268話 お茶を配る
「えーっと、それでお茶菓子はどうする?」
「一応、お茶菓子とかは自分のハーブティーと一緒に出す感じなんで、その時にでも」
なんて話をしていたら、周りのプレイヤーが声を上げ始めた。
「ちょっと待った! 白銀さんのお茶菓子と聞いては我慢なんかできない!」
「そうだそうだ! 絶対に美味しいに決まってる!」
「俺も食べたいゾ!」
おお、嬉しいことを言ってくれますな。でも、ウサミのデザートピザを食べた後に出しづらいんだけど……。いや、あっちはスコーンとピザ、俺のはクッキー。誤魔化せるはずだ。
「じゃあ、順番変えて、次白銀さんの番にしちゃおうか」
「そうね。みんな我慢できないようだし」
ウサミとアスカが相談して、次が俺の番になったようだ。すると、ファウが待ってましたとばかりにリュートを演奏し始めた。一応場所を選んでいるのか、ゆったりとした上品な曲だ。だが、うるさいって言われないか? 俺はファウの演奏が大好きだけど、皆がそうとは限らないだろうし――。
「はぁ~。妖精ちゃんの生演奏……」
「素敵~」
「いいな~。私も欲しい」
大丈夫そうだった。ならいいか。ハーブティーの制作者が注ぐルールみたいなので、俺が準備をした。ティーカップも12個あるので、参加者分ピッタリである。
因みに、ティーカップの出来はまあまあだった。品質は★3と高い物ではなかったが、色合いは悪くない。
1つが鉄鉱石を使った黒い塗料だったんだが、狙い通り黒くツヤのあるティーカップが出来た。問題は内側まで全部塗ってしまったため、内部もソーサーも全部が黒いことだろう。
俺は嫌いじゃないんだが、お茶を飲むときにはあまり向いていないかもしれないな。ミルクやコーヒーならおいしそうに見えるか? でも、茶色いハーブティーだと少し微妙だ。
レンタル生産場に備え付けられていた釉薬のみを使ったカップは、黄色の強いベージュ色だった。こちらも悪くはないが、すごい綺麗と言う感じでもないな。色にむらもあるし。
ただ、普段使いとしては十分だろう。
今後は色々な色を付けたり、絵を描くことを目指したいね。
俺がティーポットからカップに注いだお茶を、うちの子たちが運ぼうとする。俺がやるよりも、可愛いモンスに渡された方が皆喜ぶだろうと思ったんだが……。
「オルトちゃん! こっちきて!」
「水精たん! ぜひ俺にお茶を!」
「クママきゅぅぅぅん!」
「ヒムカ君ヒムカ君ヒムカ君!」
「サクラちゃん、ぺろぺろ~!」
やばい、すごい騒ぎになった。どうも、自分の好みのモンスにお茶を渡してもらいたいらしい。ウサミやブランシュもお気に入りのモンスを呼んでいた。可愛いは国境を越えるんだな。騒いでいないのは冬将軍くらいだろう。
にしてもみんな、メイド喫茶か何かと勘違いしているんじゃないか? この場合はメイド喫茶ならぬモンス喫茶? なんか意外といけるかもしれん。
まてまて、今はそんなことを考えて現実逃避している場合じゃなかった。
「あーん。ちょっとカップが震えて危なっかしい感じがまた……」
「ここは天国なの……?」
「やばい、プリチー死にする」
どうする? 希望を聞いて、好きなモンスから渡してやるか? いやいや、それでもし選ばれる数に差が付いたらうちの子たちがかわいそうだ。
「おーい。みんな、戻って来い」
「ム?」
「フム?」
皆が一度戻ってくる。
「収拾つかんし、カップは俺が配るから――」
俺がうちの子たちからカップを受け取ろうとした、その瞬間だった。
「……」
「……」
ピタッと全員が黙った。仕込んでたんじゃないのって言うくらい、息があっているな。
皆がすがるような眼で俺を見ていた。その目は「俺からじゃなくてモンスからカップ渡されたい」と雄弁に訴えかけている。
お気に入りモンスからじゃなくても、俺なんぞから渡されるよりはマシってことなのかな?
「……じゃあ、みんな、やっぱりカップを配ってくれ」
「ヒム!」
「――♪」
「クックマ!」
もう騒ぎが起きることはなかった。粛々とした雰囲気の中、うちの子たちがカップを渡していく。
「そう言えば、一応カップもうちのヒムカが作ったんだ。使い心地を聞かせてもらえるとありがたい」
「ええ? このカップ、火精くんの手作り?」
アスカの叫びで、部屋が再びザワッとしたのが分かった。な、なんだなんだ? 皆が手元のカップを見つめているんだが。
「白銀メイドのカップ」
「ヒムカくんの手作り……」
ああ、もしかしてヒムカにもファンがいるのか? サラマンダーはヒムカと同時期にテイムした人も多かったから、そこまで珍しくもないと思うんだけどな。
連れている人は少ないだろうけど、ヒムカしか存在しない訳じゃない。サクラや初期のオルトのように、そこまで注目を浴びる程じゃないと思うんだが……。
ユニーク個体だからかね? そう言えば、ユニーク個体は少ないってどこかで聞いたかもしれん。だったら、そのユニークサラマンダーであるヒムカの手作り陶器は、多少は珍しがられるかもしれなかった。
「初めて作った試作品みたいな物だから、感想を聞きたいんだよ」
「わ、分かったわ」
「火精くんの初めて……ゴキュリ……」
「あと、これがお茶菓子だな」
「おお! 待ってました!」
「クッキー? 美味しそう!」
「こ、これが白銀メイドの料理か……。参加しなかったやつら、悔しがるだろうな!」
「いえーい!」
結構好評であるらしい。良かった。
料理プレイヤーたちはカボチャクッキーの形に驚いている。
「まさかランタンカボチャにこんな使い方があったとは」
「他の料理はどうなんだ?」
「安定した供給源を……」
やはりランタンカボチャの効果に驚いているようだった。テイマーたちはみな、テンション高めにクッキーをほおばっている。調子に乗った奴が、ライブカメラにクッキーを見せびらかしたりもしているな。
「リキューさん、見てるー?」
「白銀クッキー最高!」
リキューも見てるのか。考えてみたら、あいつがお茶会に参加しない訳がないか? いや、でも人見知りだって言ってたし、難しいのだろうか?
「リキューさん、あれで可愛い物好きだから絶対に悔しがるだろうね」
「リキューさん、今回は来るかどうかで迷ってたんだけど、生配信に出る勇気がないって参加取りやめしちゃったんだよ」
あー、なるほどね。




