った?」
一番元気なリック達の姿がない。そう思って探したら、炬燵に入っていた。それぞれが1面を占領して、炬燵布団から小さい顔だけを出している。
「キュー」
「ヤー」
「ウニャー」
「スネー」
「お前ら、贅沢だな」
さらに、茶の間に顔を出してみると、チャガマが自分の茶釜を磨きながら、囲炉裏の前で寛いでいる。お湯を沸かしているようだ。これがあれば、チャガマがお茶をいれてくれるかもしれないな。
「ポコ!」
その横に、探していた姿がある。
「座敷童とオバケ! ここにいたか!」
「あい!」
「バケー」
新しくお迎えしたマスコット。座敷童とオバケである。揃って囲炉裏の前で寛いでいた。
「おっと、名前を付けなきゃいけないのか」
「あい!」
「バケ!」
揃ってシュタッと手を上げたマスコットコンビが、期待の眼差しで俺を見上げている。これは変な名前を付けられん……。
「うーん、まずは座敷童だな」
ワラシじゃそのまんま過ぎるか? でもチャガマもまんまだしな……。いや、でも少しは捻ろう。
「幸運を運ぶ家の守り神……。マモリガミ……。よし、マモリだ!」
それに、好きな妖怪漫画でも似た名前の座敷童が出てくるのだ。
「あい!」
「気に入ってくれたみたいだな。お次はオバケだ」
「バケケ!」
「もうテ○サしか出ないんだけど……」
しかし、テレ○はまずかろう。あとは、なんだろう。Qちゃん、ホーリー……。いやいや、既存キャラの名前から離れよう。
見た目は、フワフワ浮く白い布に、目と口を書いた感じだ。
「布……シーツ……リネン……リンネル……よし、お前の名前はリンネだ!」
輪廻であの世っぽい雰囲気もあるし、素晴らしい名前だ! そう決めた!
「バッケー!」
リンネもマモリと一緒に小躍りしている。文句はないってことだろう。
あと姿が見えないのはハナミアラシだが、あいつは社に憑いているようだし、こっちには来られないのかもしれないな。もしくは全く興味がないか、飲んだくれて寝ているのだろう。
「しかし、随分と大家族になっちまったな」
従魔であるオルト、サクラ、リック、クママ、オレア、ファウ、ルフレ、ドリモ、ヒムカ、アイネ。
妖怪はハナミアラシ、ブンブクチャガマ、スネコスリ。
そして今日仲間に加わった、ダンゴ、マモリ、リンネ。
ここにいるだけで総計15人だ。俺が縁側に出ると、皆が集まってきた。
俺の隣にはオルトやマモリたちが腰かけ、リックやスネコスリはその肩や頭の上で寛いでいる。庭ではアイネやリンネ、ファウたち飛行可能組が空中追いかけっこをしていた。
いい光景である。所持金を使い切ったが、ホームを購入して本当に良かったな。いや、まだだ。これで終わりではなかった。
「そうだ、課金してマスコットを増やさないと!」
課金はログアウトしないとできないが……。
「一瞬だけログアウトして、ちょっ早で課金手続きをしてこよう!」
そして、残りの妖怪マスコットたちもこのホームに呼ぶのだ! 可愛いマスコットは増えるし、オバケのおかげで手に入ったと思われる柳の古木も素晴らしい。一気に庭に風情が出た。
「これは急がないと!」
そうだ、布団だ! あれを使えばすぐにログアウトできる!
俺は急いで和室に向かうと、布団を敷いていく。すると、マモリが手伝ってくれるではないか。布団を軽く伸ばしたり、枕を設置したりしてくれる。これが『お手伝い』の効果なのか?
マモリのおかげですぐに布団が敷けたぜ。俺はさっそく中に潜り込む。
「じゃあ、またあとでな」
「あい!」
枕もとで正座しているマモリに一声かけ、俺は目を閉じる。
同時に、ログアウトするかのアナウンスが聞こえたので、それにイエスと答えると、俺の意識はゲームの中から現実へと浮かび上がっていくのであった。
「ふぅ。さっそく課金しちまうか!」
風邪をひきました。少々悪化してしまい、執筆が遅れております。
次回の更新は8/30とさせてください。申し訳ありません。




