298話 妖怪マスコット
納屋の中に転送扉を設置し終えた俺は、オルトを扉の前に連れてきた。
「オルト隊員! 転送扉が君たちにも無事使えるかどうか、確認する任務を与える!」
「ムッムー!」
「よし! 行ってくるのだ!」
「ムー!」
という寸劇を挟みつつ、敬礼で応えてくれたオルトが一人で転送扉を潜って消えていく。そして、すぐに扉の向こうから戻ってくる。これでモンスでもホームへ行って戻ってこられることが確認できた。
オルトが間違いなくホームに行ったことが確認できたのは、あっちの屋敷からダンゴを連れ帰ってきたからだ。
オルトが三毛の子猫を抱きかかえて転送扉を潜ってきたのを見た時には驚いた。マスコットはホームやホームエリアだけに連れ出せるという話だったが、簡易ホームもオッケーだったらしい。
「ムー」
「ウニャー」
オルトは背後から脇の下に手を入れるような形でダンゴを抱いている。下半身が伸びてダラーンとした状態で、ダンゴは欠伸をした。嫌がってはいないらしい。
これでうちの子たちと遊ぶことができるし、ダンゴも寂しくないだろう。
「じゃあ、次はお前だ。どうだ?」
「スネー」
スネコスリも問題なし。これで従魔、妖怪、マスコット。皆がホームと畑間を移動できることが確認できた。
「じゃあ、俺がいない間も好きに移動していいからな?」
「ムー!」
「ウニャ!」
「スネ!」
子猫を体の正面で抱きかかえたオルトと、足がブラーンとなっている子猫。そしてオルトの頭の上で丸まっているスネコスリ。
なんだこのカオスで可愛い絵面。ゲームならではの光景だよな。スクショを撮りまくっちゃったぜ。さて、このままだと無限に遊んでしまいそうだ。
「サクラ。茶釜をホームに運んでおいてくれないか?」
「――!」
「頼んだ」
「――!」
次はマスコットを増やしに行かねばいかんのだ。もうね、ダンゴのプリチーさを見ちゃうとね? マスコットを増やさない選択肢など、存在しないよね?
「次は何にしようかな? やっぱマメ柴? でも子熊も可愛かったし……」
いっそ、子熊とクママでダブル熊を結成か? それとも初期の10種類から選ぼうか? あのバルーンみたいなデフォルメマスコットも可愛いし。
そんなことを考えながら不動産屋に戻った俺は、お金を支払ってマスコットの保有枠を増やす。1体5万G……。だが、悔いはないのだ。
「マメ柴、子熊……うん?」
そして、マスコットの一覧を見て、思わず変な声を出してしまっていた。
「ひょぉ? ふえ? これ、マジっすか?」
「はい。こちらが、現在ユート様の選べるマスコットとなっております」
だって、数がメチャクチャ増えていたのだ。さっきは14種類だったが、今は19種類である。
「座敷童、コガッパ、テフテフ、オバケ、モフフ……。どう考えてもあのイベントが関係しているよな」
でも、さっきは選べなかったのに、何でだ? いや、座敷童が増えたのは、ホームに掛け軸を掛けたからだろうか? 他の4種類に関しては、人形を飾ったからかね?
「しかもどのマスコットにも特殊能力があるんだけど」
座敷童は『お手伝い』、『幸運』、『日記帳』と、3つも能力があった。コガッパは『雨天』、テフテフは『虫の声』、オバケは『柳の下』、モフフは『餌付け』である。
ただ、詳細が分からない。不動産屋さんに聞いても、教えてはくれなかった。
「詳細はお楽しみと言うことで。ただ、マスコットはあくまでもその可愛さが本領ですから。能力に関してはオマケとお考え下さい」
つまり、それほど強力な御利益はないってことなんだろう。
「座敷童は確定として……。特殊能力は魅力だけど、可愛さは……。うーん」
可愛さならマメ柴、子熊。でも特殊能力は捨てがたい。
「やっぱこっちの妖怪マスコットたちにしておくか」
最大で6体まで枠を増やせるわけだし、全部お迎えできる。そこで特殊能力を検証すればいいだろう。
「じゃあ、今回は座敷童とオバケでお願いします」
「わかりました」
オバケを選んだことに特に理由はない。一番最初に出会ったマスコットなので、何となく選んだだけだ。
「あと、設置可能な設備も見せてもらっていいですか? 工房とかの値段を知りたいんで」
「はいどうぞ」
不動産屋さんにリフォームのリストを見せてもらったのだが、工房などは届かない。ただ、こちらにも先程なかった項目がいくつか追加されていた。
「えーっと、柳の古木?」
これって、もしかしてオバケをマスコットにしたからか? しかも柳の古木は、タダで設置できるようになっている。
柳の古木の効果は、特になし。ただ、小さい池とセットになっていて、その水は生産利用が可能であるらしい。
まあ、日本家屋の虫の音などと一緒で、風情や和風感の演出をするためのアイテムなのだろう。
しかし、水場がタダで設置できるというのは普通はあり得ない。多分、オバケの持つ『柳の下』の効果がこれなのではなかろうか?
「ま、タダならぜひ設置させてもらおう」
俺は間取り図の中から庭の一角を指定して、設置をお願いするのだった。




