271話 ティーカップの行方
その後も品評会は順調に続いていった。
うちの子たちも俺の周りに戻ってきて、俺と一緒にティータイムだ。
「ほれ、ハチミツ団子だぞー」
「ムム!」
「クックマ!」
「わかってるわかってる。ほれ、クママにも」
「ヒムー!」
「フムー!」
「ははは。左右からゆするなー」
「ラランララ~♪」
「――♪」
サクラの肩の上でファウが軽快な音楽を奏でている。最初はゆったりとした曲だったんだけど、だんだんとテンポアップしてきたな。まあ、他のプレイヤーさんから文句もないみたいだし、ファウの好きに演奏してもらおう。
大きな問題も起きず、無事終わりそうだな。1つだけ問題と言うか、気になったのは、ワインジャムの味についてだ。未成年がアルコールを飲むとジュースの味になるうえ、酩酊にもならないという話は聞いたことがあったが、ワインジャムでも同じだったらしい。
俺たちが口に含むと、軽いアルコールの香りがする甘さ控えめのジャムなのに、未成年にはフルーティーな甘みの強いジャムに感じるそうだ。
酒が飲めない訳じゃないけどそこまで好きでもない俺にとっては、むしろそっちの味の方が興味があるんだよね。どうもウサミが作ってきた葡萄ジャムに似ているらしいので、後でレシピを再現してみるつもりだ。
そのまま品評会が終わりに差し掛かる頃だった。俺はアスカたちにヒムカ作のティーカップの使い心地を尋ねていた。
「飲みやすいとか飲みにくいとか。別に何もなしでもいいんだけど」
その場合は、少なくとも目立つ欠陥はなかったってことだからな。
すると、皆が口々に感想を述べる。半分は悪くなかったという感想だ。良くも悪くも普通だったのだろう。
残り半分は、ちょっと使いづらいという感想である。こちらから聞いているんだし、そんな申し訳なさそうな顔をしなくてもいいのに。そもそも初めて作ったんだから、多少の失敗はあるだろう。
一番多いのが厚みに少し違いがあり、口を付ける場所によってはちょっと飲み難いというものだ。次に、やはり黒いカップはちょっと……という意見が多かった。
まあ、色に関しては個人の趣味だし、今後は塗料を変えれば解決するだろう。
「厚みに関してはヒムカ次第だけど……」
「ヒムム!」
腕まくりポーズでやる気満々だな。どうやら任せろと言っているらしい。
「よし、次はもっと薄くて完璧なカップを作ろうな!」
「ヒム!」
「塗料は俺も色々探すからさ」
「ヒム」
それにしても、このティーカップはどうしようかな? ヒムカの初作品だし、普段使いにしようかとも思っていたんだが……。
「ヒムー」
ヒムカがティーカップを不満げに睨んでいる。改めて欠点を指摘され、出来に不満が出たって事なのだろうか? カップを軽く指ではじいたりしながら、色々な方向から見ていた。そして、腕を組んで唸る。
「ヒム~」
これを普段使いにするのはやめた方が良さそうだ。カップを見る度にヒムカが嫌な気持ちになるかもしれん。
カップ作製の時から感じていたが、ヒムカは意外と職人気質であるようだ。そのうち気に入らない作品を割り始めたりして。
「……ヒムカ。気に入らなくても、割ったりしないでな?」
「……ヒム」
明らかに不承不承な感じだ。やはり割りたいのか?
「……割るか?」
「ヒム?」
ヒムカにカップを見せながら問いかけると、ヒムカが「いいの?」という感じで首を傾げる。まあ、ヒムカ自身がいらないというのであれば、別に割っちゃってもいいかな? 代わりにもっと出来がいい奴をヒムカが作ってくれるだろうし。
売ろうにも無人販売所では売れないし、素材が安いからショップに売りに行っても高くは売れない。これでヒムカのストレス解消になるなら、安いものだ。
「畑に戻ってからだけど」
ここで割り始めたら大惨事だからな。
「ヒム」
やっぱり割りたかったらしい。コクリと頷く。だが、その瞬間に周囲のプレイヤーたちの絶叫が響き渡った。
「ちょっとまったー!」
「わ、割るぅ?」
「もったいない!」
「割るなんてとんでもない!」
「だったら私にちょうだい!」
「いやいや、俺が買うぞ!」
おおう。なんか凄い勢いで詰め寄られた。
「え? いや、欲しいって……。このカップ、そんないい物じゃないよ?」
NPCショップに行けば、もっと綺麗で使いやすいティーセットが安く手に入るはずだ。ヒムカの初作品だし、せっかく作ったから使ってもらおうと思って持ってはきたけど、試作品も試作品である。
だが、皆の熱視線は変わらない。本当に欲しいらしい。
「えっと、欲しい人ー?」
「「「はい!」」」
全員でした。どうしよう。
「な、なんで?」
「だって火霊くんの手作りよ?」
「レアアイテムだもん!」
「それに、この品評会に参加したっていう記念になるし」
「正直に、他の奴らに自慢したいって言えよ」
「それだけじゃないもんね!」
やばい、皆が一斉に話し出して、全然何言ってるか分からん。それでも何とか聞き取った言葉から推測するに、ヒムカのファンと、記念に欲しいという人がいるっぽかった。
「ヒムカ、どうする?」
「ヒム? ヒムヒム」
俺が問いかけると、ヒムカはどーぞどーぞと言う感じでカップを差し出す。あれ? 割りたいんじゃないの? そう思ったが、欲しい人がいるなら別にいいよっていうスタンスであるらしい。
「うーん……。じゃあ、全員に1つずつでいいか?」
材料費だけでいいって言ったんだけど、押し問答の末に1人3000Gずつということになってしまった。もらわなきゃ終わらない感じだったのだ。
「3000Gもあれば、もっとちゃんとしたティーカップが1セット買えると思うけどな……?」
「ヒムー」




