294話 日本家屋
そうしてやってきたホームエリアは、案の定凄まじく混み合っていた。ただ、ホームの申し込みに並んでいるというよりも、どんなホームを買うかなどを仲間同士でワイワイと相談しているようだった。
「ここが受付? プレイヤーが全く並んでいないんだが……」
まあ、入って見れば分かるか。そう思って中に入ってみると、そこは町の不動産屋さんみたいな、ファンタジー感ゼロの事務所だった。
どうやら入り口をくぐると個別に隔離される作りであるらしい。ホームの受付をスムーズに行うのと、個人情報の保護の両方を同時に行っているのだろう。
「いらっしゃいませ! ホームをお求めですか?」
対応してくれるのも、まんま町の不動産屋さん風のNPCだ。小太りで、白いワイシャツに黒いスラックス。頭は7:3分けで、黒ぶちメガネ。腕にはアームバンドを付けている。
「あ、はい。どんなタイプがあるんですかね?」
「では説明させていただきます。まずはこちらをご覧ください」
不動産屋さんがテーブルにスッと手をかざすと、俺の目の前にウィンドウが立ち上がる。もうこの場所でファンタジー感を出すのは放棄したのだろう。完全にSFの世界だ。
不動産屋さんが見せてくれたのは、ホームの種類の分類表であった。
集合住宅タイプ、居住性重視一戸建てタイプ、庭付き一戸建てタイプ、高級住宅タイプ、屋敷タイプ、農場タイプ、工房タイプ等々、色々と種類があるようだった。
「お一人暮らしですと、集合住宅、一戸建てタイプがお勧めです。生産職の方ですと、農場タイプ、工房タイプですかね。こちら、最初から目的の生産施設などを備え付けることが可能となります」
「自分である程度間取りを決められると言うことですか?」
「はい。勿論、後々リフォームも可能ですし、住宅タイプの物件に生産施設を増築したりも可能ですので、絶対にここで決めなくてはいけないという訳ではありませんが」
居住スペースとしても生産施設としても使えるが、後はどちらに比重を置くかと言うことなんだろう。
俺は何を重視するべきだ?
「うーん、俺はテイマーなんで従魔優先で選びたいんですけど。庭付きで、生産の工房を付けられるのとか有ります?」
「はいはい、ございますよ。例えばこれ。従魔用のスペースも備え付けた、テイマーやサモナー用のホームとなっております」
「ほほう」
「あとは……。ああ、そうそう。こちらなどもお勧めですよ。庭が広めです。また、地下などもあるので工房の設置場所もございます」
「日本家屋風ですか」
「はい。特殊な効果もございますし、掘り出し物ですよ」
「特殊効果?」
「四季や天気、時間に応じて、虫の音などが聞こえる機能です。勿論、オンオフできるのでご安心を」
風流な機能が付いているんだな。でも、面白そうだ。それに、他の家が西洋風なのに対して、これだけが唯一和風という部分も魅かれる。
「ちなみにお値段はどうなってます?」
「はいはい、現在のホームはこのような感じですね」
「え? 高っ!」
「何分、特別なホームとなっておりますので」
一番安いアパートタイプで10万G。庭付き一戸建てが100万G。部屋数だけを見れば、普通の庭付き一戸建てに部屋を2つ追加しただけの日本家屋が250万Gとなっていた。
「250……? 手持ちのほぼ全てなんだけど。分割払いとかできないんですか?」
「申し訳ありませんが……」
残念ながらローンは利かないらしい。こんなに不動産屋さん風なのに、そこだけはゲーム仕様かい!
「……少し考えさせてください」
「は。こちらが詳しい機能一覧です」
「ふむ」
家は平屋の一戸建て。庭などは拡張することも可能で、増やせるらしい。これはどれだけ広げても、外からは見えない形になるらしい。
獣魔ギルドの牧場のように、謎空間を利用しているようだ。
家は、お茶の間、和室×3、台所。あとは納戸に、地下室が2部屋という形だ。和室には押入れまで付いている。
ただ、トイレや浴室はなかった。まあ、ゲームの中じゃ使わんからね。
ああ、あと忘れちゃいけないのが縁側。日本家屋にはこれがなければ。
こうやってみると結構広い。また、和室や地下室を工房などに変更も可能だし、庭には畑なども設置可能。ただし、洋室にはできないということで、そこは諦めるしかないが……。
「それと、このトランスポーターというのは?」
俺が気になったのは、屋敷の端っこにある、トランスポーターという表記だった。浴室とか、脱衣所みたいなノリで、普通に間取りに描かれている。
「それはお客様がお持ちのホームを繋げて、転送できるようにする装置です。お客様の所持するホーム同士であれば、無条件で転移可能となり、簡易ホームの場合は転送扉を設置すれば移動可能となります」
「簡易ホーム。それって、畑の納屋も入ります?」
「勿論でございます。そういった、ホームから離れた畑や牧場、簡易拠点などに移動しやすくするための機能でございますから」
つまり、畑間の移動が今より楽になるってことだな。これはぜひホームが欲しいぜ。むしろ、この機能のために一番安いホームを購入するのは有りじゃないか? そう思ったが、アパートタイプには設置されていないそうだ。
「転送扉っておいくらですか?」
「最初の1つは5万G。2つ目以降は30万Gですね」
最初の1つはサービス価格ってことか。残りのお金全て注ぎ込めば、買えてしまう。
というか、もう日本家屋を買うつもりになってしまっているが、それでいいのか俺?
「うーん……。まあ、いいか。縁側でモンス達と涼みながら一杯なんてできたら最高だしな」
「ヤー!」
「キキュー!」
ファウとリックも賛成らしい。俺の肩の上で嬉しそうに挙手している。
「よし! 決めた!」
「では?」
「はい。日本家屋を買います。あと転送扉も」
「ありがとうございます。では、ホームの場所はどうされますか?」
「選べるんですか?」
「はい。日本家屋の場合、こちらのエリアになりまして、現在はお好きな場所をお選びいただけます」
景観を守るためなのか、日本家屋は他の家とは全く違うエリアにあるようだった。丘と森が続いているエリアだ。
「広いといえば広いけど、何百戸も日本家屋を立てることはできないですよね? こういうのって、早いもの勝ちなんですか?」
「いえ。お庭と一緒で、手狭になれば拡張されますね」
じゃあ、別に一等地とかそんな場所も存在しないか。使いやすさと、景観で選ぼう。
「うーん、じゃあ、ここでいいですか?」
「はいはい。分かりました。では、こちらに設置させていただきますね。こちらをどうぞ。ホームキーとなります」
「あ、ありがとうございます」
これで購入契約は終わりか? ステータスを確認すると、あれだけあったお金が2万Gまで減っていた。
くっ……。これで強い装備を揃えようかと思っていたのに……。まあ、それはまたお金を溜めればいいや。無人販売所とかを頑張ろう。
「それよりも、さっそくホームを――」
「では、お次はマスコットに関しての説明です」
おっと、忘れてた。




