276話 コガッパ
《東西南北の地下エリアを全て攻略したプレイヤーが現れました。最初に4エリアを攻略したプレイヤーに、称号『マスコットの支援者』が授与されます》
《転移陣による転移可能場所が増えました》
東の地下ダンジョンのボスを倒してコガッパの下へと向かっていると、ワールドアナウンスが聞こえてきた。
どうやら全ての地下ダンジョンを攻略したプレイヤーが現れたらしい。
「うーん、誰かに先を越されたか~」
俺も、もう少し早く来てれば、一番乗りだったかもしれないんだが。
「残念だったな~」
「ム~」
「まあ、仕方ない」
かなり残念ではあるが、こればかりは早い者勝ちだしね。そう思っていたら、一緒にいたエリンギやブランシュたちから悲鳴が上がった。
「さ、先を越された!」
「し、白銀さん! すいません!」
「俺たちガもっと急いでいれバ!」
土下座しそうな勢いで謝ってくる。どういうことだ? 首を傾げていたら、自分たちが攻略をもっと急いでいれば、俺が一番になれたかもしれないと言って頭を下げていた。
いやいや、俺一人だったらもっと時間がかかってた訳だし、どうせ1番乗りは無理だったって! そんな謝られても困る!
その後も恐縮している皆をなんとか宥めて、俺たちは先に進んだ。それに色々と調べてみたら、先を越されたのは俺のせいっぽかった。
実はアリッサさんから俺にコールがあったのだ。称号を獲得したのが俺かと確認したかったらしい。
その時に話を聞いたんだが、昨日の内に売った南のダンジョンの攻略情報がすでに結構売れており、早耳猫の掲示板に情報を公開済みであるそうだ。そのせいでモフフの好物の情報も多少は広まっているという。
そして、第10エリアでは★8の果実が入手できる可能性があるそうだ。南のダンジョンの情報を得た攻略組の誰かがモフフの好物を入手して、一番乗りを果たしたらしい。
つまり、俺とアメリアが考え無しに情報を売らなければ、先を越されることもなかったかもしれないのだ。いやー、あの時は攻略できたことでテンションが上がりまくってたからねー。ノリノリで情報を売りにいってしまった。
「それに、増えた転移先って言うのも気になるし、早くこのダンジョンを攻略しちゃおう」
「そうですね……」
「そうそう。ほら、いこう。うちの子たちもそう言ってるぞ?」
「ヒムー!」
「ヤー!」
「キキュ!」
「モグモ!」
「クックマ!」
うちの子たちが一斉に手を挙げる。よしよし、皆の顔に笑顔がもどってきた。やはり落ち込んだ時は可愛いモンスに癒されるに限るよね!
多少のすったもんだはあったものの、ようやく俺たちは最後の間へとやってきた。 そして、地面に倒れ伏すコガッパを発見する。
「あれか」
「情報の通りですね」
グギュルル~。
「早く助けてやろう」
「お願いします」
「それにしても青いヌイグルミにしか見えないな」
色は全体的にペンキをぶちまけたように真っ青。全体のフォルムは――埴輪っぽい? 頭部と体が一体化した、凹凸のない円柱状の胴体。そこに、それこそヌイグルミっぽく見える、指の無い細く丸みを帯びた手足と思われる物体が付いている。
肌の質感は柔らかそうだ。布にも見える質感をしている。あと、真っ青と言ったが、頭の天辺と顔の中央は黄色かった。頭頂部にはヒマワリの花をデフォルメしたような皿をくっつけ、口と思われる部分は鳥の嘴風である。目は小さくも円らだった。黒いビー玉っぽい感じだ。
カッパなのだろうが、大分可愛いな。
「カパパ~……」
グギュルルル~!
「はいはい。ちょっと待てって」
「カパ」
「ほい、キュウリだぞ」
「カパパパ!」
「うお!」
あぶな! いまキュウリを離していなかったら腕ごと食われていたのではなかろうか?
「カ~パ~」
コガッパは美味しそうにキュウリを食べている。だが、不思議な食べ方だな。嘴とか動いていないのに、口に咥えたキュウリが少しずつ飲み込まれて行く。
何だろう。電動鉛筆削りに鉛筆をずっと入れ続ける無駄遊びを思い出した。
「カッパパ~」
キュウリを食べて満足したのだろう。コガッパがお腹をポンポンと叩いて満足げな表情をしている。
「カパ」
「くれるのか?」
「カパー」
コガッパが俺に差し出したのは黒い鉄の塊だった。五百円玉より少し大きいくらいのサイズである。
「潰れたベーゴマか」
やはり懐かしのレトロオモチャシリーズであった。オバケに貰ったひび割れたビー玉。テフテフがくれた破れたメンコ。モフフの欠けたおはじきに、今回の潰れたベーゴマ。
使い道が分からないのも同じだ。
消えるコガッパを見送りつつベーゴマを眺めていたら、アナウンスが聞こえてきた。
『東西南北の地下エリアを全て攻略しました。ユートさんに『破けたお手玉』が授与されます』
「また謎アイテム?」
よく分からない報酬だな。しかもお手玉をゲットしたのは俺だけであったらしい。4ヶ所を攻略できたのが俺だけだったからだろうな。
アナウンスのことをエリンギたちに説明する。
「面白そうですね。でも使い方は分からないのですか?」
「うーん。それが分からないんだよな。まあ、とりあえず広場の転移陣に行ってみないか? それで何か分かるかもしれないし」
「そうですね」
「勿論行きますよ!」
「おウ!」
アイテムを使ってダンジョンを脱出すると、広場に急ぐ。
「うわー、人が……」
「ムー」
ワールドアナウンスがあってから、少し時間が経っているからだろう。多くのプレイヤーが広場に集まっていた。しかし、転移陣は広場にいれば使用可能だ。
俺たちは広場の隅でウィンドウを確認してみることにした。
「えーっと……なんだこれ? 朽ちた遠野の屋敷?」
 




