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296話 畳の魅力

 俺は、ダンゴが加わり3人体制に増えたチビーズを引きつれ、ホームの中を探検した。


 木の床に、和室の畳。明り取りの窓には障子が張られ、和の雰囲気が爆発している。最高だね日本家屋!


 ああ、靴はちゃんと脱いでるよ? 今回は自分で靴を脱いだが、次回からは自動で脱げるように設定を変更しておいた。


 この家に上がる際に自動で靴が脱げ、外に出る時には自動で事前に装備していた靴を装備し直すように設定したのだ。他には、衣装を着替えたりも可能であるらしい。


「玄関から最初にある部屋は、普通の和室か」


 玄関から続く廊下の右は、地下へと下る階段となっている。左側には襖があり、開いてみると6畳の和室になっていた。木製の箪笥が1つ備え付けられている以外は、特に何も置いていない簡素な和室だ。だが、それでも俺は感動していた。


「おおー、畳の匂いまでちゃんと再現されているじゃないかー……」


 畳の匂いを嗅いでしまっては、寝転がらない訳には行かない。おれはその場で畳の上にうつぶせになった。より強くイグサの香りが鼻に入る。


「あー、手触りもいいー」

「キキュー」

「ヤヤー」


 リックとファウも俺に倣って、畳の上に寝ているが、その顔は気持ちよさそうだ。従魔にも畳の気持ち良さは分かるらしい。


 ダンゴは部屋の入り口に箱座りをして欠伸をしているが。


「そうだ。和室には収納があるはずだ。中はどうなってるんだ?」


 押入れがあることを思い出して、中を覗いてみる。すると、そこには布団が一式収納されていた。


「ま、まじか! 布団だ!」


 しかも宿などにある素っ気ないファンタジー風の寝具ではなく、ちゃんと和風の布団である。枕は籾殻だ。


「ね、寝て……。いや、ダメだ」


 このゲームで寝具で眠るということは、ログアウトするということである。


「ということは、布団の寝心地は堪能できないってことか……。残念」


 畳を心行くまで堪能した俺たちは、次の部屋へと向かった。廊下の突き当りにやはり襖がある。廊下はそのまま左に曲がり、その先で右へと折れている。あちらに行けば縁側があるのだろう。


「縁側は後のお楽しみにして、こっちの部屋はどうだ?」


 縁側に行きたい欲求を押えつつ、目の前の部屋を開けてみた。


「ここも普通の和室か」


 ただ、この和室からは他の部屋へと続く襖があった。正面と、左側だ。


 俺はそのまま正面の襖を開けてみる。そこは、板張りの台所になっていた。


「ほほう。これは面白いな」


 めっちゃ古風な台所である。タイルなどさえなく、石で出来た竃に石窯。木製の水桶などが置かれていた。それでも調理器具はきっちり金属製だし、料理をするのに不足はないだろう。外見が古風なだけで、性能は問題ないようだった。


 蛇口もあるし。しかも木製の。捻ってみるとちゃんと水が出た。その辺はゲームだしな。


「米用のお釜まであるじゃないか。これはマジで米が欲しいぞ……」


 アリッサさんのところに行ってみようかな。もしかしたら前線では発見されているかもしれん。


「さて、次は向こうの部屋に行ってみよう」

「キュー!」


 いつの間にか俺の右肩に戻っていたリックが賛成してくれる。ファウは頭の上だ。


「じゃあ、お前はこっちだな」

「ウニャ?」


 ダンゴを左肩に乗せてみると、うまくバランスをとっている。ホームの中で接する限り、マスコットもモンスもあまり変わらないようだった。


 そのまま、元の和室には戻らず、もう一つの襖に向かう。向き的には、庭や縁側の方にある部屋だろう。


「おー、これはこれは。凄いじゃないか!」

「ヤー!」


 そこは茶の間だった。リビング兼ダイニング的な? なんと、部屋の中央に囲炉裏がある。テーブルにも使える幅広めの木枠の中央に灰が敷かれ、炭が置いてある。しかも上からは――なんて言うんだろう? 鉤爪的な物が付いた棒? 囲炉裏にはセットになっているあれだ。そして、その鉤爪には鉄瓶がつり下げられている。


「ヤバい。これはヤバい! おおー、火は簡単に着けられるのか!」


 近づくと、炭に着火するかどうかの選択肢が現れる。一々、魔術や火打石などで火を熾すような真似をする必要はないらしい。さすがゲーム!


 どうやらここで料理などもできそうだった。本当に囲炉裏だ。ただ、気になることが1つ。


「煙、大丈夫なのか?」


 台所でも思ったが、ここと台所だけは天井が取り払われ、骨組みや屋根が剥き出しになっている。和室に比べ、より古民家感が強いのだ。


 ただ、そこには排煙のための機能などが付いているようには見えない。


「ふーむ? まあゲームなんだし、その辺はどうにかなるのかね? ちょっと実験してみるか」


 俺は囲炉裏の鉄瓶で水を沸かして、お茶を飲んでみることにした。


「着火して……。あ、鉄瓶に水を入れないとな。これで放置すればいいのか?」


 しばらくの間、ダンゴやリックを撫でながら、囲炉裏の前に胡坐をかいて座る。ファウが囲炉裏の木枠に腰かけて、リュートを弾き始めた。


 歌のない、インスト曲である。


 いつも演奏しているような、北欧の民族音楽風の曲なんだが、そのゆったりと流れる音が、妙にこの場に馴染んでいた。


「日本家屋と意外に合うな」

「キュ~」

「ウニャー」


 リック達も目を細めているな。そうして待つこと数分。鉄瓶の口から蒸気が上がり始める。中を覗くとちゃんとお湯が沸いていた。


 そのお湯を使ってハーブティーを入れてみたが、ちゃんと美味しい。いつも通りのハーブティーだった。


「煙は……。問題なしか」


 炭から上がる煙が驚くほど少なく、少し発生する煙も上へと昇って行き、屋根に吸い込まれるように消えていく。


「リアルなところはリアルで、都合のいいところはゲーム仕様。うんうん、良いバランスだ」


 さて、残りの部屋も確認しよう。


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