275話 運営雑談
「いやー、参った参った」
「どうしたんですか主任?」
「緊急アプデが続くせいで全然家に帰れてないだろう? 家内に今日も帰れないって電話したら、ブチギレられた……」
「あー」
「まさか自分の妻から「仕事と私達どっちが大事なの?」っていうセリフを聞くことになるとは思わなかったぜ」
「だってこないだの結婚記念日もドタキャンだったでしょう? そりゃあ、奥さんもキレますよ」
「じゃあ、帰っていいのかよ? 帰れるもんなら帰るぞ?」
「ダメです。主任に帰られたらアプデが絶対に間に合いません。社に大損害を与えてノウノウと給料を受け取り続ける面の皮の厚さがあるなら止めはしませんが。ああ、ちなみにその場合、全部の責任は主任に押し付けますからね?」
「……あーあ、楽しいゲームを作っているはずの俺たちがどうしてブラック勤務しなけりゃいかんのだ?」
「楽しすぎて人気が出ているからでしょう」
「はぁー。自分の作ったゲームが面白すぎてツライ」
「はいはい。良かったですね。ああ、それとこれ。例のプレイヤーの定期報告です」
「お? 最初からそれを出せよ。さてさて、今日はどんな斜め上のプレイをしてるかなー?」
「楽しそうですね」
「そりゃあ、こいつのプレイデータを見ながら晩酌するのが、ここ数日の一番の楽しみだからな!」
「運営室でお酒飲まないでください」
「家に帰れないんだから、ここで飲むしかないだろうが! 一時間に一回は緊急事態とかで呼び出されるしよぉ」
「せめて仮眠室に行ってくださいよ」
「あそこはもうプログラマーどもの墓場と化してる」
「ああ、なるほど」
「奴らを起こしたら可哀想だろ?」
「というか、ここでプログラマーたちの安眠を妨害して作業効率が落ちたら、ゲームの運営に差しさわりがあります」
「だろ? だからここで飲むしかないんだよ」
「まあ、いいですけど」
「ほほう。これはまた色々と面白いな」
「また1人だけアイテムをゲットしましたね」
「すでに驚かない俺がいる訳だが」
「私もです。そのプレイヤーだったらそれくらいは当たり前な気がしてしまいますね」
「そもそも最初からおかしかったからな。1番驚いたのは水臨樹の樹精だが。結構条件が厳しかったよな?」
「はい。普通の樹精とは少々違いますからね」
「確か祭壇や精霊系のイベントで入手できる水臨大樹の実を株分したうえで、一定期間内に特定の大きさまで育てると低確率で樹精が出現する、だったか?」
「さらに職業がテイマーかサモナーであることが条件になっていますね」
「こんな序盤で入手できるモンスターじゃないだろ」
「はい。確率的には非常に低いかと。少なくとも、彼以外には不可能でしょう」
「そして今度は妖怪の開放に、ダンジョンの攻略だ」
「どうしてこう上手くいくんですかね?」
「か~、やっぱこいつは面白いな! ビールが進むぜ」
「……イカをあぶらないでください! 匂いが部屋に染みつくでしょう!」
「じゃあこっちにしとくか」
「魚介類はやめてくれと言ってるんです」
「へいへい。お、こいつ、ついに食器作りまで始めたか!」
「サラマンダーのユニーク個体を手に入れていますからね。本来は出現率が凄まじく低いんですがね」
「まあ、称号やら何やら、色々もっているからな~。しかし、見事にモンスターが特殊な奴ばかりだな」
「ユニークの精霊と灰色リス、水臨樹の樹精に、妖精とドリモール。ハニーベアも初期に手に入れていましたしね。狙って変なのを集めているわけでも無さそうなんですけどね」
「変なプレイをしている奴の下には、変なモンスが集まるんじゃね? いや、運営的にはむしろ推奨したいんだがな」
「それに本人は変だと思っていないと思いますけど」
「それこそ真の変人の条件じゃないか!」
「そうかもしれません。主任も自分を変だと思っていないでしょう?」
「おう! え? それってどういう――」
「まあ、主任が変態かどうかは置いておいて」
「変態? 変人通り越して変態?」
「最近はこのプレイヤーのことを真似して、戦闘以外に力を入れるプレイヤーがぼちぼち出て来たようですよ? もっともっと、ゲームに良い影響を与えてくれるといいですね」
「誤魔化そうとしてもだめだかんな? 俺の事をどう思ってるか、じっくりお話しするからな?」
「べつにじっくり話さなくったって答えますよ」
「じゃあ、俺のイメージを一〇個あげてみろ!」
「多いですね。ゲーム馬鹿で我儘で精神年齢低い? あと私服のセンスがダサい。眼鏡もダサい。最近太った。デスクの上が汚い、加齢臭がキツイ、あと近頃は生え際が――」
「もういい! それ以上は言うな!」
「自分が言えって言ったんじゃないですか。それで勝手に凹まないでください」
「だって、お前が酷いこと言うんだもん」
「いい年した大人がもんとか言わないでくださいよ。気持ち悪い。そんなことよりも、これを」
「きも……! ま、まあいい。というか、これ以上はもういい」
「最後にとっておきの一言が残っていたんですがね」
「ぐ……そ、それで? なんだよこれ」
「第二陣が入ってくる前に行う大規模アプデの詳細です」
「ふむふむ……。あー、これも今回入れるか」
「はい。不殺の取得条件の変更とその告知は絶対に必要でしょう。下手したら第二陣のほとんどのプレイヤーが最初の4日間引きこもるという現象が起きかねないので」
「あれもなー。発見されるのが早過ぎたよな。第二陣や三陣の変わり者が発見するかもしれんとは思っていたんだが……」
「仕方ありませんよ。彼ですから。あとはフレンド登録者からの接触行為に関する制限の変更ですね」
「これもこいつのデータを基にしてたよな?」
「はい。運営の中にも、フレンドだからといって過剰なスキンシップが許されるのかという疑問を口にする人間がいますから」
「あれは単に、可愛いモンスターと触れ合っている奴らに嫉妬してるだけじゃね?」
「とはいえ、その疑問は当然でしょう。彼は大らかなので気にしていないようでしたが、自分のモンスターに過度な愛情を抱くタイプのプレイヤーだったら通報される可能性もあります」
「まあな。で、今回はプレイヤーと、その従魔に触れる際はフレンドでも許可が必要。畑やホームへの立ち入り制限。あとは長時間のスキンシップが確認された場合の自動警告ね」
「はい。しかし、今回のアップデートの目玉二つにどちらも彼が関わっていますね」
「さすが俺が目を付けたプレイヤーってことだな」
「目を付けているのは主任だけではないようです。このプレイヤーは掲示板などで白銀さんと呼ばれているそうですよ」
「なんでさん付けなんだ?」
「一応、敬称ってことなんじゃないですかね?」
「はははは! 不名誉称号で呼ばれてるのに敬称か! このプレイヤーっぽいな!」
「かなりの数のプレイヤーに白銀さんと言えば通じるそうです」
「こんだけ派手にやらかしてりゃ目立つしな」
「ですが、プレイヤー情報保護の観点から言うとかなりギリギリかと。実際、彼に対する誹謗中傷案件で、GM係が動いたこともあるようですし。今でも掲示板で相当数名前が挙がっています」
「だが、名指しで情報を暴露してるわけじゃないし、現在進行形でその白銀さんから運営に対して何か訴えがあるわけじゃないんだろ?」
「はい」
「うーむ。だったらもう少し静観だな。ただ、中傷するような掲示板には目を光らせておけ。まあ、GMの奴らも分かってるだろうがな」
「了解しました」
「いやー、次はどんなことしてくれんのかね。楽しみだわ~」
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