284話 アプデの影響
屋敷前から始まりの町に戻ってきた俺たちは、そのまま畑に向かった。この後は大樹の精霊様の祭壇に行くからね。サクラをパーティに加えたいのだ。
実は風霊門にはエリンギたちと一緒に行くつもりだったんだが、もう約束があるらしい。あとで他のフレンドたちに声をかけてみようと思っている。風結晶を使って俺だけが門を開けるのはもったいないからな。
あと、納屋に座敷童の絵を飾ることはできなかった。小物を置く程度はともかく、絵を壁に飾るのは簡易ホームでは許可されていないらしい。
「――?」
「おっと、悪い悪い。待たせたな」
サクラが俺のローブを引っ張っている。早く行きたいらしい。
「じゃあ、精霊様の祭壇に行くか」
「――♪」
サクラが嬉し気にうなずいた。やはり大樹の精霊様に会うのは特別なのだろうか? スキップするサクラなんて、中々のレアショットが撮れてしまった。
相変わらず橋の下にひっそりと存在する地味な扉を潜り、精霊様の祭壇に向かう。
それにしても、プレイヤーの数が増えたな。道中も数人とすれ違った。
さすがに順番待ちはしていないようだけどね。まあ、俺だってサクラが居なければ毎週来ようとはしていないだろう。
「よく参りましたね」
「ども」
「――♪」
「よく育っている様子。このままこの子が健やかに育つように、お願いします」
やっぱりイベントとかは起きない。普通に言葉を交わして、嬉しそうなサクラを精霊様が撫でるだけだ。
いや、サクラが嬉しそうだから、それで十分だが。結局、数分程サクラを可愛がった精霊様は、そのまま姿を消してしまうのだった。
「満足かサクラ?」
「――♪」
コクリと頷いてはにかむサクラ。うむ、この姿が見られただけでも来た甲斐があったというものだ。
精霊様の祭壇から地上に戻る際中、アメリアとウルスラから連絡がきた。なんとすでに1番乗りで風霊門に並んでおり、そのパーティに加わらないかという。
その代わり風結晶をという話かと思ったら、すでに結晶は確保してあるうえ、俺はタダでもいいというのだ。
「いや、それじゃあ俺が得するだけなんだけど?」
「実はお願いがあるの」
「お願い? なんだ?」
「私とアメリアたちに、畑への立ち入り許可をください!」
え? いや、フレンドなんだから俺の畑には入れるだろ? そう思ったんだが、ウルスラが説明してくれた。
次の大規模アップデートにより、フレンドでもスキンシップが大幅に制限されるようになってしまうらしい。
「あー、そういえばそんな情報があったな」
LJOのホームページには少し前からアップデートの詳細が記載されている。
俺自身は他のテイマーの従魔を可愛がることはそう多くないので、あまり気にしてはいなかった。アメリアやアシハナが悲しがるだろうなーとは思っていたけどね。
俺は軽く流し読みして、他のテイマーの従魔に長時間触れられなくなるという程度だと思っていたが、もう少し厳しい内容だったらしい。
アメリアがその内容をマシンガントークで説明してくれた。
フレンドの従魔を撫でるのにも毎回許可が必要で、畑やホームへの立ち入りも許可制。しかも長時間撫でたりもできず、過剰なスキンシップを取った場合は従魔からの好感度が下がるそうだ。他人の従魔からの好感度が下がってしまった場合、2度と触れることはできなくなるという。
それ以外にも人型従魔へのスキンシップに制限が付いたりと、色々な改変があるらしい。これは、一部のテイマーが異性型モンスターへの過剰なスキンシップを行なっているという通報が元になっているそうだ。
お、俺のことじゃないよね? って思っていたら、どうももっと酷い奴らがいるらしい。
「オイレンとかね」
「あー」
納得してしまった。最近のオイレンは、ウンディーネテイマーって呼ばれているそうだ。それだけでも奴のパーティ構成がよく分かってしまうよね。
でも、ちょっとかわいそうな気もする。ノームばかりテイムしているアメリアたちは別に変態扱いされないのに、オイレンはハーレム野郎扱いだもんな。
同僚が女性社員にロリコン扱いされて落ち込んでいたのを思い出した。30過ぎのおっさんが女子高生を好きって言うとロリコン扱いなのに、20代後半OLがかわいい男子高生を好きでもショタコンとは言われないらしい。ショタコンはもっと年下が守備範囲ということだった。
最近じゃ対義語扱いなんだし~とかは言わないよ? 女性を敵に回したら身の破滅だからな。俺には飲み屋で愚痴を聞いてやるくらいしかできないのだ。オイレンのことも今度慰めてやろう。
「なんか面倒そうだな……」
うちの子たちを撫でたいというフレンドたちに、いちいち許可を出すとか、面倒くさいんだけど。
ただ、それを解消するのが事前許可的なシステムだ。撫でる程度の軽度の接触を事前に許可しておくというシステムらしい。
「今までみたいに抱きつくとかは難しいけど、普通に撫でたり、畑でモンスちゃん達を見て愛でることはできるはずなんです!」
「ふーん。でも、報酬代わりがそんなものでいいのか?」
今、彼女たちは風霊門の順番待ちで1番前にいるという。となると、彼女たちのパーティに入れてもらえば、俺も風霊門を最初に開くことができると言うことだ。
多分、称号がもらえると思う。全部の精霊門開放を一番最初にした的なやつだ。しかも風結晶のお金はいらないとなると、俺が有利過ぎじゃないか?
「いえいえ、そんなことないですよ!」
「そうか?」
「見守り隊のルールで、白銀さんの手を煩わせすぎちゃいけないって決まったし……」
「うん? 何か言ったか?」
見守りたい? 何のことだ?
「いえいえ、何でもないです。それで、どうでしょうか?」
「いや、俺としてはありがたいけど……。本当にいいのか?」
「はい! ぜひ!」
まあ、それでいいなら俺としてもかまわない。ここはぜひお願いしておこう。




