273話 ハイウッド
品評会終了後。
全てが終わったかと思ったら、全然終わっていなかった。
会議場の外に凄い数の人が集まっていたのだ。どうやら生配信を見て、集まってきたらしい。100人近くいるだろう。
「え? メッチャ見られてる」
「ムム?」
俺が会議場から出た瞬間、全員の視線がこちらを向いてちょっと怖かった。
「おおー、生白銀さんだ~」
「俺初めて見た」
「モンス可愛い」
好奇の視線と言えばいいのかな? モンスター達が見られているっぽい。まあ、うちの子たちが注目されるのは今に始まったことじゃないし、仕方ないか。
そんなことを思っていたら、人混みの中からこちらに向かって歩いてくるプレイヤーがいた。
「ユート君!」
「あれ? アリッサさんじゃないですか? どうしたんですか?」
「どうしたって、私たちがこんなイベントを見過ごせるわけないでしょ。配信は見たけど、本人たちから情報を集めようと思ってね」
「なるほど」
「あとは、こいつを紹介しておこうと思って」
「どもども」
「あ、どーも」
アリッサさんの隣にいた男性が、軽いノリで頭を下げてくる。
「あっはっは。僕、ハイウッドといいます」
やはり軽いな。あと絶対に本名が高木だろ。まあ、優太でユートの俺が言えたことじゃないけど。
金髪高身長のイケメンエルフだ。エルフは身長補正がなかったはずなので、リアルでも180を越えているということだろう。うらやましい。10センチ分けてくれ!
ただ、軽薄な口調と緩んだ表情のせいか、あまりイケメン度は高くないな。どちらかというと残念な感じだった。エロ鍛冶師のスケガワに近しいものを感じるかもしれん。残念イケメン属性だ。
「これでも一応、早耳猫でクランマスターやってるんで、よろしくおねがいします」
「え? 早耳猫のクラマス?」
「はい。でも、僕は前線でダンジョン攻略してることがほとんどなので、クランを仕切ってるのは実質アリッサくんなんですけどね~」
アリッサさんを見ると本当だという感じで頷いた。まさか、大手クランのマスターとお知り合いになってしまうとは。
「情報は買うだけじゃなくて、自分たちでも集めてるし、検証したりする人員も必要だから。クラマスはそっちの担当なのよ」
「面倒な情報の売買は人に任せて、自分は好き勝手やってるだけですけどねー」
「ま、こんなんでもそこそこ有名な人だから。武闘大会だと上位入賞したし」
なんと、軽薄な感じとは裏腹にメチャクチャ武闘派のトッププレイヤーであるらしい。残念イケメンとか思ってごめん。俺の見る目がないだけでした。
「お得意様にはぜひ挨拶をしておこうと思ってさー」
「お得意様って、俺?」
「当然。白銀さんには色々と情報を売ってもらってますからー」
それでわざわざ挨拶しに来てくれたらしい。律儀だな。いや、多分だけど、こいつもリアルだと社会人ではなかろうか? 営業職の匂いがする。まあ、あえて聞いたりはしないけど。
「これからもよろしくお願いします」
「あ、ああ。こちらこそ、よろしく」
あぶないあぶない。つい敬語が出そうになった。コクテンといい、ハイウッドといい、リアル社会人の雰囲気が出ている相手だと、こっちもつい引きずられそうになるな。
ロールプレイをしているわけじゃないけど、できるだけゲームの中では敬語を使わないという下らない決意をしたからには、できるだけ守らねば。
まあ、アリッサさんとかには普通に敬語使っちゃうんだが。何故だろう。会社の先輩に雰囲気が似ているからだろうか?
「そうだ、ちょっと耳寄りな情報があるんだけど」
「なんです?」
「ちょっとお耳を拝借」
そういってアリッサさんが俺の耳に口を寄せた。やばい、メッチャドキドキする。体調異変判定で強制ログアウトにならんよな?
それにしても、アリッサさんが耳寄りというレベルの情報だろ? いったいどんな内容なんだ?
「ユート君からいくつか譲ってもらった霊桜の花弁で、霊桜の塩漬けが作れたわよ?」
「え? まじっすか?」
「ええ。ユート君、ちょっと前に普通の桜で失敗してたでしょ? だから一応教えておこうと思って」
「ありがとうございます。それは本当に有益ですよ? お代はいくらですか?」
「うふふ。お代はいらないわ。ユート君から譲ってもらわなければ検証もできなかったわけだし」
「え? でも……」
「いいからいいから」
じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな? それにしても、桜の塩漬けは霊桜の花弁を使わなきゃいけなかったか。さすがにもったいなくて実験してなかった。戻ったら早速ルフレに頼まねば。これでハーブティーにさらなるアレンジが出来そうだぞ。
そんな話をしていると、凄い勢いでこちらに走ってくるプレイヤーがいた。
「クママちゃーん!」
「マルカか?」
それはイベントで知り合った女魔術師マルカだった。アシハナとはクママを巡る永遠のライバルである。花見の時もクママを取り合っていた。
「クママちゃん、こんにちはー」
「クマー」
「白銀さんも」
「あー、はいはい」
マルカはクママとお辞儀をしあうと、俺には適当に挨拶をしてくる。いつも通りの光景だな。
「ね! ね! 私もクママちゃんとお茶会したい!」
言うと思った。だが、それは無理である。
「すまんな。実はこのあと、他のプレイヤーたちと東の地下通路に挑むことになっててさ」
お茶会で知り合ったエリンギ、ブランシュ、冬将軍と一緒に、コガッパのところに向かう予定になっていた。
「そ、そんなー」
「そのうち畑に遊びに来てくれよ。な? ほらクママもそう言ってるぞ?」
「クマー」
「うう。クママちゅあーん!」
前話でギルマスの表記をクラマスに変更しました。




