285話 風霊門の前で
それから30分後。俺はアメリアやウルスラたちと合流するべく、まずは始まりの町の広場にやってきていた。
出迎えてくれたのはウルスラだ。アメリアは風霊門の前に並んでいるらしい。
「あ、ここです!」
「すまん。遅れたか?」
「いえ、時間ピッタリですよ。それと、こっちの2人が一緒に行くメンバーです」
「くくく……お久しぶり」
ウルスラが紹介してきた2人のうち、1人には見覚えがある。爆弾魔のリキューだった。
ウルスラたちの風結晶を使えば5人まで門をくぐることができるらしい。そこで、4人で交互に並びながら、先日から場所取りを続けていたらしい。
「元々、あと1人はリキューさんたちのご友人だったんですけど、ご家庭の事情でログインできなくなっちゃいまして」
そこで、急遽俺を誘ったらどうだろうという話になったらしかった。その友人には申し訳ないが、俺はラッキーだったってことか。
「まあ、もともとリキューさんの人見知りがあるんで、誘える人は少なかったですけどね」
「あー」
「くくく……申し訳ないわね」
そう言って軽く謝る。まあ、リキューがまともに会話できる相手が少ないっていうし、仕方ないよな。
「くくく、条件を受け入れてくれて、感謝するわ……」
「感謝感謝だね! というか、アタシもフレンド登録おねがいしていい?」
「あ、ああ」
「よろしくね。リキューの友達のクルミだよ!」
「よ、よろしく」
クルミは中々目を引く美形だった。いや、このゲームはほとんどのアバターが美形だけどね。でも、その外見は美形なだけではなく、かなり特徴的でもあった。
クルミは赤いモコモコヘアの少女だ。いや、オブラートに包んで言ったが、モコモコというか完全にアフロヘアである。赤いアフロ。ファンキー過ぎる。牛の獣人らしく、アフロの間から黒い角が見えていた。
牛でアフロ。あの元悪魔超人しか思い至らない組み合わせだ。
装備は金属製のガッチリとした鎧を着こんでいる。動きやすいように関節部分を薄くはしているものの、いわゆる西洋甲冑という奴である。頭装備だけは兜ではなくピアスなようだ。
さらに目立つことに、背中には大きな木製のハンマーを背負っていた。ハンマーの本体部分は小さめの米俵くらいあるだろう。
木製だから鉄製のハンマーよりは軽いのかもしれないが、俺よりもさらに背の低い、一四〇センチもない小柄な少女がそれを背負っている姿は異様の一言であった。ネタ的と言えるかもしれない。絶対に本人は分かっていて、狙ってやってるよな。
「よろしくねっ!」
リキューの友人とは思えない程、人懐っこい少女である。いや、むしろこのくらいじゃないとリキューの友人などやれないのかもしれない。
そんなクルミも加えた4人で、爪の樹海にある風石と呼ばれるオブジェクトに向かった。道中は楽勝だったね。クルミも相当強かったのだ。ただ、無類のリス好きであるらしく、灰色リスに攻撃できないという一幕はあったが。
リスと戦えないって、これから先ヤバいんじゃないか? しかしネズミは問題ないらしい。ネズミはネズミ、リスはリス! だそうだ。分かるような、分からんような?
それと、ウルスラがオルトにまったく触れようとしなかった。最初に数秒間、頭を撫でただけである。本人曰く、アプデに今から慣れるためだという。
「まあ、がんばってくれ」
「ええ……」
泣きそうな顔のウルスラを励ましつつ風石のある広場にたどり着くと、すでに50人以上のプレイヤーがいた。
「うーん、人が結構いるねー」
俺たちとほぼ同時に風石の前にやってきたパーティが「あー一番乗りはやっぱり無理か」と呟いているのが聞こえる。
「くくく……何か揉めてるわね?」
「言われてみれば……」
風石を囲み、10数人程のプレイヤーたちが言い争いをしている。ハラスメントブロックのおかげで揉み合いには発展していないが、その分かなり激しく言い合っているようだ。
「だからぁ、あとから来るって言ってるじゃない!」
「そもそも、それがズルいって言ってるんだ! 後からきて入るなんて、横入りじゃないか!」
「そーだそーだ!」
「でも、他の門でも、パーティから1人だけ並ぶっていうルールだったし!」
中心にいるのはアメリアだな。何が起きているのだろうか? 俺たちは言い合いを見物している野次馬さんに事情を尋ねてみた。
「一番最初にどのパーティが風霊門を開くかでもめてるみたいだぜ?」
並んでいたアメリアが、後から来たパーティに因縁を付けられているようだ。
「他の門のことなんか知るかよ!」
「そーだーそーだ!」
最初に、アメリアの後ろに並んでいた奴らが順番を譲ってほしいと提案し始めた。ゲーム内通貨やレアアイテムをちらつかせ、それでもダメだと分かるとリアルマネー、つまり現実でお金を払うと言い出したらしい。
これは明らかに規約違反になる行為だ。当然、アメリアが頷くはずもない。すると、今度は大声で脅すような事を言い始めたという。顔を覚えたからな、俺たちのクランは人数が多い。そんな台詞である。
それでもアメリアが冷めた目で見ていると、自分たち以外のプレイヤーを巻き込むために、後から来たメンバーをパーティに加えるのは横入りだ何だと騒ぎ始めたそうだ。
「うーん、どうしよう……」
「まあ、そうだな」
「ていうか白銀さん? しかもボマーさんに赤牛まで……。スゲーパーティだな……。あの恥知らず共、最悪の相手に因縁つけちまったなぁ」
情報を色々と教えてくれたプレイヤーがなにやらブツブツと言っているが、俺たちは俺たちでどうするかコソコソと相談していた。正直あれに割って入るのは面倒だが、アメリアを見捨てるわけにもいかん。
結局、俺たちはアメリアを助けることにした。
「あのー、すいませんねぇ。俺たち、彼女のパーティメンバーなんですけどねぇ」
「ああ? 呼んでねーよ!」
「いやいや、彼女に呼ばれているんで」
「おい! 横入りする気かよ!」
うーむ、心情的には横入りと言いたくなる気も分からなくもない。実際に、後からきて前に入るわけだし。ただ、パーティのシステム上、アメリアが最初に門に入るのであれば、結局俺たちが一緒だろうがなかろうが、こいつらが1番乗りをするチャンスはないんだけどな。
1番乗りを邪魔されて、やりようのない怒りや苛立ちをぶつけずにはいられないのだろう。
「だいたいなんだよその髪は!」
「え?」
「だせー! 白銀さんの真似かよ! ぎゃははは!」
「は?」
「外見だけまねたって、大発見を繰り返すトップテイマーと同じにはなれねーよ!」
なんだろう。馬鹿にされているのにちょっと嬉しい。大発見を繰り返すトップテイマー? まあ、俺をディスるためにあえて白銀さんのことを上げているんだろうが、やっぱ褒められると嬉しいのだ。
男の罵声を聞いたアメリアやウルスラ、リキューも微妙な顔をしている。何せ、本人だからね。
もしかしたら本当は良い奴かも知れん。いや、さすがにそれはないか。




