27話 大樹の精霊
ご指摘を頂きましたので、光源に関して少し文章を変更しました。
孵卵器を納屋に設置し、これでやらなきゃいけないことは全部やったかな。
さて、ようやく謎の解明に移れそうだ。ゴミ拾いで手に入れた謎の鍵を手に取って眺めてみる。
「鍵って言われてもな。どこのか分からないと、使いようもないぞ」
いや、1ヶ所あったな。橋の下にあった施錠された鉄扉。もしかして、あそこの鍵だったりして。両方とも労働クエストで発見したっていう共通点はあるし、全く可能性がないわけでもないかな?
「そう都合よくはないだろうけど、試すだけ試してみよう」
試すのはタダだしね。
そうと決まれば早速行ってみよう。時刻は夜だけど、むしろ目立たなくてちょうどいい。街中だから街灯もあるし、地図があれば扉の前までは問題なく行けるだろう。一応人目を気にしつつ、コソコソと水路に降りる。そして、できるだけ音をたてないように、橋の下に入り込んだ。
「夜だと全然見えないな。えーと、確かこの辺のはずだよな」
ただ、鍵穴は全然見えないな。手探りで鍵穴を探して、鍵を突っ込んでみる。
ガチャカチャ。
「やっぱりダメか?」
カチャ――ガチャン。
「嘘、だろ。開いちまったよ」
呆気にとられる俺の前で、扉がギィーッという音とともに、ゆっくりと開いた。
「入って良いのか?」
夜に来たことを心の底から後悔した。超絶不気味だったのだ。幽霊でもでそうな雰囲気である。
「うー、行ってみるか」
一応、ショートカットに傷薬を指定しておく。モンスターが出たら即行逃げ戻ろう。一撃で死ぬくらい強い奴がいたら諦めるしかないな。
「失礼しまーす」
扉の向こうは下りの階段になっていた。俺はゆっくりと足を踏み入れる。壁には等間隔でランプのようなものが壁に備え付けられており、何とか見渡すことができる。
30段ほど下っただろうか。その先は小部屋になっていた。
「まだ先があるか」
先に進んでみると、通路が二股に分かれていた。どっちに行くか。
とりあえず左に進んでみた。すると、途中から下り階段になっている。先が見えず、めちゃ怖い。うーん、引き返すか。
今度は右に行ってみる。暫く続く長い通路を進むと、先にはまた扉があった。とりあえず開けてみると、ほとんど抵抗もなくスッと開いてしまった。
「まじでボス部屋とかじゃないよな?」
入る前にそっと覗いて中をチェックする。そこは妙な部屋だった。まず目に入るのは、巨大な根っこだ。1本1本がドラム缶くらいの太さがある木の根が絡み合い、部屋の半分ほどを覆っている。そして、その根に囲まれるようにして、祭壇のようなものが鎮座していた。
「ボスはいないみたいだな」
恐る恐る、足を踏み入れる。入ってみると分かるが、そこは清々しい空気が満ちていて、とてもモンスターが出てくるような雰囲気ではなかった。
「この祭壇は何だろうな?」
イベント臭がプンプンだ。
「このデカイ根は、上の水臨大樹の根だと思うんだよな」
「その通りです」
「うわ! だ、誰ですか?」
「ここです、冒険者よ」
俺の呼びかけに応えたのは、祭壇からフワッと浮かび上がった、光に包まれた美女だった。エメラルドグリーンの髪が神秘的だ。
「えーと、どなた?」
「わたしは大樹の精霊です」
そういえば、ゲームの設定の中に、水臨大樹は精霊が宿る聖なる木であるとかあったな。じゃあ、この人?が水臨大樹の精霊なのか。
俺は軽い興奮を覚え、思わずスクショを撮った。そうだ、動画も撮っておこう。精霊様を前に俗なことだが、アリッサさんに買ってもらえるかもしれん。
こっちが動画を撮っていることはNPCには伝わらないっていう話だったが、本当らしい。精霊様には特に変化はなかった。
「あの、勝手に入り込んでしまってすいません」
「良いのです。昔は、誰でもこの祭壇にやってきて、供え物を置いていったものです」
「へえ、そうなんですか」
「その代わりに私は祝福を与え、互いに必要としあう良い関係が続いていました」
懐かしそうに語る精霊。しかし、直ぐに悲しげな顔になってしまった。
「しかし、私を害そうとした愚か者がいたため、私は冒険者ギルドの上層部に頼み、扉を付けてもらったのです。入る者を制限するために」
「え、じゃあ、俺が入ったのはまずいんじゃ?」
「自らの力で鍵を手に入れ、辿り着いた者であれば問題ありません。鍵は邪悪な者には触れることもできないようになっていますから」
「え、これってそんな凄い鍵だったんだ」
「魔導の力によって生み出された物だそうです。あの扉も、同様に魔法の力が込められています」
そういう設定か。
「御供え物をしたら、祝福を授けてもらえるんですか?」
「はい、供え物によって、与える祝福は違いますが」
どうしよう、精霊の祝福欲しいぞ。ただ、ろくなものを持ってないんだよな。
「あ、そうだ御供え物って、毎日できるんですかね?」
「私は毎週『木の日』にだけ、降臨することができます」
なるほど、木の精霊だけに、木の日にだけ現れるのか。因みに、この世界の曜日はリアルと同じで日月火水木金土の7つとなっている。1/1は日の日だったので、今日1/5は木曜日。つまり木の日となっている。いや、俺ってばラッキーだったな。しかも、かなりギリギリだった。あと1時間くらいで、曜日が変わるし。
「そして、一度祝福を与えられたら、8週後までは祝福を得ることはできません」
「そうですか」
それじゃあ、実験で変な物を供えてみるとかも無理じゃないか。でも、次に精霊様が降臨するのは1週間後だ。一度戻って、何か御供え物になりそうなものを手に入れてくる時間はない。
「何かなかったか?」
何をもって良い供え物とするのか。価格か、レア度か、ランクか。そもそも木の精霊が貰って喜ぶものって何だろう。
しばらく考えて、思い出した。そうだ、さっき買った高級肥料があるじゃないか。これなら、木の精霊も満足してくれるんじゃないだろうか?
「これとか、お供えできますかね?」
「これは良い物です。あなたのお心遣いに感謝を。代わりに、祝福を授けましょう。これをお持ちなさい」
俺の思っていた祝福と違った。スキルとか、ステータスアップとか、あわよくば称号とか期待してたのに。アイテムでしたよ。桜色の果実だ。
名称:水臨樹の果実
レア度:3 品質:★3
効果:使用者の空腹を15%回復させる。使用者の状態異常耐性を1時間上昇させる。クーリングタイム5分。
いや、訂正します。レア度3? 序盤にしてはすげー良い物もらいました。高級肥料のレア度が2だったことを考えると、1ランクアップしたことになる。
「ありがとうございます」
「あなたに幸運がありますように」
精霊様は満足そうな顔で、姿を消したのだった。
《水臨大樹の精霊の祭壇が特殊解放されました。最初に到達したプレイヤーに、称号『大樹の精霊の加護』が授与されます》
『またユートさんにはボーナスとして、火結晶、水結晶、土結晶、風結晶を贈呈します』
いや、称号も貰えたわ。しかもユニーク称号。さらにレアっぽいアイテムも! ありがとうございます精霊様!
称号:大樹の精霊の加護
効果:賞金5000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。樹木系、精霊系モンスターとの戦闘の際に与ダメージ上昇、被ダメージ減少
これ強くない? これがあれば貧弱な俺でも戦えるかもしれん。相手は限定されるが。
「これは、オルトに渡してみようかな」
水臨樹の果実。もし畑で栽培できたら……ヤバいんじゃね? 大金持ちになれるかも。オルトに持ち込む前に、アリッサさんに詳しいことを聞いてみるか。
「どれくらいの価値かね。レア度3だし、高級肥料の2000G以下ってことはないよな」
まだ店が開いてると良いんだが。時間も時間だし、急ごう。
運営からのアナウンスに付いて、表記の変更を行いました。
『』でくくられている物はユートに届いた個人向けのアナウンス。
《》でくくられた物は全プレイヤーに届くワールドアナウンスとさせていただきます。
これまでは分かりにくかったようで、申し訳ございませんでした。
ここまでのストーリー上では、白銀の先駆者を獲得した際のアナウンスがワールドアナウンスに変更されております。また、今話の祭壇解放アナウンスもワールドアナウンスとなっています。




